スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第三章

変化

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 ギルドに戻ってきた朝日は達成報告をするためにいつものように受付に駆け寄る。
 いつもなら此処でアイラの熱烈な歓迎を受けるのだが、今日は他の職員が出迎えてくれた。いつなんどきも出迎えてくれていたアイラがいないことに少しだけ寂しい気持ちになる。

「お願いします!」

「はい、依頼品のテシウス草、カムラ草、メテロの実の納品と追加分の支払い請求、承りました。以上で達成報告を受領します。朝日くん、お疲れ様でした」

「ありがとう、ネオさん」


「そ・の・ま・え・に!朝日くん!Eランク昇格おめでとーーーう!」

「…」

「お!朝日もついに昇格か!」

「おめでとう朝日!」

「良くやったぞ!」

 黙り込む朝日にギルドにいた冒険者達はビール片手に朝日の肩を肘で突いたり、肩を組んだりしながら沢山のお祝いの言葉をかける。
 渡された黒々としたカードを見て溢れるように言う。

「僕、昇格?本当に?」
 
「本当よ。ごめんなさいね、アイラじゃなくて」

 ぶんぶん、と横に大きく首を振ると朝日に受付の女性は少し揶揄うようなニコニコと優しい表情を向けてくれる。

「うんん、僕、びっくりしただけなんだ。アイラさんもお休みの日くらいあるよ」

「今、丁度ギルド長とお話ししてるのよ。会いに行ってあげれば喜ぶわ」

「行っていいの?」
 
「えぇ、どうぞ」

 朝日は返事を聞くか否かの速さで二階へ向かう階段の手すりに手をかける。ギルド全体を見渡せるその階段を駆け上がると、ふと目があった彼女に手を振る。

「あの子もこんだけ懐かれてるんだから自信持ったら良いのに」

 彼女は階段を上がっていく朝日に手を振り返しふっ、と呆れ笑いを浮かべた。


ーーーコンコンッ

 中で何をしているのかは知らないので、朝日は少し控えめにドアをノックする。
 と、同時に開かれた扉。開けたのはアイラで興奮気味で少し呼吸を荒げている。
 それでも朝日はアイラに嬉しそうな笑顔を向ける。
 それを見たアイラは何時ものごとくスギューーンと心を撃ち抜かれてその場に倒れ込む。

「ア、アイラさん、大丈夫!?」

「朝日くん、お帰り。予定よりも早かったね」

「ギルド長!アイラさんは大丈夫なんですか?!」

「大丈夫だよ。その辺に転がしておけば、いずれ起き上がるよ」

 朝日はピクピクと痙攣し続けているアイラを心配して視線を向け続けつつも、ギルバートに背中を押されて執務室内に入る。
 そのまま流れるような動作でソファーに座らされ、目の前には瞬きの間には紅茶とお茶菓子のクッキーが置かれていた。
 
「大事な話してたんじゃないの?」

「大した話じゃないさ。それよりあの難易度の高い使命依頼を受けたんだってね」

「うん!さっき報告して、Eランクになったんだ!」

「おめでとう朝日くん、怪我はなかったかい?」

「うん!」

 妙に心配しているギルバートに朝日は笑顔で返す。ギルバートの仕事は冒険者たちを纏めたり、冒険者たちが起こした揉め事の仲裁、運営管理から、王国との取引に至るまでなんでもアリなのだが、その中でも指名依頼や依頼書の難易度の再チェックは多分、どこのギルド長よりも力を入れている。
 お陰か、カバロ支部での冒険者死亡率はかなり低い。彼が王都のギルドを任されている一番の要因である。

 そんな彼が今回の指名依頼の難易度を見誤る訳もなく、本来ならAランク以上のパーティーで行うような依頼であることも知っている。
 それでも送り出したのは所謂大人の事情っと言うやつが大きく働いた結果で、それに気づいたアイラから問い詰められていたところだった。
 依頼人が悪かった。
 その人以外ならどんな事が降りかかろうとも断る事が出来る。よりによって何故国王陛下なのだ、ギルバートはこの二日苦悩していた。
 結果元気に傷一つなく帰ってきたのは一緒について行ったエルダー…エルドレッドのお陰と朝日にぴったりくっついている護衛のお陰なのだろう。
 それが無ければ死んでも断るつもりだった。
 もう、この子が傷つくところは絶対に見たくない。

