スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第四章

ギルドの実態

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 ギルドの休憩室。
 頬を膨らませる女性職員と少し困った様子で話を聞く男性職員、そして無表情でその様子を見下ろすチェルシー。

「何なんですか!あの子は!ポーションをポンポン簡単に作ってるのに、少なくなってる依頼までどんどん増やして行くし!」

「いい事じゃないか。我々が困ってた事を解決してくれているのだから」

「そうですけど…。あれだけのポーションを作るための素材は何処から持ってきてるんですか??それにただのフンだと思ってた石が鉄よりも良いなんて…」

「んー、確かに新たな発見ではあるね」

「ですよね?その発見をしたのがうちの冒険者じゃないんですよ?上に報告しづらいじゃないですか!」

 チェルシーからすれば彼女が何に腹を立てているのかが全く分からない。
 彼が齎してくれる恵を有り難く思うことは当然であって、彼を貶したり、ムカついたりするは言い掛かりも甚だしい。
 チェルシーからすれば彼女の行動こそ逆に腹立たしく感じるくらいだった。

「貴方が彼の何に怒ってるのか私には全く分からないんですが」

「何にって、彼はうちの所属の冒険者じゃないじゃないですか!所属じゃないのに何でギルドで働いたり、依頼受けたりさせてるんですか?」

「まぁ、そうだね…」

「一体貴方達は何を言ってるの?」

「何って…」

 此処でチェルシーは初めて最近このギルドでの仕事が楽しく感じられない理由について理解した。
 彼女は幼い時からずっとこの無表情だったわけではない。活発だったり、好奇心旺盛ではないものの笑顔を絶やすことのない可愛らしい普通の女の子だった。
 それは大人になってからも同じだった。多少真面目すぎる所があるもののやり甲斐のある今の仕事は大好きだし、これからも続けていきたいと思っていた。
 しかし、ギルド長としての仕事をするようになってから気付かぬうちにだんだん、こうなって行ったのだ。

「貴方はギルドという場所をなんだと思っているのですか?まさか選ばれし者だけが席を置けるギルドだとか、そこで働いている自分は凄いだとか思っているのですか?」

「え?だってそうじゃありませんか?」

「此処はそういうところですよね?」

 あぁ、彼らと自分では考え方も捉え方も全く違うのか、そうチェルシーは思わざるを得なかった。

「ギルド職員規定第7条、ギルドは全ての冒険者に変わらず等しく察し、自身の利益を得る為に一部の者を特別に優遇してはならない」

「え?」

「ギルド規定第3条、ギルドは本部があるウルザボート、モマリン本部以外は皆等しく対等で優劣を付けてはならない」

「…」

「ギルド長規定第50条、ギルド長は職員に関する全ての事柄に関して責任を担う。よって雇用や解雇に関しても本部から一任されるものとする」

「お待ち下さい!私には妻と子供が…」

 チェルシーが何を言いたいのか、二人はそれを良く分かっていた。何故ならこの帝都にある冒険者ギルドウォーレン支部の現ギルド長はチェルシー・ブライアント、彼女だからだ。

「私の言った意味は分かりますね」

「「はい…」」

 此処近年、冒険者が増える一方で新人が全くいない事には特に疑問はなかった。何故なら帝国はこの大陸の中心にあり、どの国とも繋がっていて、尚且つ英雄が二人もいるギルドということもあり各国から依頼も多く集まり、そのどれものが高難易度のものばかりだったからだ。
 ただ、新人が全くいないことには多少の不安もあった。だからそれについて古くからの知り合いのギルド長にわざわざ手紙で相談したこともあった。
 彼のギルドにも新人が中々集まらず大変困っている、と返事を貰いチェルシーは安心してしまったのだ。

「新人が入らないのは…そういうことだったのですね」

「待ってください!新人が此処で上手くやっていける訳ないですよ!此処の冒険者は特にプライドが高くて新人イビリとかは普通です!その方が可哀想だと思いませんか?だから、周辺のギルドを紹介していただけなんです」

