スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
102 / 157
第四章

願いは叶えなくてはならない

しおりを挟む


「セシル」

 ユリウスがミュリアルとゾルを抱えて飛び去った後。ユピが辺りを見渡しながら可笑しそうにセシルを呼び止めた。
 精霊らしく草花、木々、蝶などと戯れる姿は美しく優雅で自由だった。自然が彼女に応えるように騒めく様は本当に神秘的で精霊という存在が実在しているのだと証明していた。

「セシル。これで分かったでしょ?これからは何があってもあの子のお願いは必ず叶えなくてはならないわよ」

「あの子とは?」

「勿論、朝日ちゃんのことよ」

 何の脈絡も無く話すユピが何を言いたいのかが全く分からないセシル。クリスや他の使用人達もユピの発言の意図が分からず、如何ゆうことかとユピに注目が集まる。

「ミュリアルはエサだったのよ」

「エサ…」

「本命はゾル。あの黒猫の方だったって事」

 ユピはゆっくりと生垣に近寄りながら彼らの疑問を少しずつ説明する。
 わざともどかしいぐらいに確信を言わないユピにセシルは慣れているが、クリス達にはただただ歯痒さを残す。

「この生垣、迷路のように入り組んでいたでしょ?これはね…あの子を縛り付けるための魔法陣になっているの。上から見たらきっと絶景よ」

「…」

「縛り付けると言っても身体じゃないわ。あの子の魔力自体をこの土地に縛り付けてるの。だから抜け出す事は容易だった」

「それは分かっている」

「抜け出さなかったのは此処から逃げても本当の意味では抜け出せないからよ。じわじわと生命を擦り減らされるだけ」

 生垣に生えた花を一輪もぎ取ってクシャクシャ辺りにばら撒く。風に乗って自由に飛んでいく花弁はそのまま森へと消えていった。

「セシル。この土地が今如何なっているのか。貴方、感じていないの?」

 ユピは地面を手を当てる。
 彼女は精霊。大地と共に生きる彼らは自然の声を直接聞く事ができる。彼女には一体どんな声が聞こえているのだろうか。
 セシル以外はユピの発言意味も真実も何も分からないからこそ、セシルの反応に注目が集まる。

「ユピ。具体的に言いなさい」

「だから、狙いはゾルなの。彼は大精霊で精霊界に五体しか存在しない頂点に君臨する存在。彼の魔力はミュリアルの比じゃないわ。全盛期の彼なら私なんて吐息を吐けば消せるような吐いて捨てれるゴミよ、ゴミ。そんな彼から下等生物に擬態せざるを得ないレベルまで絞り尽くした魔力は一体何処に行ったと思う?」

「…まさか!」

 セシルは腕に着けていたブレスレットを外し、しゃがみ込むとユピと同じく地面に手を当てて、耳を近づける。
 魔法陣の魔力が地脈を伝わり、魔力が集約されているであろう、場所を意識を向けると今にも破裂しそうな程の膨大な魔力の波がセシルに襲いかかる。
 そのあまりの衝撃にセシルの額には脂汗が滲むほどだった。

「見えたかしら?大精霊の魔力を吸い取ってこの地には信じられないほどの大きさの魔石が埋まっているわ」

「…ユピ様。妖精を殺すと世界の何処かに魔法石が生まれる、と言うのは迷信ではないと…そう、仰るのですか?」

「火のないところには煙は立たないわ。ただ何処かに、と言われている理由は簡単よ。精霊を殺した後、精霊はただの意識のない魔力の粒子となり、世界の一部となる。そして再びゆっくりと時間をかけて光が集まりまだ新たな精霊が生まれるの」

「精霊は死なない、という事なのですね」

 ジョシュの質問にユピは同意という様にゆっくりと頷きながらミュリアルがいた芝の上に座り込む。

「本当の意味ではそうね。そして産まれた場所には精霊に成るだけの魔力か集まっているから、それが結晶化し魔法石になる。途方もないほどの時間をかけてね」

「本当の意味では…?」

「えぇ。本当に殺す事も出来るわ。此処のように何らかの方法で吸い取った魔力の粒を何処かに集め留める事が出来れば世界の一部になれず精霊として生まれる事も出来なくなったしまうから」

