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第四章
告げられた真相
しおりを挟む「エライアスさん!」
「朝日くん、久しぶりだね」
あれから朝日達はクリスに連れられて、森深い河のほとりの野営地へ向かった。
そこにはかなり雰囲気の変わったエライアスがいて、笑顔で朝日達を出迎えてくれた。
髭がぼうぼうで、高価そうな服は泥だらけ、ズボンの裾は擦り切れてボロボロ。腕や頬、脚首など皮膚が出ている場所には無数の切り傷ができているし、手の平はもう傷だらけで巻かれた布に血が滲んでいる。
貴族であるエライアスが意外にもテキパキと自ら火を起こし、取ってきた魚や木の実、キノコなどを調理するのでセシル達も感心してしまうほどに様変わりしていた。
「私は商人だからね。冒険者程ではないが、野営の経験もあるのだよ」
「僕、冒険者なのに何にも出来ないや」
あっけらかん、とそう言う朝日にエライアスはこれからだね、と言ってパチパチと音を立てている焚火に薪をくべるために木を手に取った。
「ただの切り株ですが、皆さんお座りください」
エライアスが作った焚火を皆んなで囲み、エライアスの身に一体何が起こったのか、その経緯を確認することになった。
エライアスは朝日と出会うもっと前に遡って話し始めた。
「私はとある筋からとある人物がフロンタニアに隣接する森に潜んでるのではないか、という情報を得て行商と評してその者の行方を追うため、フロンタニアにやって来ました」
「それが、魔法石の研究者…」
「えぇ。結局その時は彼の行方を掴む事は出来ませんでしたが、その過程で朝日くんと侯爵様が森で助けた人達の話しを聞きました。その中に目当ての人物がいたのではと思い、私は朝日くんに近づいたのです」
エライアスはその話しを頼りにその助けた人達の情報を得ようと朝日に近づいた。
しかし、朝日はその者について何も知らなく、エライアスの仕事は振り出しに戻った。
「その後、帝国で失踪事件が多発し、反皇帝派の仲間も失踪したと報告を受けた事から私も一度その失踪事件について調べるために帝国に戻ったのです」
不純な、とはではいかないまでも朝日から情報を聞き出そうと近づいた、と話すとエライアスはとても後悔しているように見えた。
エライアスがセシル達に情報を渡した時、“朝日を利用したくない”と何の取引もなく情報を流したのもそんな事情もあったのだろう。
「それから帝国に戻った私はその人物の足取りをもう一度一から調べ始めたのです」
そしてエライアスはあの魔法陣をセシル達と同じ方法で見つけ、そしてクリスと同じように転移してしまったのだそうだ。
エライアスが城に捕らえられていると分かったのはゼノに確認してもらった城の登城、下城記録のお陰で分かった。
登城記録には名前があったのにも関わらず、下城記録は残っていなかったからだった。
これに兵士達が疑問を持たない、と言うのはが少し気になるが。
「そしてこの森に来て私は確信しました。朝日くんと侯爵様が助けた人達の中に私の探していた人物がいると」
「貴方はその人を保護するために探しているのですか?それとも魔法石を作らせるためですか?」
セシルの刺さるような強く問い詰める言葉にエライアスは困ったように笑った。
「私達はずっと我が国の公爵家…グランジェイド家に反皇帝派に協力頂けるよう打診し続けていました…」
グランジェイド公爵家当主、フェナルスタ・オベル・グランジェイド。朝日がフェスタさんと呼ぶ、彼の事だ。
前にユリウスが話してくれたようにグランジェイド家は皇帝の次に高い地位を持つ絶対的な権力者で、唯一皇帝に対して物が言える人物でもある。
そんな彼の協力を得るためにエライアスはその研究者を探していた。
「その魔法石研究の第一人者、彼は私の友人で名をオルブレン・オベル・グランジェイド。グランジェイド家の次期当主なんです」
「オルブレン…って」
