スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
100 / 157
第四章

大胆な作戦

しおりを挟む


「首尾は上手く行ったかな?」

「うん、でも僕、すっごくドキドキした!」

「堂々としていれば怪しまれる事もありません」

「朝日様!とても勇敢で御座いました!」

 実はグレイズがクレアの引きずっていった時、朝日はグレイズの背中に隠れていた。
 兵士であるクレアが弱くていこうできなかったのではなく、朝日が近くにいるから特に逆らう事なく、グレイズについて行ったのだ。
 
 朝日はただ後ろに隠れていた訳ではない。おんぶ紐でグレイズの背に括り付けられてその身をマントの下に隠していた。
 しかし、いくら小柄とは言え成人した少年を背負いながら姿勢を崩さず歩くのは中々に難しい。彼が鍛錬を怠らず、努力の出来る人間であると証明することが出来ただろう。
 更に歩き方を一歩間違えればマントが翻り、朝日の姿が見えてしまう。歩くスピードを間違えてもマントが風に靡かず、マントの下に骨格が浮き出てしまい誰かが隠れている事を近衛騎士たちに悟られてしまう。
 一応、気休め程度にジョシュから預かった魔法石を握りしめてはいたが、最優秀の選ばれた騎士たちには通じないだろう。

「マントの端を持ち、絡まらないように見せかけたのは大変素晴らしかったと思います」

「君なら役者も目指せよう」

「役者さんって舞台に立つ人だよね!凄い!」

「朝日様は役者がお好きなのですか??」

「皆さん、ご冗談を…」

 風を切るようにふわっと翻されたマントは朝日のつま先ですら一切見せなかった。
 フェナルスタの冗談に狼狽える姿はさっきまでの彼とは別人かのように見えた。

「フェスタさん」

「なんだね、朝日くん」

「…朝日?」

「ミラト様じゃ…」

「あぁ、すまないね。君達はもう身内になったからつい油断をしてしまった」

 可笑しそうにでも貴族らしく上品に笑うフェナルスタは完全に確信犯のそれだった。
 特にグレイズは朝日をグランジョイド家のミラトだと思い込み、上手く公爵家に取り合ったと思っていたであろう。グレイズには中々の衝撃の真実である。
 一歩間違えば不敬に当たる行為とも取れたのだから。

「彼は朝日。ミラトではないのですよ」

「ミラト様じゃない…?」

「彼は私の友人の朝日くんだ。普段は冒険者をしている普通の男の子だよ」

 ただ、朝日との結婚を目論んでいるクレアにとっては良い話しに違いない。キラキラと余計に輝く瞳は朝日を見つめて離さない。

 フェナルスタが余計な話しをしないのも朝日を思っての事だ。
 朝日の名を二人に明かすことで朝日が彼らに貴族と偽りの名を使った、と言うことになり、それをフェナルスタが許容していたと言うことになる。
 それは先日の件でハッキリしてる。
 要はフェナルスタもまた罪を犯したことになる。
 だから二人が真実を話した事で朝日を訴えたとしても、彼らをどうにか出来るだけの力をフェナルスタが持っていると言うこと。
 見方によっては脅しているようにも見えるが、それもまた事実である。
 いくら身内になったとは言え、まだ信用していないと伝えてつつ、信用しようとしてる、と彼は行動で示し主人が誰であるかを彼らによく理解させる。
 ただこれは朝日にも迷惑のかかる事でもある。
 だから脅しをかけて彼らの視線や動揺にその心内を確かめ、今後彼らの扱いをどうするかを見極める為の行動だった。
 クレアは見極めるまでもなく朝日にゾッコンで目をハートにしているが、そのクレアを好いているグレイズの動向はフェナルスタとて確認しておきたかった。

「話しが逸れたね。朝日くん何だったかな」

「聖剣は取れたよ。金色なんだね?」

「ほう、他に何か見つけてしまったのかな?」

「うん」

 朝日はポシェットを漁り、何かを取り出す。
 何が出てくるのか、と興味深々の彼らの目の前に両手を差し出した朝日に視線が集まる。
 だが、その両手で差し出されていたのは想像もしていなかったものだった。

