スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
94 / 157
第四章

宝物庫の宝

しおりを挟む


「二人は此処で何をしていたのかな?」

「あのね。僕、欲しいものがあるんだ」

「朝日様!」

「大丈夫だよ!お友達だもん」

「大丈夫だ。例え朝日が此処で人を殺したとしても私が抹消することも厭わないよ」

「僕、誰も殺さないよ!」

 ぷくりと膨らんだ頬をフェナルスタが摘む。ぶぅと息が抜けると同時に音がなる。二人はニコニコと笑い合い本物の祖父と孫であるかのようで微笑ましい。
 ただ本気でフェナルスタがそれを言っているのならそれだけ権力があるというのを示す為に言ったのか、もしくは、ハイゼンベルク家の様にそういう事に手慣れた家なのだろうか。いずれにしてもかなりヤバい人物なのではないだろうか。とジョシュは一瞬の内に察して朝日の背後にピタリとくっついていた。

「お二人はいつお知り合いに?」

「フェスタさんとは王都の建国祭の時からの知り合いだよ」

「中々逢いに来てくれなかったね。大人になるのは諦めたのかな?」

「違うよ!今も頑張ってるところ!でも、ゼノさんがフェスタさんはフロンタニアの貴族じゃないって言ってたし、貴族様って色々忙しいでしょう?だから僕、フェスタさんからお手紙来るの待ってたの」

「なるほど、やっぱり彼は分かっていたんだね」

 フェナルスタの視線にジョシュは更に朝日に一歩近づき、警戒心を強める。
 フェナルスタの誘導で並び立って歩き出した二人の後ろをジョシュは距離を置かずに付いて歩く。

「僕ね、庭園のお友達を助ける為に此処に来たんだ。でもお友達が動けないって言うから動けるようにする為に探し物をしてるの」

「……なるほど、彼女を…。…それで彼は朝日くんの何かな?」

「ジョシュはね、僕のお手伝いさん!」

「お手伝いさん…?侍従のような解釈で良いかな?」

「はい……命に変えてもお守りすると誓っております」

 朝日には聞こえないように潜められた声にフェナルスタはコクリと頷く。それにしても隙のない男だ。細身の見た目からは分からないが、衣服の下は相当鍛え上げられているのだろう事は分かる。

「此処にいると言うことはやはり宝物庫に向かうのかな?」

「うん!」

「宝物庫の前には二人の警備兵がいる。それはどうするつもりかな?」

「そうなの?ジョシュ、どうしよう…」

 割と考えなしの行動だったのだと知ったフェナルスタは首を傾げる。
 警備兵がいるのは勿論だが、当然ながら扉には魔法石によって作られた強力な鍵も掛かっている。考えなしではとてもじゃないが何かを持ち出すことは出来ないだろう。
 だから、その解決方法を聞くのなら当然城内に詳しいであろう自分に聞くのが普通だとフェナルスタは思ったのだ。
 それなのにただの侍従であるジョシュに聞いた事に疑問を持った。それだけ彼を信用しているという表れなのか、もしくはフェナルスタに借りを作らないためなのか。
 仮に友達だとお互いに公言していたとしても貴族であるフェナルスタに直接聞くのとフェナルスタから提案するのでは全く意味合いが変わってくる。
 もし本当に後者なら冗談ではなく本当に朝日が欲しいとフェナルスタは笑った。

「宝物庫の目の前で30秒くらい時間が稼がれば良いの。どうにかならないかな?」

「…?それなら朝日は私の孫と言うことになっているから、名前を名乗って警備兵に道を聞くふりをしなさい。頃合いをみて宝物庫の前辺りで私が声を掛けるから」

「僕はミラトさんのふりをすれば良いの?」

「そうだね。そして彼らに飛びっきりの笑顔でお礼を言いなさい」

「お礼を言えば良いんだね!分かった!」

(一体何をするつもりなのか。この目で確かめる必要があるな…。もし本当に可能なら、あるいは…)

 別ルートに向かって歩いていくフェナルスタを笑顔で見送って二人は宝物庫に向かって歩き始める。
 今はフェナルスタの起点によって姿を隠す必要はないので、朝日は握っていた魔法石をポシェットにしまった。

