スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第四章

英雄

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「帝都に入ったら私は商業ギルドに向かいます」

「片道のお約束で申し訳ない」

「あぁ、気にされないで下さい。良い旅路でした」

 ユリウスは商人が行きよりも幸薄げになっていることに気がついたが、彼は商人だ。余計なことをすることのリスクもよく理解しているだろう。
 特に何か言うこともなく門前で四人は彼に別れを告げた。

「わぁ!凄く高い建物ばっかり!門よりも高いんだね!」

「建物は王城よりも高い建物は建てられないんだよ。王を見下ろすわけにはいかないからね」

「そうなんだ。此処はお城が高いところにあるから出来るんだね!」

 やっと辿り着いたオーランド帝国。帝都オーランドリア。小さな国だか、軍事力が国力も強い。常に流行の最先端を走り、次々に新しいものが生まれる発展した都市だ。

「お店も多いね!」

「朝日君はギルドに行くのではなかったかな?」

「うん!少し別行動だね!」

 朝日は依頼達成を帝都のギルドで行う。商人は此処に二週間も滞在するそうでそこまで長くいるつもりはなかったので依頼は往復ではなく片道だけだった。
 だから依頼料の低さは言わずもがな、帰りは自腹もしくは王都へ向かう商人の依頼が帝都で受けるしかなく余計に受ける人が少なかったのだという。

「クロム、頼むぞ」

「お任せを」

 セシル達と別れた朝日はその足で帝都のギルドに向かう。有難いことに帝国のギルドは恐ろしく目立つ。建物の高さはさることながら、その見た目が派手なのだ。
 一面ガラス張りの外観と金や銀を使った目がチカチカするような装飾。本当に煌びやかだ。

「お次の方どうぞ」

「依頼達成確認をお願いします」

「はい…お帰りの依頼はもうお決まりですか?」

「いえ!でも、こっちで会いたい人がいるのでその人と会うまでは受けるつもりないです!」

「そうでしたか。もし依頼でお困りでしたら受付までお越しください」

「ありがとうございます」

 他国のギルドだからと言うのもあるが、初めて他のギルドに来たからこそ何となくお行儀を良くしてしまう。
 ダメだと分かっていても何となくそうしてしまっていた朝日に後ろから嫌な声が聞こえてくる。

「何だ、ガキ!終わったんならとっととどけろ!邪魔なんだよ!」

「お兄さん、怪我してるね」

「あぁ?こんな傷、怪我でも何でもねぇよ!」

「邪魔しちゃったお詫びにこれ使ってください」

 朝日は横柄な態度のスキンヘッドの男に笑顔で青色ポーションを差し出す。当然これは朝日が拵えたものだ。
 ララットに合格を貰えたので張り切って作りすぎてしまっていたものだ。

「…青?良いのか?」

「うん!いいよ!」

「あ、青だぞ?」

「うん?青だよ?」

 青ポーションは珍しいとかそう言うわけではなく、単純に割高なポーションだったりする。
 効果は緑ポーションと同じく傷を癒すのだが、緑は副作用として痛みが伴うが安く、青は副作用がなく、何よりとてもジュースのようでとても飲みやすい。
 スキンヘッドの男は朝日の気が変わらないうちに、と一気にポーションを飲み干す。

「あー、その…何だ。悪かったな」

「いいよ!僕お薬いっぱい持ってるから!」

「…まだたくさんあるのか?」

「あるよ?」

「か、金なら出す!多少高くてもいい!10本、いや20本融通してくれ!」

「お、おい!俺も!俺にもくれ!」

「わたしにもお願い!20本金貨2枚で!」

 何やら大騒ぎになってしまった中心にいる朝日はニコニコと笑顔だがどうしたらいいのかわからず、ただ佇む。

「おーい、こらこらお前ら。少年が可哀想だろ?静かにしないか!」

「…アイルトン」

「少年、名前は?」

「僕、朝日!」

「こんにちは朝日。俺はアイルトン。君は冒険者だろ?」

「うん!」

 優しげな表情の男。
 金髪碧眼で凛々しい顔立ちは良い意味で目立つ。彼の声が響くと瞬く間に冒険者達は道を譲り、彼は足元まである長めのマントを翻しながら颯爽と朝日の目の前に現れる。

「実は今帝都はポーション不足でね。緑ポーションですら中々出回らない状態なんだ。だから君がポーションを持っているというのなら是非譲って貰いたいんだけど、君は今どのくらいのポーションを持ってるのかな?」