「朝日くんはオルブレンを知っているのですか?」
「わぁ、どうしよ!」
「…?」
今、城で何が起こっているのかは流石のエライアスでも知らないだろう。セシルは朝日の話しの補足のためにフェナルスタが条件付きではあるが協力をしてくれていること、セシル達が乗り込んだこと、ミュリアルを助け出したこと、聖剣の奪取に成功したこと、を掻い摘んで簡単に何があったのかを説明する。
「なるほど、グランジェイド家が我々の味方についてくれたのですね」
「えぇ。それで朝日君、何があったの?」
「あ、あのね…フェスタさんに僕、オルブレンさんの手記を預けちゃったんだ」
そして朝日もセシル達と別れた後のことを話す。
聖剣を見つけたこと、マントの後ろに隠れたこと、聖剣を奪取した時に一緒に手記も手に入れたこと、そしてその手記を書いた人物がオルブレンだったこと、その手記をフェナルスタに預からせて欲しいと言われたこと、を伝えた。
「それが問題なのかい?」
「…ううん。大丈夫だよ」
朝日が何かを考えているのはその場にいる誰が見ても一目瞭然だったが、まだ何も話が終わっていないこともあって話しの腰を折る訳にも行かず、お互いに目配せをして取り敢えず続けることになった。
「オルブレンはグランジェイド家の一人息子でして。その高貴な身分に劣らず、とても聡明で博識、その上剣の腕も確かで、品行構成で性格もよく、本当にとても出来た人間で将来を約束されていたのです」
友人としても鼻が高かったですよ、と語るエライアスはとても楽しそうに、懐かしそうに、話すのが楽しいと目を細めて笑う。
「皇帝から魔法石の開発、又はその代用品を開発する秘密の研究を任された、と教えてくれたのが今から10年も前の事。これが終われば公爵家を継ぐのだと語る彼を初めは私も祝福していましたが…彼は研究に明け暮れて段々家にも帰らなくなったのです」
家に帰って来なくなる前、研究が上手くいかない、と愚痴を溢すこともしばしばあったそう。
根を詰めているのではないかと様子を見に行きたくても秘密の研究だと言うこともあり何処で何をしているのかも教えられておらず、そのまま音信不通になったのだと言う。
それでもエライアスはきっと彼ならきっとやり遂げて戻ってくると信じていたのです、と視線を落とす。
「そして、一年前。あの大厄災が起こった時。城へ呼び出された公爵様は皇帝からオルブレンの死を伝えられたのです」
10年近く音信不通の息子、死んだと言われても信じきれないだろう。それは友人であるエライアスも同じで自身の情報網を駆使してやっと掴んだのが、フロンタニアでの目撃情報と朝日達だった。
「なので伯爵様。私はオルブレンに何もする気は無いのですよ。ただもう一度会って…何があったのかを聞きたい、それだけなのです」
それが彼の切実な願いなのだと小刻みに震える身体と声から伝わってきた。
オルブレンから話しが聞ければきっと、引っかかっていた全てのピースが揃い、何もかもが分かることだろう。
「僕、オルブレンさんの事…分かったかも」
「え?」
「何が分かったの?」
エライアスの話しからすると、多分オルブレンの行方は未だに何も分かっていないのだろう。
そんな中で発した朝日の一言。
皆んなが期待するのは当然のことだった。
「前にね、ゼノさんとフェスタさんのお屋敷に呼ばれたことがあるんだ。そのきっかけがね…」
そして朝日はフェナルスタの財布を拾い、その財布に子供の写真が大切にしまってあった話しをする。
その時感じた違和感。
それがオルブレンとその写真の子供が同一人物であると言う事だったのだと気づいたという事。
「エライアスさんが言う通り、ユリウスさんとあの洞窟に行った時に僕はオルブレンさんと会ったんだ」
「あの時の人たちは…」
「ロードアスターが家に送り届けたと聞いてる」
クリスは朝日を見下ろしながら淡々と言った。
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