スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第四章

救世主

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「また来てくれて嬉しいザマス!この前のお礼をしたいザマス!これなんてどうザマス!」

「今日は美しい女性へのプレゼントなの!」

「まぁ!プレゼントザマス!任せて欲しいザマス!」

 朝日が抱っこする黒猫に店員だからは少し困ったような苦笑いが送られているが、興奮しているマダムは目にも入っていないようで、朝日と楽しげにドレスを選ぶ。

「動きやすいのがいいんだ」

「そなのね~。ならこれザマス!」

「いいね!でも、色素の薄い人だからもっと淡い感じの方が似合うかなぁ」

「なら、これザマス!」

「わぁ!凄く可愛い!」

 腕の中でぐでん、と疲れ切った猫の様子に段々恐れや恐怖よりも心配の方が強くなってきた彼らは朝日から猫をどうにかして引き離そうと右往左往し始める。

「靴も動きやすい方がいいザマス?」

「うん、これ可愛いかも」

「貴方、見る目があるザマス」

 それでも朝日はギュッと抱きしめたままで、首が閉まっているのではと店員達がオロオロし始めた。

「あの…」

「これも持ってくザマス!」

「ありがとう!」

「猫が…」

「こっちも必要ザマス」

「確かに」

「すみません、お客様…」

 全く気が付いていないのか、無視されているのか店員達はもう困り果てていた。

「まぁ!美しい黒猫ザマス!貴方にはこのリボンザマス!」

「ゾル、ミュリアルとお揃いだよ!」

「ん゛なぁ…」

「うん!可愛いよ!金貨で足りるかな?」

「いらないザマス!お礼なのザマス!それより、貴方も着替えるザマス!」

「え!僕は良いよ!」

「プレゼントするならば、貴方もそれなりの格好が必要ザマス!それもプレゼントするから遠慮はいらないザマス!」

「駄目だよ!商売なんだから!」

 そして喧嘩が始まり、店員達は呆れ果てていた。
 結局、朝日は店員の一人に金貨を目一杯無理矢理に握らせて全てをポシェットに滑り込ませて颯爽と店を後にした。
 走り去る朝日の後ろでマダムが叫んでいるが関係ない。時間は差し迫っているから。

「ゾル、他に必要なものある?」

「歩けなかった時の事は考えてるのか?」

「それがね、僕忘れてたんだけど」

「何を」

「前にゼノさんに言われて【テレポート】の巻物持たせて貰ってたんだ」

「何でそれを今頃思い出す!」

 それがあったのならもっと早くミュリアルを連れ出せたのでは、とゾルは怒りで毛を逆立てる。

「それが、あの場所では使えないみたいで」

「…何?使えないだと?」

「うん、多分足枷の他にも何か仕掛けがあると思う。だからそれにも解呪の効果が効けばと思って」

 ゾルは無理矢理に朝日の腕から抜け出て振り返る。

「我は先にミュリアルの元に戻って調べてくる。どうにかして城に来い」

「分かった」

 二人は別れて同じ目的の為に走り出した。


「朝日様、お待たせいたしました」

「大丈夫、行こう」

「はい」

 ジョシュが現れたのを確認した朝日は歩き出して、ジョシュは一歩後ろに控えて歩き出した。

「それで何を準備してたの?」

「城までは前回と同じように向かいます。私もご一緒出来る様にもう一つストーンを用意しました」

「城から出る方法は?」

「スクロールを5つ用意しました。城内の状況が分かりませんので、その他にも色々と準備致しました」

「ジョシュ。犠牲はいらないから」

「…かしこまりました」

 何か気づかれるようなことをしただろうか、とジョシュは自身を顧みる。もし何かあったら自身が囮となって二人を逃がそうとしていたことを悟られるとは全く思っていなかった。

「ジョシュも錬金術出来たんだね」

「私は才能がなく、簡単な物しか産み出せません」

「充分だよ」

 ジョシュ、もう何も言えなかった。
 確かに主人はとても優れた人だ。誰よりも優れた知識と能力、そして地位も名誉も全てを持っている。
 なのに、一見何も持っていない少年に主人よりも魅力を感じている。より優れた者に従属する喜びがこんなにも自身をゾクゾクさせるのだと知ったのだ。

 朝日に命令されるたびに、信用されるたびに、名前を呼ばれるたびに、気分が高揚して離れがたく感じる。常に側に在りたい、隣に並びたいと思ってしまう。
 そんな感覚、今までにあっただろうか。

「ジョシュ、乗るよ」

「はい、朝日様」

 朝日の何に可能性を見出したのか、と聞かれると何も気の利いた事は言えない。多分能力面や知識面はまだ主人の方が上だろう。
 だけど、目の前のこの少年がそれよりも上に存在なのだと何故か思ってしまう。思わされてしまう。