「今回はその何らかの方法を使って魔法石を…作った…。研究は成功していたと言うことか…」

「そうね。それにこんな事が出来る者は限られてくるわね。精霊の事情に相当詳しいか、もしくは入れ知恵をした何者はいるでしょうね。本当に面倒くさい事しでかしてくれたわ」

「こんな事が出来る者…考えたくはないがエルフ…もしくは精霊自身から聞き出した、のいずれかという事になるのか」

「その辺は私には分からないけど、初めに言ったように朝日ちゃんの願いはきちんと叶えてあげなくてはならないわ」

 それと今回の件がどのように繋がるのか、相変わらず理解が出来ない一同は悠々自適にミュリアル姿を楽しむユピに説明を求める視線を送る。
 その視線に気付きながらもわざと気付かないふりをするユピと一同との均衡を崩したのはジョシュだった。

「朝日様の願いを叶えるのは当然の事だと思いますが、今回の件とどうか変わってくるのでしょうか」

「その質問はバカ正直で好きよ。そうね、答えを言うのは好きじゃないからヒントね。このままミュリアルを助け出さず死なせてしまっていたら確実に魔法石は完成していたわ。あのバカ大精霊はミュリアルがいなくなったら自ら魔力の粒になっただろうし」

「これがヒントなのか…?」

「ゾルは貴方達に機会をあげてたみたいだけど?私はそんな事しないわ。セシル、貴方はもう少し賢明な子だと思ってたのだけど?」

 みなまでは言わない、と大きな欠伸をするユピはどうでも良さそうにその場に大の字で寝そべった。
 その行動はただただ大胆で迂闊なだけなのに、自然が彼女に味方をするから神秘的な光景に感じてしまう。これが精霊という存在なのだろうか。

「そうそう。私はセシルと契約しているからセシル以外は私から魔力は奪えないの。私は此処でゆっくり待ってるからこっちの事は全く気にしなくて良いわよ」

 朝日がミュリアルと出会っていなければ当然セシル達が彼女の救出に関わる事はなかっただろう。
 このままミュリアルが死に、ゾルが後を追えば直ぐにでも魔法石が完成していたのだろう。
 そしてもし魔石が完成していたとしたら、この世界はどんな結末を迎えていただろうか。
 ことの顛末の行く末を案じるセシルとは裏腹に聞いてはいけないことを聞いてしまった、とクリスが後悔の念を述べる。

「俺らにこんな話し聞かせて大丈夫なのかよ。契約者でもないのによ」

「クリス、私貴方のことも好きよ。貴方はあの子の事よく分かってるみたいだから」

「俺が?」
 
「だから、もう一つだけヒント。セシルはあの子を巻き込みたくないと頑なだけどあの子がいなければ、魔法石が完成していたわ。そしてその魔法石は精霊の殺戮の為に使われていたのでしょうね。彼は私達全ての精霊の大恩人よ」

 ユピが頭を支える為に手を当ててクリスを見上げる。必死に頭を動かし右往左往するクリスが面白いのか、ニヤニヤと顔を歪ませながら観察している。

「あー、なんだ。…俺は考えるのは得意じゃねぇ」

「じゃあ、これまでの朝日ちゃんの行動を思い出してみなさい」

「…盗賊を出頭させて、病から街を救って、聖剣を見つけて…誘拐されて…?……朝日は良くも悪くもいつも何かのきっかけを作ってる…?」

「やっぱり貴方のこと好きよ」

 よく分からないヒントを残したまま早く次の仕事に迎えとばかりに手を振るユピはまだ何か隠している事はセシルには良く分かっていた。
 精霊と契約すると魔力の受け渡しが出来るようになり、考えや行動は縛らないが感情は伝わってくる。
 それが精霊と契約する、と言う本当の意味なのだ。



 



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...