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第四章
解散の理由
しおりを挟む「…って事で、分かるわよね?」
「協力者が欲しい、と」
「えぇ、そうよ」
「何をすればいい」
「その前にこの国での貴方の立ち位置ってどの辺かしら」
協力者とはなかなか白々しいことを言ってくれる。元々他は当てになんてしていないのだろう。分かりきっているが、朝日の名前を出された時点でゼノには選択肢は一択しかない。
そもそもこの国に戻って来たのは朝日を助ける為で、彼らを説得するためではない。
ゼノが帝国に戻る決心をしたのは朝日のあの事件があったからではなく、とある手紙が届いたからだ。
ーーーゼノ、気をつけろ。相手は本気のようだ
以前より感じていた猛烈な殺意の視線。それを感じるようになったのはもう十年も前のことだ。
当時ゼノはまだ中堅クラスの冒険者で上に上がりきれず燻っていた。その頃のメンバーがギルバート、メイリーン、アイラ、そしてトアックとニューラスだった。
トアックとニューラスは元々二人でパーティーを組んでいたのだが、ある依頼の途中魔物に襲われトアックが怪我をし、それを助けたのがゼノ達だった。
その時の縁があり、後々にパーティーを組むことになった。二人は少し歳が離れていたがとても優秀でパーティーに足りなかった盾役と斥候を担ってくれ、それからゼノ達のパーティーは上り調子で功績を挙げていった。
しかし、パーティーを組んでから二年後。
突然トアックとニューラスはパーティーを抜けると言い出した。その頃は彼らのパーティーがもう少しで頂点に立てる、そんな時だった。
当然まだ活気盛んな若者だったゼノ達は猛反対し、彼らは翌朝夜逃げのように姿を消した。
その後当然パーティーのメンバーが抜けた事でギルドからも何か問題があったのではないか、名を上げるために二人から搾取でもしていたのではないか、不当な解雇ではないのか、と色々問いただされたがギルバートが何をしたのかは知らないが上手くその場を収めた。
沢山の困難はありつつも、従来の形に戻っただけだと、搾取などなかった、と証明する為に一心不乱に依頼をこなし続けた四人はその後アイラの弟、ジオルドを向かい入れ、更にパーティーとして大成する。
ゼノが名工キャッスルの黒刀を手にするのは頃で、そしてこの時から殺気が込められた鋭い視線が送られるようになった。
地位も名誉も金も手に入れた彼らだったが、この大陸全てを震撼させる事件が起こった。
魔戦争、と今はその出来事を話す者も居ないが当時はそう呼ばれていた。
その頃、とある依頼でフロンタニアにいたゼノ達一行は依頼の最中に森の異変に気がついた。
妙に静かで、なのに動物達は異常な行動をする。不自然な森の様子にゼノ達は依頼を途中にしてギルドへ報告に向かった。
ギルドは既にその状況を把握しており、近隣のみならず他国のギルドからも同じような報告が相次ぎ、森の立ち入りを完全に禁止すると決定した。
その頃は皆、また森に誰かが入り込み聖獣の住処を荒らしたのではないか、と歴史が繰り返されたのではないか、と随分と恐れられていたが、結局この時は何も起こることはなく、数週間後ギルドは森への規制を解除した。
ゼノ達も依頼を再開する為に当然森へ向かったが、森の様子は普段と何ら変わらなく杞憂だったか、と肩を撫で下ろした。
そして数ヶ月後、ゼノ達はそのとある大きな仕事を成し遂げオーランドへ戻ろうと準備も兼ねて軽い休息を取る事にした。
ゼノはそれなりに長くお世話になった、とオーランドに戻る事を伝えにギルドに向かうと中は騒然としていた。
何があったのか、とゼノが問い詰めると森が再び静まり返り、野生動物達が街まで逃げてきていると言う。
ゼノは日頃よく感じる不自然な殺気をこの時感じ、妙な胸騒ぎを覚えたゼノは直ぐに捕まったアイラとジオルド、メイリーンと共に森へ向かった。
ギルドでの説明通り静まり返った森は明らかに人を遠ざけるようなオーラを発し、熟練の冒険者である彼らでさえも森へ入ることを躊躇させた。
