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第四章

再会

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 ポーション作りがひと段落し、チェルシーと軽い会話が始まった頃。

「調子はどうかな?」

「うん!チェルシーさんが手伝ってくれたから700本は出来たよ!」

「ふふふ、そうか。どうだろう、君もここの所属になると言うのは」

「ごめんなさい。僕ね、ゼノさんのこと大好きだけど、向こうにもたくさん大好きな人がいるんだ」

 アイルトンは朝日の隣に豪快に座り込むと朝日の背もたれに腕を回し囲うようにして囁く。

「残念だ!君が女の子なら僕の誘いを断らなかったのだろうに」

「そうなのかな?」

「あぁ、そうだろうとも。私に声をかけられて靡かない女は少ない」

「そうなんだ。チェルシーさんは?」

「おっと、チェルシーはその珍しい女の一人さ。だから信用できる」

 目の色が変わったアイルトンは朝日によく分からない笑みを向ける。

「あ、そう言えば一つ気になってたことがあるんだけど」

「なにかな?」

「どうして帝都はポーション不足になったの?」

 アイルトンはチェルシーに目を向けてチェルシーはゆっくりと首を振る。

「そうか…まぁ、いい。実はね、この国は少し特殊でね。国土が狭い分色んなものを魔法石を使って代用している。例えば作物。通常一年で育つ作物も魔法石を使えば一ヶ月で育つ。ポーションも同じでね。ポーションに必要な材料、素材、道具、様々な物を魔法石で補っていたのだが、ある日急に魔法石の供給がストップした」

「ストップ…?」

「元々魔法石は有限の資源でね。だからこそ、この国はそれの代用品、もしくは魔法石を生み出す研究を長年莫大な費用をかけて行っていたのだが、その研究の第一人者が消えた。そして、魔法石が無くなることを恐れた皇帝は自身が使うために市井への供給をストップさせたのさ」

「でも…そんな事したら…」

「あぁ、当然大混乱が起こった。我々は魔法石に頼り切った生活をしていたからね。元々の作り方を知らない」

 当然の事だろう。
 魔法石で楽に色んな物を作り出せていたが、一度その恩恵がなくなると反動で全く国が機能しなくなったのだ。
 その結果、ポーション然り、それ以外の物も外から入ってくる物を頼りにするしかなくなり、自然と供給ストップ、もしくは供給不足によって色んなものの価格が高騰しているのだ。

「他には何が足りないの?」

「そうだな、ポーションもそうだがやはり食べ物だろうか。食べないと死んでしまうからいくら高くとも買うしかない。後はそうだな、武器や防具など衣類関係と灯や水などの生活必需品はかなり逼迫している。ただ、ひとつ言えるのはこの国の人間はお金は有り余るほど持っている。だから、値段が上がるくらいの問題であるうちは被害は最小限とも言える」

「供給量が増えてもすぐに慢性化してしまうから僕にここにいて欲しいんだね」

「小さいのに君は中々に頭がいい」

「僕、16歳だよ?」

「それは失礼した」

 謝りながらもチクチクと刺さる全身を舐め回すなような視線は疑いの色を隠さない。

「そう言う事ならチェルシーさん、本当に弟子になっちゃう?」

「…その、さんはやめて頂きたいのですが」

「だって、弟子じゃないのに年上の女性を呼び捨てなんて出来ないよ」

「とてもありがたいお話しですが、私は貴方を騙して利益を得ようとした自分が許せないのです」

「僕は初めから知ってたから騙したことにならないんじゃない?」

「へ?」

「そうでしょう?僕は気付いてたんだから」

「…いや、朝日。チェルシーの言う通り辞めておこう。私はこれでも英雄と呼ばれていてね。英雄である私が国のためとは言え幼気な少年から騙し取るなんていうのは体裁が良くない」

 アイルトンは少し困ったような笑みを浮かべつつ、申し訳なさそうに視線を下げる。それが彼の正直な気持ちで、本当はこんな事やりたくなかったのだと朝日にはわかった。
 
「呼んだか、アイルトン」

「あぁ~、我が友よ!待っていたよ!」

 部屋の中に入って来た男女六人皆んなとても真剣な表情をしている。

「ゼノ、君のお客さんだ」

「あぁ?……朝日!」

「朝日だって!?アイルトン!そいつをこっちに連れてこい!!八つ裂きにしてや……らないわ」

「おいごら!クソガキ!ぶっ潰す……訳ないよ」

「…え、これが朝日?」

「ハハハ!ゼノウケる!マジやばいわ!」

「…」

 一斉にかけられた声にキョトン、と立ちすくむ朝日を見てゼノは小さくため息をついて近寄ってくる。
 朝日はそれに更に怖くなり、チェルシーの後ろに隠れる。

「どうした。こっち来い」

「ゼノさん怒ってる」

「怒ってない」

「絶対怒ってる」

「絶対怒ってない」

 チェルシーと無言の男を除いて、応接室にいる全員が2人のやり取りをニヤニヤといやらしい顔で見ている。
 ゼノが見たこともないくらいに優しい声色で朝日に声を掛け続けているからだ。

