スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第三章

閑話 好きな人

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「お!朝日!…って妙に静かだな」

「ラルクさん……とラッサーナさん」

 とある日の朝。
 ギルドへ向かう途中、やけに明るい声が朝日に声をかけた。

 とても仲慎ましい二人の様子に朝日もニコニコと笑顔で答えるが、やはりいつものような元気はない。

「良いのよ。もう隠すのはやめたから」

「そうなんだ!その方がいいと思うよ」

 ギルド職員と冒険者の恋愛については色々と規制がある。
 ギルド職員が冒険者に有利な依頼を取っておいたり、危ない仕事をする冒険者を心配する余り、仕事に手が付かない人がいたらしい。

「本当に良かったよ、ギルマスに認められて」

「うん!二人ともおめでとう!」

 相当に大変だったのだろうが、そんな事はおくびにも出さず、寧ろ何にもなかったかのように腕を組んで歩く二人をお祝いする。

「んで、朝日は何してたんだ?」

「買い物に行くの」

「何買うんだ?」

「特に決まってない」

 顔を突き合わせて首を傾げる二人は当然のように息が合っている。
 最近朝日が依頼を受けていないという事は騒ぎまくるアイラのお陰で冒険者達の間では周知の事実。
 ただ、それでも薬草などの納品依頼はたまにこなしているところを見ると冒険者を辞める気はないのだと特に問いただす事はしなかった。
 とぼとぼ、と目的のない歩みを進める朝日に何となくほっとけなくて二人は後ろを着いて歩く。

「ねぇ、朝日くん。悩んでることがあるならお姉さんとお兄さんに言ってみない?」

「うん。なんか最近モヤモヤしてて…依頼も頑張りたいと思っているんだけど、ギルドに着いたらまたモヤモヤして、やる気が無くなっちゃうんだ」

「…それって恋の悩みか?」

「ラルク!そんな適当なこと言わないの!」

「いや、モヤモヤって聞いたらそれしか思い浮かばないだろ?れ

「恋?これって恋なの?」

「じゃあ、俺とラッサーナの話を少ししてやろうかな…あれは…」

「おぉ、お前ら認められて早速…って朝日もいたのか」

 後ろから手を挙げて颯爽と現れたのはもみあげまで繋がったしっかりとした髭を蓄えた中年の男、ガッド。

「ガッド…貴方、わざわざ見に来たのね?」

「バレたか。モーリーが見て来いって言うから仕方がなくだ」

「まぁ、いいわ。モーリーさんには散々心配かけたから…ありがとうと伝えておいて?」

「ガッドさん!モーリーさん元気?」

「あぁ、朝日のお陰でな。お前が身体を張ってくれていなかったらモーリーはもう妖精だっただろうな」

 この世界では死んだ人は妖精になると言われている。不思議なことに本当に会いに来てくれたりもするらしい。
 朝日はまだ見た事はないが。

「朝日にはみんな感謝してるんだ。勿論薬のこともそうだが、冒険者の命であるポーションだったり、ゼノの剣を見つけてくれたり…俺たちはお前に助けられてばかりだ」

「全然、僕はそんな事しか出来ないから。強い魔物を倒す為に毎日命懸けのみんなの方が凄いよ」

「…まぁ、お前もいつか俺らみたいに好きな人が出来たら考え方も変わるかもな」

「僕、みんなの事大好きだよ!」

「もー、朝日くん。そう言ってもらえるのはとっても嬉しいんだけども、そう言うのじゃなくてね?ほら、その中でもこの人と一緒に居たいとか、この人には毎日会いたいとか、この人居ないと頑張れないとか、あるじゃない?」

