スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
72 / 157
第三章

旅の道連れ

しおりを挟む


「たった今、宰相が殺されたと報告がありました」

「…情報源が一つなくなった、という事か」

「…もう一つの方は準備出来ております」

 ユリウスはコクリ、と頷く。

ーーーコンコンッ

「…どうぞ」

「ユリウスさん、セシルさん!おはよう御座います!」

「エライアス卿とのお食事はどうだった?」

「…今日が最後なんですって。エライアスさんとご飯食べれるの。次のお仕事があるんだって」

「それは寂しかったね」

 よしよし、と頭を撫でるセシルにふわふわとうっとりとした表情でその暖かさを享受する。
 ゆったりとした雰囲気が流れる中、無言で額に手を当てて考え事をしているユリウスに気付いた朝日は駆け寄る。床に膝をついてユリウスの膝に両手と顎を乗せる。

「ユリウスさん、何か困ってるの?」

「あ、いや……少し考え事を、な」

「何の考え事?」

「その、あのだな……少し離れてくれ…」

「駄目だよ」

「…何がだ」

「困ってるのに頼らないのは駄目なんだよ。ゼノさんが言ってた!」

 あぁ、何でこの子は此処まで素直にものを言えるのだろうか。ユリウスは朝日を立ち上がらせて同じ目線になってゆっくりと首を振る。

「でも、本当に何でもないんだ」

「あのね、僕。帝国に行くことにしたんだ。その為にさっきギルドで依頼も受けてきたの」

「…帝国?何故君が帝国へ?」

「ゼノさんが全然帰ってこないんだ。寂しいから会いに行こうと思って!こう言うのサプライズって言うんでしょ?」

「ユリウス…」

「あ、あぁ。朝日、そのサプライズに俺達も同行して良いだろうか」

「うん!良いよ!ゼノさん喜ぶんじゃないかな!」

 まるで此方が何に悩んでいたのか分かってて言っているのかと思わざるを得ない程に用意の良い事だ。
 朝日の旅に同行する、と言うだけでは国を離れる理由として少し理由は弱いが言い訳ぐらいにはなるだろう。

「朝日君、いつ此処を立つ予定か決まってる?」

「明日だよ!帝都に向けて立つ野菜の馬車の荷物運びを手伝うの!」

「明日か。急いで準備を進めないとね」

「僕も食料とか買って置かないと!」

「朝日君、その他にも着替えの服や寝袋、テント、ランプ、机や食器、カトラリーなんかも…必要なものは沢山あるよ」

「僕、ベッド持ってるから大丈夫だよ!」

「ベッド…?」

「フッカフカなの!オオカミさんがくれたよ!」

 二人は朝日の話しに首を傾げた。


「わぁ!綺麗!」

「そうだね」

 一面に広がる大平原。
 見渡す限りが緑で寝転がりたいほどにフカフカの芝生がそよそよと風に揺れている。
 お尻が痛くなりそうなただの荷馬車に恐ろしいほど高そうなクッションを置いて空いた隙間に座り込む三人組。


「ぼ、冒険者の方!そんなに身を乗り出しては…」

「みんなと旅行みたいで楽しい!」

「朝日くん、一応お仕事なんだからね」

(な,何で…僕のに馬車にき、貴族様達が…)

 当然ながら、身分を隠す為にそれなりの変装はしているが、中々にお粗末だ。着ている服は確かに冒険者を装ってはいるが、生地が上質すぎて輝いているし、防具は全く使われた痕跡のない新品ピカピカ。何よりそのお尻に引いているクッション。普通の冒険者がそんな邪魔な物を持ち歩く訳もない。

「お兄さん、どのぐらいで着く?」

「あー、このペースだと一週間くらいで着くんじゃないかな?この街道は帝国までの間に二回国境を越えないといけないから」

「イングリードの国境があるからだね」

「え、えぇ…」

(気付かないふりしとこ…隠してるのは向こうだし…)

 朝日は積荷の手伝い、他三人は護衛だ。
 だが、この四人は完全に顔見知りだ。
 護衛の一人は完全に寝ていて、一人は何やら仕事をしているしでもう何がなんだがよく分からない。