「青でいいの?」

「あぁ。青でも緑でも何でもいいさ」

「うんとね、ポーションだけなら1000本くらいかな?」

「「「「「…」」」」」

「あ!足りないよね。うーんと、一日頑張れば大体500は作れるんだけど…」

「あぁ、材料が足りないんだね」

「うんん。材料は全然あるんだ。でも、僕帝都には人探しに来てて…作ってあげたいんだけど…」

 アイルトンは可笑しそうに声を出して笑う。

「聞いたか!救世主が人を探してる!皆んな協力出来るな!」

「いいの?」

「あぁ、勿論だ!寧ろその探し人に俺らは感謝しないとな!」

「ゼノさんに感謝するの?」

「…ゼノ?ゼノって、黒い大きな剣を背中に背負ったゼノか?」

「うん!そのゼノさん!」

「ハハハ!みんな聞いたか!ゼノだとよ!今日はゼノに1人一杯エールを奢るぞ!」

「「「「「イェーイ!!!」」」」」

 大盛り上がりのギルド。
 そんな中アイルトンは人知れず朝日をギルドの応接室へ誘導する。

「ここを使ってくれて構わない。掃除もギルドの職員に任せるから気にせず散らかしてしまっておくれ」

「うん、でも散らかさないよ!」

「良い子だね。ゼノは責任を持って私たちが連れてくるから安心して作業してくれたまえ」

「うん!」

 朝日は早速作業のためにソファーに座る。
 良いソファーなのだろう、少し沈みすぎる感はあるが、包み込まれるようでなんだか落ち着く。

「失礼します。お茶のご用意をさせて頂きました」

「チェルシー丁度良かった。彼のサポートをお願いしても良いかな?」

「お任せ下さい」

「受付のお姉さん?」

「私のことはチェルシーとお呼びください」

「うん」

 アイラやラッサーナが朝日の中でのギルド受付のイメージだったので、かっちりとした雰囲気の彼女に朝日はあまり気にしないように作業を始める。

「チェルシー。ここに私以外の者が来ても通さないように。今やポーションは貴重品だ。彼が危険に合わないように気にかけてくれ。それからポーションの販売価格を決めておいてくれ。転売屋が出てこないようにその辺もよろしく頼む」

「かしこまりました」

「じゃあ、朝日。無理しない程度に頼むよ。とりあえず1000個あれば問題ないけど供給量が多ければそれだけ転売屋も売り上げにならないからね」

「分かった!」

「朝日様、お手伝いします」

 丁寧な所作、びっしりと整えられた黒い髪。ハッキリとした目鼻立ち、きっちりとした話し方。彼女は何処かユリウスを思い出させる。

「チェルシーも薬草に詳しいの?」

「いえ、私は全然。ただ少し物覚えが良い方なので簡単なことならお手伝いできるかと」

「分かった!じゃあチェルシーはこの木の実の種をナイフでこんな風に割ってくれる?」

「かしこまりました」

 黙々と作業をこなしていく2人。時折質問や手順の説明をするがそれ以外には特に会話はない。
 彼女が言うように本当に物覚えがよく、更に手先も器用で要領も良い。
 もしかしたら彼女は一人でも疲れてしまうのではないかと朝日はさり気なく次々とやり方を教えていく。

「チェルシー。次はね、煮立たないくらいの火で熱しながら混ぜてて欲しい。僕、その間に次の実を解しておくから」

「かしこまりました」

 いい頃合いになったら状態を確認する。

「これで完成です!瓶に移し替えれば20本分くらいになるよ!」

「…少し伺っても?」

「なに?」

 躊躇するようにチェルシーは少し俯く。
 彼女とは出会って間もないが、凛とした雰囲気を持つの彼女の行動としてはあまりらしくない。

「その、こういったレシピはその薬師一人一人の秘伝だったりします。それをこうもあっさりと…」

「アイルトンさんはそのつもりだったと思うけど」

「あ…分かってらっしゃったのですね」

「だってあまり信用して貰えてなかったみたいだし」

「…その、アイルトン様を責めないであげて下さい。最近人間不信になってしまう出来事が続き…誰であっても疑ってかかるようになられてしまったのです。…しかし!元々の彼はそんな人ではありません!とても優秀で…その、少々女性関係は…アレですが、依頼にはとても真面目な方なのです」

「僕気にしてないよ。チェルシーが作る分には僕の弟子って事になっちゃうんだろうけど!」

「いえ、辞めておきます。アイルトン様には私からお伝えしますのでご心配なく」

「そっか…残念」

「残念?」

「弟子が出来たら嬉しいなって!」

「貴方は優しすぎます」

「そうかな?」

 二人の慎ましい笑い声がその小さな部屋に響いていた。










 
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