スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
78 / 157
第四章

深刻な問題

しおりを挟む


 ゼノと別れて宿屋に入った朝日。
 王都の宿ロカリノとはまた違った豪華さのある宿屋だった。
 客を出迎える豪華なエントランスには壁一面に隙間なく埋められた沢山の絵。豪華絢爛なシャンデリアから伸びた真っ赤な紐が天井を華やかにしている。踏むのが申し訳なく思うほどにフカフカな絨毯に施された美しい刺繍が更に踏むことを躊躇させる。

「…そうか、やはり状況は芳しくないな」

「どうにかして潜り込めれば良いんだが…」

「それは難しいだろ?俺ら顔割れてるし」

 朝日は真剣に話し込む三人に気付かれないように近くのソファーに座る。
 聞き耳を立てるのは良くないことだとは理解しているが、内容が内容だ。三人が付いてきた本当の理由が知りたかった。

「朝日くんお疲れ様」

「ユナさん!」

「朝日君?帰ってきてたんだね」

「おー、朝日おつかれ!遅かったな」

「うん!ちょっと別のお仕事してきたの」

「別の?」

 訝しげな表情をする三人にギルドに入ってからの出来事を掻い摘んで説明する。当然、彼らはいい子だと褒めてくれたが、先程まで三人でしていた話しが気になる朝日は心ここに在らずだった。

 夕食に向かうために着替えに向かう。
 高級宿ならではのドレスコードを守るためだ。

「なぁ、どこ見てあの双子見分けてんの?」

「どこ?全然違うよ。顔とか雰囲気とか声とか全部」

「いやいや、分からんから」

「セシルさんは分かるよね?」

「…私にも分かりません」

「えー?」

 朝日が言うにはユナの方が口角が上がっていて、瞳が少し明るく、虹彩のグラデーションがわかりやすいのだと言う。
 ただ説明を受けても見分けが付くはずもなく、後で二人が揃ったら見てみよう、と二人は思っていた。

「ねぇ、ユナさん達はどうやって来たの?」

「私とシナ、クロムは別の馬車で参りました」

「一緒に来れれば良かったね。そしたらもっと楽しかったのに」

「おっしゃる通りだわ」

 見た目はメイドと冒険者、という何とも奇妙な組み合わせだ。周りから変な目で見られるのも仕方がない。
 そもそもこの宿ベリンレルは高級宿でそんじゃそこらの人間が泊まれるような金額ではない。だから冒険者ぽい彼らが此処にいること自体が不思議がられることだった。

「お疲れ様です。ご主人様」

「「「お疲れ様でございます」」」

 部屋に入るなり四人の男が丁寧なお辞儀で出迎えてくれる。落ち着いた声でゆったりと話す彼らはユリウスの家の使用人とクリスの家の使用人達らしい。

「どちらになさいますか?」

「んー、僕何がいいのか全然分からない」

「では、此方は如何でしょう」

「うん。お任せするね」

「かしこまりました」

 朝日とそんなに変わらないか、少し下くらいの少年が朝日の身支度を手伝ってくれる。彼もまたとても落ち着いた雰囲気なのだが、何処か妖艶な雰囲気を持っている。
 完璧な立姿は人を寄せ付けないようにも見えるが隙があるようにも見えて、それがまた朝日の興味をそそった。

「僕、朝日って言います。お名前を聞いても?」

「はい。良く存じ上げておりますよ、朝日様。私はジョシュアノートと申します。皆にはジョシュと呼ばれております」

「ジョシュ。僕、気になってることがあるんだけど…」

「はい、何でしょう?」

 朝日は少し周りを確認して皆んなが各々着替えに集中している事を確認すると、ジョシュの耳元でコソコソ、と囁く。

「実は僕の冒険に一緒に来たいって言われたけど理由は聞いてなかったんだ。多分、僕がいると色々と言い訳がしやすくて都合が良かったんだと思うんだけど、理由についてジョシュは何か知ってる?」

「そうですね。私はただの執事見習いなので詳しいことは分かりかねますが、一つだけ。先程お三人でお話しされてたのはこの国の情勢についてです。供給不足について此処まで深刻だとは思われてなかったとおっしゃっておりました」