「あ、でも少年の能力には驚かされたよ。積荷が一瞬で瞬間移動するんだから」

「あのね、しゅん…」

「彼の能力は生き物には使えないので生かす手が少なくて、今回の依頼とても楽しみにしていたんですよ」

 セシルに口を押さえられてモゴモゴしている朝日に代わり、セシルがとても良い笑顔で答える。

「いやぁ、実は先日腰をやっちゃってね。いつもは護衛だけで一人でやっていたから助かったよ。ありがとう」

「うん!僕、瞬間移動なら沢山出来るから任せて!」

「頼もしいな。おっと、この平原を抜けたら小さな森に入る。だからその手前で野営の準備をしようと思うのだが、大丈夫ですかね?」

「野営だって!僕まだ一回しかしてないからキャンプみたいで楽しみ!」

「キャンプ?」

 セシルの問いも聞こえないほどに何をするか、とあれこれ目を輝かせて考えている朝日に水を差すまいとセシルは口を閉じる。

ーーーヒヒーーンッ

「んお、着いたか?」

「貴方はいつまで寝てるんですか?いい加減ボケますよ」

「今日は朝から稽古つけてやってたんだ、お前よりも早く起きてるっつーの」

「私はそもそも寝ておりませんが?」

「あ、いや…悪かったな…」

 少し罰が悪いと目を逸らすクリスは引き攣った笑顔を向ける。ユリウスは相変わらず何か資料を見つめていて、馬車が止まる際の大きな揺れにも微動だにしない。

「今日は僕がご飯作るね!」

「朝日が?大丈夫なのかよ」

「クリスさんは食べたくない?」

「…ハハハ、そんな訳ないだろ…ハハハ…」

 朝日の後ろで物凄いオーラーを出して睨みつけているセシルを見た商人はガタガタと震えながら、自分は何も言うまい、と口元に手を当てる。
 そして何故彼はそれに気付かないのだろう、と朝日に目を向けると目が合ってしまってドキリ、と身を小さく飛び上がらせる。

「お兄さんも食べたくない?」

「ハハハ…そんな事ある訳ないじゃないですか…ハハハ…」

「セシルは不安?僕焦がさないよ?」

「私はとても楽しみにしているよ」

「うん!」

 そして彼ら三人がこれまで一度も口を開いていないユリウスにも気にする様子はなく、冒険者が紙の資料なんて見る訳ないだろ、と商人の男は変装の粗さを嘆いていた。

「ん、中々いい匂いしてきたな」

「えぇ、とても香ばしい香りですね」

「ん?飯か?」

「貴方の集中力には感心させられますね」

「…あの、私もここに座るよう少年に言われたのですが…本当に宜しいのでしょう…か」

「勿論です、ご主人。依頼主の方なのですから、その辺は気軽に考えてください」

「はぁ…ではお言葉に甘えて…」

(いや、無理だろうが!貴族とご飯なんて、生きてる心地がしない!)

 肉の焼ける芳しい香りが四人の鼻腔を刺激する。
 この香りを嗅いで出てくるのを待ち侘びるのは、昼前に出発だった為に少し早めの昼食を取っていた彼らには中々の試練だろう。

「出来たよ!」

「おぉ?これは何だ?」

「お皿に乗っていませんね」

「いやいや、野営の食事って普通干し肉とか黒パンとか、携帯食でしょ!」

「干し肉って美味いのか?」

「干し肉も黒パン食べたことがないですね」

「そんな冒険者いませーん!!!」

 小さめの真っ黒な鉄鍋に白い粒々。その上に薄くスライスされた肉が乗せられていて黄色い粒が散りばめられている。中心にはチーズ…いや、バターだろうか。ほんのり溶け出していてとても美味しそうだった。

「美味しいよ?」

「朝日、足りない」

「わぁ!ユリウスさん早いね!おかわり直ぐ持って来るよ」

「美味しい…ですね。少々食べづらいですが…」

「うっわ、めっちゃ美味い。毎日これでも良いわ、俺」

「…あの…これ、帝都で売り出しても…?」

「朝日君のレシピですからね…良い交渉にしましょう」

「…はいぃぃぃぃぃ…」

 泣きべそ気味だが、流石は商人根性。お金になりそうな物は逃すまい、とセシルの黒い微笑みにも顔を引き攣らせながらも耐えている。

「朝日!明日もあれで良いぞ!」

「あのね、もうとるか…無くなっちゃったの」

「とるか、ですか?確か積荷に少し乗ってたと思いますよ。私アルメニアとも通商してるので」

「アルメニア王国にとるかがあるの?」

「えぇ、多分だけど…このソースのベースもアルメニアのものだよね?以前何度か取り寄せて使ってみましたが、塩辛くて…どうにも好きにはなれませんでしたが、これはこういう使い方をするものだったのですね」

「お兄さん、味噌もある?」

「ミソ、?今度王都に戻られたら私の家に来てアルメニアの商品を見てみるかい?全部あるから」

「うん!ラムラさんと一緒に行くね!」

 野営地は日が沈み、すでに暗くなっているのだが、この空間だけはとても明るかった。

 




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...