「うん…僕、ゼノさんに会えなくて本当に寂しいの。アイラさんにいつも帰ってきたか聞くんだけどもその度にモヤモヤして…」

「「「あ…。うん(((アイラ、ご愁傷様…)))」」」

 アイラの必死のアプローチも虚しく朝日には何も届いていないと知った三人は苦笑いをする。

「そうだ!朝日くん!それならオーランド帝国への依頼受けるのはどう?サプライズにもなるし!」

「あれかー。あんまり割りのいい仕事じゃなかったから行きたがるは奴少ないと思ってたけど朝日が行くなら安心だな。あの兄さん良い人なんだけど、少しケチでさ」

「依頼…サプライズ…」

「良いんじゃねぇか?ゼノも驚いて喜ぶだろうよ」

「うん!僕、ゼノさんに会いに行く!」

「じゃあ、ギルドに行って依頼取ってこないとね」

「うん!僕行ってくる!」

「長旅だからな!食料とか準備も忘れんじゃねーぞ!」

「気をつけて行ってこい!」

「ありがとう!」




「食べ物は干し肉とかだと思ってたんだけど…セシルさんがお皿とかカトラリーとか言うって事は、やっぱりキャンプに近いのかな?」

 オーランド帝国への積荷の手伝い依頼を受けた朝日はとある雑貨屋にて商品を物色中だった。
 ラルクに言われた通り長旅の準備を整えるためだ。もしかしたら、依頼中にキャンプが出来るのではないか、とそれっぽい道具も揃えようとしているのだ。
 だが、あいにく朝日にはキャンプの知識は全くなく、前回の指名依頼でやった野宿を思い出しながら何が必要か、何があったら快適かを考える。

「ジオルドさん、これフライパン?」

「なんだぁ?その、ふらいぱん、ってのは。これは鉄鍋だ。かなり重いからあまり売れないんだよな」

「じゃあ、これ僕が買う!」

「一個でいいか?奥にもまだあるぞ」

 クイクイ、と自身が座る椅子の後ろを指差して、不良在庫を売ってしまおうとニコニコと嬉しそうに言う。

「ユリウスさんにセシルさんでしょ?クリスさんも来るって言ってたし、依頼人のお兄さんも、だから6個にしようかな!」

「ん?一個多いが良いのか?」

「一つは調理用だよ!」

「いくら小さいからってお前にこの重さの鍋が振れるのか?」

「振らないよ?炒めるだけ!」

 一体6個もの重い鉄鍋どう使うのか、と疑問には思うが、全く動くことがなかった在庫が無くなるからと敢えて突っ込みはしない。
 朝日の気が変わってしまったら困るからだ。

「あと、蓋つきの瓶を10個とボウルを一つ。後これも下さい!」

「はいよ。瓶を取って来るから待っててくれ」

「はい!」

 ジオルドが倉庫へ向かうのを見送って朝日は店内の物色に戻る。
 ふと、見ていた一斗缶のような鉄の箱に窓の外から此方を覗いている人物がモヤモヤ、と映っていた。
 朝日がパッと振り返る。
 しかし、そこには誰もいない。そしてまた鉄の箱に目を向けると、また誰かが映り込んでいる。
 その小さな攻防を幾らか繰り返していた朝日に陽気な声がかけられる。