 彼女の言い分もわかる。
 冒険者が自分の身内以外に殊更冷たい事も、下の者であればあるほど見下す傾向にある事も、それによって若い芽を摘んでしまったり、命を落とす事も中にはある事も。
 だとしても規定違反は免れない。
 例えそれが親切心だったとしてもだ。

「それで何がどう分かったのですか?」

「え?」

「私がお二人の何に怒ってるのかを理解しておりますか」

「…?」

 チェルシーは初めて表情を崩す。表情が作れなくなってしまう程に彼らがあまりに不愉快だったからだ。

「解雇も覚悟しておいて下さい」

「あ、あの!規定を覚えずにいた事が悪いのは分かっているんです!しっかりと覚えるように入る時に言われたのも覚えています!」

「それで?」

「ただ、規定を知らないのは私達だけじゃありません!」

「だから?」

「だから…て」

「今幸い依頼が少なく、私一人でも仕事は回るでしょう。新たに人を雇うのもやぶさかではありませんが」

 二人は空いた口が塞がらず、ただただ去ろうとするチェルシーを見ていることしか出来なかった。

「チェルシーさん此処にいたんだ!」

「あら、朝日様。如何なさいましたか?」

「依頼の人沢山来てるよ!」

「あら、どうしましょう…」

 扉を開けた先で偶々通りがかった朝日に態とらしく芝居がかったように困ったような口調をするチェルシーだが、その表情は相変わらず無だった。

「あ、あの私が!」

「僕、手伝おうか?ポーション売るだけならできると思う!」

「ではお願いしましょうか。給金は弾みます」

「え?お給金出るの?どうしよう、僕自信無くなってきた…」

「なので私が!」

「仕事に見合った金額をお支払いしますので」

「仕事に見合った…なら頑張る!」

 必死に大声を出してアピールする二人を完全に無視して朝日の肩を抱いて休憩室を出て行くチェルシー。ゆっくりと閉まっていく扉に絶望感を抱くことしか出来ない。

「あの二人何か言ってなかった?」

「いいえ、話は終わっていたので問題はありません」

「そう…ならいいんだけど…」

「ポーション販売、お願いしますね」

「うん!」

 タッタッと走っていく朝日を見送ったチェルシーはクルリと振り返り、深々と頭を下げる。

「大変申し訳ありません」

「チェルシー、ギルド長が冒険者に頭を下げている所を見られたらまずいだろ?」

「しかし、私は貴方様からお役目を預からせて頂いているだけ。本当のギルド長はアイルトン様、貴方なのです」

「僕は冒険者を続けたい。君はギルド長をする才能がある。それで良いじゃないかな。ね?ゼノ?」

「あぁ」

 朝日が去ると同時に現れた二人。どんな言葉を二人に投げかけられようともに未だに頭を下げたままのチェルシー。

「でもね、気持ちは分かるけど解雇は駄目だ。ああいう奴らは根に持つんだから解雇したら余計に面倒な事になるよ?解雇は脅しの手段として使って手元に置いて監視しておく、それが正解かな?」

「お前は相変わらずチェルシーに面倒ごとを押し付けてんのか」

「いえ、ゼノ様。元はと言えば私の管理不足が原因なのです」

「まぁいい。それよりチェルシー、おおよそで良い。彼らが此処に入って来た時期を知りたい」

「あの二人ですか?確か、アイルトン様がギルド長に任命され、私が引き継ぐ少し前ニ年と八ヶ月前と記憶しておりますが、正確なお日にちが必要でしたでしょうか」

「十分だ。他にその前後に入って来た職員は?」

「他には4人ほどですね。今受付に立っている二人と資料室担当が一人、それから本日非番の一人です」

 アイルトンがゼノへ視線を向けると少し大きめのため息をついたゼノはそのままチェルシーの横を通り過ぎて受付へ向かっていく。アイルトンはそれを見て楽しそうに微笑むとチェルシーが出てきた部屋へと入っていく。
 何も言わずともお互いが何を考えているのか理解し合っていることにチェルシーは少しだけ羨ましく思う。
 二人が何をしようとしているのかはチェルシーには分からないが、彼女の返答によって何かが分かった、もしくは解決したのだと理解してゆっくり息を吐いた。








 



 
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