そして始まった。
魔物達の魔崩れ、狂化とも言う大侵攻が。
魔物達が示し合わせたかのように世界中で一気に始まった大侵攻は国レベルの戦力でも抑え込めず、戦線をジリジリと後退させるしかなかった。
当然ながら各国は帝国オーランドへ救援を要請した。そのための協定もしっかりと結ばれている。しかし、一気に起こった魔崩れにより、帝国でさえも自国を守りながら助けられるのは一ヶ国のみだった。
そして帝国が選択したのはアルメニアだった。
選択から外されたイングリードは兼ねてよりオーランドとは友好的な交流を続けていたが、それは表だけの話しで小さな小競り合いはかなり多かった。
アルメニアを救う表面的な理由は皇帝の実妹が王族に嫁いでいるからとかそんな内容だったが、イングリードにも公爵家にだが皇帝の従姉妹が嫁いでいたし、もっと言えばフロンタニアの先代国王の正妻は皇帝の叔母だ。
その後のことは想像に容易いだろう。
魔物の軍勢が押し寄せ、帝国の支援を受けアルメニアは英雄アイルトンに救われ、フロンタニアは偶々居合わせた英雄ゼノによって救われ、見捨てられたイングリードは滅びた。
合わせて説明しておくと、ウルザボードは自然豊かな土地で大きな山も海も恵み豊かだったが、それ故に魔物の被害も大きく、決して国と呼べるほど大きくはなかったウルザボードは一度滅びた後は帝国の支配下にあり、この時も帝国によって助けられている。
あの殺気を送ってきた相手が誰だかは未だに分からない。そしてこの殺気を送られていたのはゼノだけではなく、アイルトンも同じだった。
そこからアイルトンとの交流が始まった。
「まぁ、それなりに。その辺の貴族よりは上だろうな」
「そう。一年前の…あれと今回の事は全て何か繋がっていると主人は思っているの」
「目星はついてるのか」
「そうね、ある程度は」
「あの時、帝国はイングリードも助けられた。現にイングリードの公爵家に嫁いだ皇帝の従姉妹は無事だ。公爵家は無残な有様だったがな」
「だから主人も“片喰”はイングリードの者じゃないかと睨んでいる」
「睨んでる?確定じゃないのか」
「朝日くんみたいなこと言うのね」
ゼノはシナの揶揄うような物言いは聞こえてなかったかのように近くのベンチに腰掛け俯き、何か考えを纏めるように目を閉じた。
繋がりは何かないか。可笑しな点はないか。見落としているところは?誰が何を話していた?
「ウルザボードか」
「流石、察しが良いわね」
森へ向かった時、何故かギルバートだけ捕まらなかった。急いでいたのもあるが基本的にメイリーンが彼から離れることはない。自由行動の時なんかは特に。
そもそもフロンタニアへ向かう依頼を持ってきたのはギルバートだった。普段は全く依頼になど興味を示さない方だった。
「ギルバートは知っていたのよ。貴方のパーティー、いや、元パーティーかしらね。消えた二人の正体を」
「…」
「あら、二人のことを言ってるのだと思ったのだけど」
「俺は帝国を恨んでる奴を挙げただけだ。見捨てたイングリード、それ以前にウルザボードもそうだろう」
「貴方頭は回るのに余り周りが見えてないのね」
「何が言いたい」
「トアックとニューラス、二人のことを疑ってる」
トアックとニューラス。その言葉を聞いてゼノはピクリと小さく反応する。
「トアックはウルザボードの元王子よ」
「…知っている」
「そう、知ってたのね」
「俺が殺した」
「…殺した?」
ゼノの過ち。
これがゼノ達パーティーが解散するきっかけになり、ゼノ以外が冒険者を辞めた理由だ。
一年前の魔崩れの事はなんぼでも話せる。当然皇帝や大臣達にもあの時フロンタニアで何をしたのか、ことの成り行きは全て話している。
その過ち以外は。
「何があったの?」
「とにかく二人は死んだ。それだけだ」
「私達が知るのも時間の問題とは思わないの?」
「…あぁ」
墓まで持っていく覚悟がその表情に現れていた。
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