「おーい、何やってんだ?」

「何でもないよ!誰かいたみたいなんだけど、勘違いだったみたい」

 最後にもう一度鉄の箱に目を向けるともう誰もそこには映っていなかった。

「おい、幽霊とか言うなよ?俺、そう言う超常現象みたいなの、苦手なんだからよ…」

「違うよ!大丈夫!」

「なら、良いけどなぁ…。これで良いか?」

「うん!ありがとう!」

 朝日が大丈夫、と言ってもやはり気になるようで、両手に抱えている瓶を机に置きながらジオルドは店内を見渡す。

「あ、そうだ!実はさ…この前お願いしたアレ。もう少し融通してくれない?」

「うん、良いけど…何に使ってるの?」

「いや、そのな…メイリーンが欲しがっててな…」

「あ!メイリーンさん!そう言えばジオルドさんはメイリーンさんの事好きなんだもんね!良いよ!頑張ってね!」

「あ、いや…まぁ、頑張るよ」

「あれ?そういえば…メイリーンさんってなんか聞いた事ある名前だなぁ」

 朝日は記憶をゆっくりと辿る。
 王都に来てから半年。まだ半年だ。それなりに知り合いも友達も出来たが、記憶を辿るのはものの数秒で済んでしまう。

「…いや、朝日。メイリーンはな、ヤラシイ店のやつじゃなくてな…」

「あ!ギルドのお抱え薬師の人だ!でも、あの人…確かギルバートさんの愛じ……うん、これ置いていくから頑張ってね」

「な、何だよ!あいじって何だよ!最後まで言ってけよ!」

 ニッコリ手を振って店を出て行く朝日にジオルドは追いつくことは出来ず、パタパタと駆けていく朝日の背中に叫んでいた。

「食材も用意しなくちゃ!」

 市場はもう少し人の通りが落ち着き始めていて、朝日でもゆっくり楽に歩ける。
 品物を選びながらお昼用に、と肉串やら、木の実ジュースやらを買い食いする。もう、街歩きも慣れたものだ。
 初めはどうなることか、とそれなりに心配していた朝日だったが、運良く良い人たちと巡り合って半年間色々合ったが楽しく過ごして来れた。

「お!依頼受けたんだな!」

「元気になったみたいで安心したわ」

 二人も買い物をしていたようで大きな籠を何個も抱えていた。

「それにしても、そんな果物とか寒くなってきたとはいえ腐らないかしら?」

 朝日が麻籠に入れている物を見てラッサーナは不安を溢す。

「あ、ラッサーナは知らないか」

「うん、言ってなかった。僕、ボックス持ちなんだ」

「え!羨ましいわ。こんな大量の買い物の時も手ぶらいけるのね」

 異空間に物を預けるアイテムボックスは時間を止めてしまう。だから生き物は入れられない。

「うん!……あれ?あの子…?」

「何々?んー、お!」

 その人影は目があった途端隠れてしまう。

「照れ屋さんなのかな?」

「あの子がどうかしたの?」

「実はさっきも見かけたの」

「ス…トーカーか?」

「すっごく可愛い子だったの」

「よし!任せろ!捕まえてきてやる!」

「あ!ちょっとラルク!」

「もう!ラルクと来たら…」

 そして幾ばくもいかぬうちに連れられてきたのは本当に可愛らしいおかっぱ頭の子だった。

「ご、ごめんなさい。もう、しません」

 歳は朝日よりも少し下くらいだろうか。それでも背は朝日よりも少し高く、声も高めで、何より身なりがとても良い。

「てか、どう見てもストーカーだろこれ」

「可愛いでしよ?」

「ん、まぁ…」

 まぁ、可愛いは可愛いだろうが、ラルクにはどちらかと言えばに綺麗な感じに見えて、同意はしたものの些か違う気もする。

「あー、その君はなんで彼をつけていたのかな?」

「朝日さん」

「うん、なに?」

 それからじっと見つめられている朝日と、その二人をただただ見ていることしかできない二人。

「朝日さん。私はナイジェルと言います。爵位はまだ継いでおりませんが、家格は子爵で貴族門の警備を任されている由緒ある家の生まれです!お金はあります!僕とお付き合いを…お、お願いします!」

「僕でいいの?」

「はい、親にも認めて頂いております!」

「うん、良いよ?」

「本当ですか!」

「え!朝日くん!?」

「ナイジェルくんは何処に行きたいの?あ!でも依頼はギルドを通さないといけないんだった!一緒に行こう!」

 手を引っ張ってかけて行く朝日はやはり帝都への依頼を受けたからか吹っ切れた様子で、手を引かれているナイジェルは頬を赤らめつつも勘違いをしたままの朝日に何も言えず、少し眉尻を下げていた。

「あの子、強者ね」

「アイラも苦労するな」

「もう、散々してるわよ」

 二人はその後ろ姿を見てただ嘆いていた。





 
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