「あー、ゼノ。彼がポーションを作ってくれるそうでね。皆んなが君にエールを奢るそうだ!」

「アイルトン…テメェ、朝日に強要したんじゃないだろうな?」

「そんなことを私がする訳がない!彼は自らやると言ってくれたんだ」

「そうなのか、朝日」

「うん。僕、そういうのしか出来ないし」

 ゼノは少し俯きながら言う朝日の両手を取り、まるで子供をあやすかのように優しく揺らす。

「ここまではどうやって来たんだ」

「僕ね、ゼノさんに会えなくて寂しくて、お仕事出来なくなって。それなら会いに行っておいでってラッサーナさんが帝都に行く依頼を教えてくれたの」

「アイルトン、まずはコイツに飯食わせる」

「勿論いいとも!明日になろうが明後日になろうが変わらないからね」

「僕、ゼノさんにお土産あるの!」

「お土産?」

 朝日は皆んなが見つめる中、目の前のローテーブルへポシェットから取り出した様々な料理を並べていく。
 当然そのどれもが誰も見たことのないものばかりで、全員の興味をそそる。

「…ヤッベェ匂いだな」

「…え、これなんて言う料理?」

「わたし、チーズに目がないのよ!」

「エール、エールが飲みてぇ」

「…」

「僕が作ったの!美味しいって言って貰ったからゼノさんの分も取っておいたの!」

「ありがとな」

「うん!」

 ゼノは朝日の手を引き自身がソファーに座ると足の間に朝日も座らせる。
 今にも涎れを垂らしそうにしている四人と終始無言の男を尻目に全ての料理をひと口ずつ食べていく。

「俺はこれが好きだな」

「ゼノさんはやっぱりお肉だね!」

「でも、これも美味い」

「あ!これねラムラさんに“ケチャップ”譲ってもらったから作ってみたんだ!“ポークチャップ”美味しいでしょ?」

 まるで他が見えていないかのようにイチャつく2人に口をあんぐりと開けて見ていた女が盛大に机を叩きつけてゼノに抗議する。

「…ねぇ、少しは私たちにも分けようとか思わないわけ!?」

「思わねぇ」

「はぁ!?今まで散々あんたの我儘聞いてあげてきた私たちへの感謝もないの!?」

「無いな」

「ゼノさん、ありがとうは大切だよ?」

「リューリューありがとうな」

「わ!気持ち悪い!」

 彼女は小刻みに体を揺らし自身の両腕をさする。
 そして、隣に座っていた女性に腕に出た鳥肌を見せつける。

「みんなも食べたい?まだまだあるよ!」

「あ!私このチーズのやつ!」

「俺はこの中のやつな!」

「私麺類に目がないのよ!」

「何か甘いもんとかある?」

「あるよ!」

 四人が思い思いに行動する中、未だに口を開かない男。彼は終始朝日を睨みつけている。

「お前ら、遠慮と言う言葉を知らないのか?」

「知ってたらとっくにのたれ死んでるわよ」

「そうそう!俺らから図々しさをとったら何にも残らねぇよ!」

 どうしようもない発言をする彼らに呆れたと、言わんばかりにため息をつきながら朝日の料理を一人ゆっくりと楽しむ。

「ゼノ」

「なんだ」

「僕はまだ何も許していない。パーティーを抜ける理由が彼だというのなら僕はみんなと違って優しくないからね。排除も厭わない」

「俺がお前を全力で叩き潰すとしてもか?」

 急に始まった二人の喧嘩は室内を途端に険悪なムードに変える。
 決して視線を晒さない二人だが、いつ手が出てもおかしくない状態になっている。
 そんな二人の様子も気にならないのかメンバーたちは朝日の料理に集中しているし、アイルトンは優雅に紅茶を啜りながら成り行きを笑顔で見守っていた。
























 
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