「そうなんだ。セシルさん達はオーランドが大変なことになってるって知ってたんだね。だからついて来たのかな?それともそれを調べる為に来たのかな?」

「それについてはこれからお話しされるのではないでしょうか?」

 自身を執事見習いだと自己紹介するジョシュだが、その振る舞いの完璧さはもうクロムにも引けを取らない。

「ジョシュはセシルさんのお家の執事でしょう?」

「何故お分かりに?」

「ジョシュもクロムさんとおんなじだから」

「?」

「足音がしないんだ」

「なるほど」

 ジョシュはふふふ、と小さく笑って朝日の首元のリボンを仕上げる。深いえんじ色の細めのリボンが控えめなフリルの襟元と深い紺色のスーツを上品に仕上げてくれている。

「苦しくはないでしょうか」

「うん、ジョシュ。頼みがあるんだ」

「はい。セシル様より朝日様の要望には全て答えるように仰せつかっておりますので、遠慮せずなんなりとお申し付けください」

「うん。じゃあ朝日って呼んで?」

「…それは少々難しくございます」

「そっか!お仕事だもんね」

「申し訳ありません」

 クロムなどの他の者には頑なに名前で呼ばれる事を望んだ朝日だったが、ジョシュにはそれを強要することはなかった。
 それは彼が彼らのように困惑や驚きの表情ではなく、完全な拒否反応だったからだ。

「準備は出来たかな?」

「うん!お腹すいたなぁ」

「此処の夕食は絶品だと有名でね。楽しみにして良いと思うよ」

「楽しみだなぁ!」

 そう言うとセシルの手を握って歩き出す。セシルもこうした朝日の振る舞いにだいぶ慣れて来たようで普通に握り返してくれる。
 その後ろをダラダラと歩くクリスと執事に何か指示を出すユリウスが歩く。

「皆んなは食べないの?」

「あぁ、ごめんね。使用人は後で別の物を食べるんだ。此処は貴族も良く利用するからね、使用人とは相席できない」

「そうなんだ」

 朝日も使用人という物の位置付けはよく理解しているはずだ。普段から着替えの手伝いなど特に気にすることなく受け入れているところを見ると相当慣れていると見受けられる。
 それでも名前の呼び方だったり、言葉遣いだったり、そうした場面で残念がったりと少し違った扱いを求めたりする。
 それがセシルには不思議でならなかった。

「本日は五種類からお選び頂けます」

「じゃあ、僕はこのお肉ので」

「じゃあ私も同じ物を」

「俺も」

「私も同じ物で」

「かしこまりました」

 肉料理は三種類、魚介系が二種類ずつあるようだがそれは基本的にメインでそれ以外の内容は殆ど同じだ。

「僕、お魚綺麗に食べる自信なくて」

「そんなこと気にしなくて良いのに」

「でも、此処内陸だし肉の方が美味いと思うぞ」

「確かに!クリスさん鋭いね!」

「だから、褒めるの辞めろって…」

 朝日と交流の少なかったクリスはまだ褒められ慣れてないようで、頭を乱暴に掻きながら眉間に皺を寄せる。
 そうしているうちに料理が次々と運ばれて来て良い香りを漂わせる。
 しかし、少し思っていたのと違う。

「…野菜クズみたいだな」

「クリス…」

「何だよ」

「珍しく意見が合いましたね」

 正直、期待していて良いと言うほどの料理ではない。添えられている野菜は切れ端のような物ばかりだし、メインであるはずの肉は細切れのようになっている。
 周りからも残念そうな声が上がる中、一部からは当然だと言うような声が上がっている。
 この最高級宿のレベルでこの料理なら、他ではとてもじゃないが食べられた物では無いのだろうと直ぐに理解した。

「まさか此処までとは」

「味も最悪だな」

 ウェイターがボトルを片手に歩き回ってはいるが、それに声をかける者はいない。
 当然だろう。美味しくない料理が出てくるなら当然お酒も美味しいわけがないからだ。

「あの、お兄さん」

「はい、御用でしょうか」

「食材を渡したらちゃんとした料理を作ってもらえますか?」

「食材を!?勿論でございます。我々もこんな物は出したくないのです。最近はシェフも自慢の腕が振るえず持て余しておりまして…。ですが、他のお客様の目がありますので…その、お部屋にお待ちする形でもよろしいでしょうか…」

「はい!それでお願いします。厨房にお邪魔しても?」

「えぇ、勿論でございます。シェフも喜ぶでしょう」

 ニコニコと微笑んでくれるウェイターに朝日も微笑み返した。









しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...