 一つ目の角を曲がるとフェナルスタの言う通り重厚な扉の前に二人の兵士が長槍を持って立っていた。目の前から歩いてくる二人を捉えた兵は長槍をしっかりと握り込む。

「止まれ」

「ごめんなさい。僕、お城に初めて来て…お祖父様と逸れちゃったんだ…」

「貴方のお名前は?」

「僕、ミラト・チェイド・グランジェイドです」

「あぁ、グランジェイド家の…」

 二人は納得するように小さく頷く。
 フェナルスタの言う通りこの名前はかなり有効だったようだ。固かった表情が途端に柔らかくなった。

 まぁそうだろう。この国はとても小さい。貴族同士会ったことがないなどと言うことも少ないのだろう。だから見知らぬ者がいたら先程の皇太子同様に警戒してしまうのだ。

「大切なお役目中に大変申し訳ありませんが、私が辺りを見てきますのでミラト様を少しの間で良いのでお守り頂けませんでしょうか?」

「彼を見て置くぐらいなら引き受けよう」

「本当?ありがとう!」

 フェナルスタに言われた通りに二人に笑顔を向ける。特に反応は返ってこなかったが、お陰で少し時間を稼げそうだ。

「ミラト様はお身体が弱いと伺っておりました。社交の場にもいらっしゃった事もなかったと記憶しておりますが…」

「そうなんです。今日は少し調子が良くて、お祖父様に無理を言って連れてきて貰ったんです。でもお城がこんなに広いなんて…とっても驚きました」

「歳を重ねると体調が良くなる事もあると聞いた事がございます。グランジェイドは大公爵家ですから、ご回復は喜ばしい事で御座います」

 丁寧な口調に変えた二人に他人の名を騙っている少し申し訳なく思う。
 それでも、
 

「私はカルマンティア家のクレア・フィル・カルマンティアと申します。その…ご婚約者とか…」

「おい!仕事中だろうが!」

 首を傾げる朝日に申し訳ないと男性警備兵が謝る。クレアはとても美人でありながら兵士であり、その凛とした立ち姿からは高潔さを感じさせる。しかし、話すときに頬を赤らめて照れる様子は少し可愛らしくもある。

「あまり外に出ないから良くわからないんです。お祖父様に聞いてみないと…」

「そうですよね。…その、申し訳ありませんでした。お会い出来て光栄でした」

「僕も光栄でした。クレア様」

「あ、はい…」

 朝日にニッコリと微笑まれてクレアは顔全体を真っ赤に染める。

「ミラト」

「お祖父様!」

「近くにおいで出した」

「良かった…。クレア様…あの…」

「あ、私はソーサル家のグレイズ・ゴズ・ソーサルです」

「クレア様、ソーサル様。ありがとうございました」

 控えめに手を振る朝日に二人は仕事中だからか、相手が上級貴族だからか、手は振らずに会釈をする。
 朝日達が見えなくなるまで見送る。頬を赤らめたまま惚けるクレアを見てグレイズがため息をつく。
 確かに美しくはあったが、相手は大公爵家。騎士爵の家柄である二人には雲の上の存在だ。相手にされる訳がない。今回だってたまたま向こうから名乗ってくれたから会話をする事が出来たが、普段なら挨拶するのも烏滸がましい。

「軽く天使だった…」

「いや、確かグランジェイドの倅って十八歳だった筈だぞ?」

「あれで年上なの?私が守ってあげたいわ…」

「相手は大公爵だぞ!」

「最低でも伯爵位、団長レベルになれば可能性はあるわね」

「おま、…マジか…」

 女は守られたいんじゃねぇーのかよ、とボソッと漏らしたグレイスの言葉はクレアの耳には全く入ってきていなかった。


「フェナルスタさん!ありがとう!」

「お目当ての物が手に入ったのなら良いが…」

「うん!バッチリ!どれがどれだか分からなくて結局全部持ってきちゃったけど」

「金庫室の中身全部ですか…?」

「うん。あの金庫の中身は三つだけだったの」

 一体なにがどうなってあの金庫室の中身を知って手に入れたと言っているのか、フェナルスタには全く理解できていない。
 朝日が中身を手に入れたのがさも当たり前のような反応にフェナルスタはただ二人の会話を聞いていることしか出来ない。

「上手くいきそうですか?」

「この三つ何だけど…」

「猫様にお伺いするしかないですね」

「うん。ゾルのところに戻ろう」

 足早に金庫室から離れる三人はその足で庭園、別名皇帝の花園へ向かうのだった。












しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...