「あぁ、すまない。失礼するよ」

 地面に転がったままのアイラを一瞥して、従者に何事もなかったかのように退けるよう指示を出す。案内してきたであろう先程の受付の彼女は少し緊張したように視線を下げている。

「君が戻った、とエルダーから聞いてね。早速依頼品を受け取りにきたよ」

 老人は決して部屋に入ってくる事はなく、扉の直ぐ近くから朝日に声をかける。それはギルバートへの配慮なのか、また違う理由なのかは分からないが、たったこの一言に吸い寄せられるように朝日は立ち上がり近づく。

「受付に預けてるんです」

「聞いているよ。一緒に行こうか」

「はい」

 何故だろうか、朝日が何の警戒も躊躇いもなしに老人に心を開いているように見えるのは。
 ただ、相手が誰であるかを伝える事は出来ない。国王陛下が隠しているのに勝手に伝えることがどんな事なのかはよく分かっている。
 自分の身が可愛い訳じゃない。朝日の為にならないのだ。知らないから出来ること、っていうのは必ずあるのだ。

 部屋を出ていく朝日にかける言葉もなく、ギルバートはため息を吐く。

「ゼノ、早く戻ってこい…」

 その声が届く事はない。


「ほう、中々に綺麗な採取だ」

「良かったです」

「全て貰い受けて良いのかな?」

「はい!」

 良くやった、と褒めるように頭を撫でる。
 今回の依頼は高ランク依頼だったこともあり、ギルドの個室にて取引の続きを行なっていた。当然この目の前の老人が国王陛下だと朝日以外の人間は知っている。
 ついつい身構えてしまう。

「では、支払いを。カイル」

「はい、へい…」

「ゴホンッ」

「…ご確認下さい」

「…え?」

 朝日はランクアップに関わる指名依頼を受けれたことに満足していた為に、依頼品のこと以外何も確認してなかった。

「テシウス草一枚金貨3枚、50枚で金貨150枚…カムラ上毒草一枚金貨6枚、25枚で金貨150枚…メテロの実一個金貨20枚、10個で金貨200枚…全て合わせまして金貨500枚…ご確認ください」

 呼ばれたカイルはマジックポーチだろうか、金貨の10枚づつの山を並べながら総額の金額を述べていく。手際の良さもさることながら、その次々と積まれていく金貨に思わず息を呑む。
 当然ながら一生に一度見られれば、と言うほどの量の金貨。一生暮らしていけるくらいの大金だ。

「申し訳ありません。指名依頼金と早期完了の際は更に、と伺っておりますが」

「も、もう良いよ…。僕、こんなに沢山貰えない…。エルダーさんに助けて貰ってばかりだったのに…」

「エルダーには別で報酬を渡しているから気にせんで良い。カイル出しなさい」

「はい」

 カイルが何事も無かったかのように更に金貨の山を積んでいく。指名依頼、とはそんなにお金がかかるのか、と朝日は思わずララットや黒騎士の財布を気にしていた。

「指名料と早期完了の報酬、小金貨50枚です」

「朝日くん、気になるならギルドに預ければ良いから。後で手続きしましょう」

「うん…」

 まだ目を見開いたままの朝日は小さく頷いた。

「朝日くん、この薬草達が何になるか気にならないかい?」

「…何になるか?」

「そう、実はもう一つ必要な素材があってね。それは本当に中々手に入らない品なんだ。それを偶々手に入れたから今回他の素材をお願いしたのだよ」

「もしかして…ポーションになるの?」

「さぁ、どうだろうか?」

「見に行っていいの!?」

「勿論だとも。ダメだったら初めから声をかけないよ」

 思わず敬語を忘れてしまっていることも気付かず、目を輝かせている朝日は嬉しそうにその返事を聞いている。

「行きたい!」

「では、お招きしようかのぉ」

「あ、そう言えば薬術用のノート宿屋に置いたままなんだった」

「君は本当に勉強熱心だのぅ」

 意気投合する二人に周りで見ていた冒険者達は手も足も口も出せないでただ見守る事しかできない。
 興奮そのままに老人に肩を抱かれてギルド後にする朝日を見送るまで誰一人として一言も発せなかった。












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