「ジョシュ、行くよ」

「はい」

 色々考えているうちにあっという間に皇城に着いていた。正門は空いていない。直接向かうのは難しいだろう。

「朝日様、此方へ」

「うん」

 朝日に与えられた少ない時間で出来ることはそんなに多くはなかった。
 ただそこがジョシュの腕の見せ所だった。朝日に能力を示し認められたいと石の錬成、スクロールの準備、城内の地図の入手、城内の下見、全てをこなし戻ってきた。

「抜け道です」

「ジョシュ流石だね」

 そんな簡単な褒め言葉もジョシュには最大の褒美だった。

「ミュリアル、ゾルお待たせ」

「朝日、これは解呪では無理なようだ」

「何が必要なの?」

「城の内部にミュリアルの力を貯めているコアがある。それがこの城の中にある内は離れられないようだ」

「分かった。ジョシュ目星は付く?」

「多分宝物庫かと」

「場所はわかる?」

「はい、頭の中に見取り図は叩き込んできました」

「二人は待ってて?」

「朝日…」

「ミュリアル、大丈夫だよ」

 朝日はその足でそのまま城へと歩を進めた。

 城の中は音が消えてしまったように静かで、何処か寒々しい。足音が響かないように歩きたいのにジョシュのようにはうまくいかない。
 真っ白い柱が何本も並び建ち、左右に庭園を望める空間も、屋根までの吹き抜けて神殿のように美しいホールも、沢山の絵画が飾られた廊下も、何もかも美しく見えない。

「…朝日、此方へ」

「…」

 前方から話しながら歩いてくる兵士に気が付いたジョシュが朝日を隠すように廊下の脇に寄る。気配を消していてもぶつかったり、音がしたりすると流石に気付かれてしまう。
 じっと待機してやり過ごす。
 少しずつ兵士や何やら貴族っぽい身なりの人達、書士、メイドなどが増えていき中々前に進まない。

「この先、突き当たりを右に曲がって更に突き当たりの部屋が宝物庫です」

「…あの人、僕達のこと見えてる」

 前から歩いてくる男はこれまですれ違った誰よりも身なりがいい。貴族だろうか、光沢のある濃紺の上着には沢山の勲章が誇らしげに輝いていて、彼が優れた人間なのだと主張している。
 そして明らかにあの角を曲がった初めから朝日と目が合っている。
 
「君、見たことない顔だが」

「こんにちは」

 そして遂に二人は声をかけられた。
 二人は一見すると坊っちゃんと侍従のように見えるだろう。変装とまでは行かないが、マダムポップに無理矢理着せられたお陰で服は貴族然としている。
 そしてこの状況で動揺も見せずにニッコリと可愛らしく微笑み挨拶をする朝日もまた貴族然としている。

「君は何処の家の子だっただろうか」

「これ、僕から自己紹介するところかな?」

「はい、朝日様」

「いや、失礼した。名前を聞いたこちらから名乗るのが筋だった。私はオーランド国皇太子、マルティヌス・チェイド・オーランドだ」

「初めまして、皇太子殿下」

「ミラト」

「あれ?フェス…」

「殿下、お久しぶりで御座います」

「この子は知り合いかな?」

「ミラト・オベル・グランジェイド。私の孫息子です」

「グランジェイドの…確か大変身体が弱いと聞いていたが…」

「えぇ、なので侍従を手放せません」

「成程、私を知らぬ訳だ」

 何やら勝手に話が進んで、勝手に納得してくれた皇太子、マルティヌスはうんうん、と唸りながら朝日を観察する。

「噂通り絶世の美男だな。妹が会ったら欲しがるだろう。気をつけなさい」

「殿下、この子はこの身体です。婿には出せません」

「確かに。もう18だと聞いていたから想像出来なんだ。此処まで小さいとはな…」

「殿下!お客様がお待ちですよ!」

「おっと、そうだった。私はこれで失礼するよ」

「声をかけて下さってありがとうございます」

「あぁ、また会おう」

 遠くから呼びかけられたメイドの元へ颯爽と歩いていく様はまさに皇子そのもの。威厳もあるが何処か優しげな雰囲気の彼に朝日はとても好感を持った。

「それで朝日くん。何故こんなところに?」

「フェスタさん!ありがとう!」

「お友達だからね。助けるのは当たり前だよ。だが、流石の私もヒヤヒヤしたよ」

「こちらの方は?」

「フェスタさん!前にお財布を拾ってお友達になったの!」

「どうも、フェナルスタ・オベル・グランジェイドと申します」

「とんだ失礼を申し訳ありません。グランジェイド家の御当主様」

 深々と跪きながら頭を下げるジョシュに朝日もそうした方が良いのかと思いゆっくりと体制を変える。しかし、フェナルスタに止められ、寧ろ朝日は優しく頭を撫でられていた。








 


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