「本…ではないですね。どなたかの手記でしょうか?」

「見て?ここにね、オルブレンと書いてるの。多分ね、此処で魔法石の研究をしていたひとの一人だと思う」

「オルブレン?」

「…朝日くん。それを私に見せては貰えないだろうか」

「オルブレン…って…」

「朝日様、何故これをお持ちになられたのですか?」

 グレイズが何かに気付いたかのように呟き、それを潰すようにミルボノが話しに割り込む。朝日は手記を目にした途端に悲しげな表情になったフェナルスタに気が取られていて、グレイズの呟きは聞こえていなかった。

「これ、聖剣と同じ作りの凄く厳重な箱の中に入ってたんだ。部屋には他にも沢山お金とか宝石とか高価そうな物が沢山あったのに」

「…朝日くん。この手記は私に預からせては貰えないだろうか?」

「うん、良いよ」

「朝日様、これは今後に役立つものです。聖剣だけではなくこの手記まで…本当にありがとうございます」

 今はもういつも通りのフェナルスタだが、あの手記を見つめる悲しげな表情を見てしまった朝日はオルブレンとフェナルスタの間に何かあるのだと知ってしまった。
 ミルボノの反応を見てもそれは一目瞭然だった。
 でも朝日は彼の何かを隠そうとしている、もしくは庇い立てるような言動にそれ以上深掘りはしてはいけないのだと悟り口を閉ざす。

「閣下、質問宜しいでしょうか?」

「何かね」

「聖剣を手に入れた理由は何だったのでしょうか」

 余計なことを口走り、空気を重くしてしまったことを理解していたグレイズは勿論聞いておきたかったのもあるが話しを変えようと本題へ切り替える。
 
「ふむ、君達は家を継いでいないのだな」

「私も、彼女も騎士爵の家系では御座いますが、末子です。今後も家を継ぐことは御座いません」

「ならば知らなくても仕方がない」

 フェナルスタはミルボノに視線を送る。その視線の意味を理解したミルボノは小さく頷き、二人に視線を送った。
 ミルボノのその殺気も込められている鋭い視線に生唾を呑み、二人はミルボノから視線を晒すことも出来ない。兵士としてのプライドだけがどうにか二人の足を動かしていた。

「アレクサンドリアの秘宝…皇帝が代々受け継いできた聖剣。その名を《誓約の聖剣》と言う。アイルトン卿の持つ《決意の聖剣》と聖剣の丘にあった《裁断の聖剣》とは違い《誓約の聖剣》の役割は魔物を斬ることではない。アレクサンドリア一世はとても優れた統治者だったが、自身の血を信じ過ぎた。後の世も彼の子孫が彼と同じようにこの国を導いていくと信じていたのだ」

「皇帝は何かをしてしまったのですか…?」

「あの聖剣は我ら貴族を《誓約》で縛り付けている。決してこの国を裏切らないように聖剣に我々の祖先に誓わせたのだ」

 裏切らない。その言葉の意味が心の問題ではないことは二人にも分かった。その行動を意味しているのだと悟り言葉を詰まらせる。

「皇帝が《誓約の聖剣》を持っている限りこの国は内側から崩壊することは一切ない。そしてその偽りの忠臣達がいる限り、他国に滅ぼされることもない。そして私も閣下も縛られている」

「…!まさか継承式は!?」

「察しが良いですね。我々が聖剣を目視する機会は継承式以外にはない。あの時強制的に我々は聖剣に誓わさせられてる」

 二人は概要を理解したに過ぎないだろうが、これだけ国が乱れても反乱や謀反が起きなかった意味を頭では理解出来た。
 心が追いつかないのはこの話しを聞くまでは何も知らなかったとは言え、兵士として皇帝を仰いでいたからだ。

「…今後はどうなさるのですか」

「我々は聖剣を盗む、と言う大罪をしまったからね。国でも乗っ取らない限り、我々が生き残る術はないのだよ」

「…乗っ取る!?」

 咄嗟にグレイズが口を押さえるが、クレアの叫びはそのまま高い天井に響き渡る。
 今まで一兵士でしかなかった二人には全てが情報過多だった。

「そろそろ向こうも終わっている頃だろう。国の乗っ取りはまだ始まったばかりだ。皆、頼んだぞ」

「はい、閣下」

「僕も頑張るよ!」

「朝日様が頑張るのなら、私も全力を出します!お任せ下さい、閣下!」

「…俺、早まったかも」

 クレアの叫びよりも高らかに笑うフェナルスタにミルボノと朝日、クレアが答える中、グレイズだけが小さく後悔を述べるのだった。












しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...