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第三章
ランク
しおりを挟む「アイラさん、お願いします!」
「朝日くん、お疲れ様!どれどれ~、納品確認サインもあるわね。はい!依頼達成確認しました」
「ねぇ、アイラさん。ゼノさんは?」
「まだ帰ってきてないわよ」
「いつ帰ってくる?」
「もう、ゼノなんてどうでもいいじゃない…?」
アイラは少し不貞腐れ気味に口を尖らせて上目遣いで目を潤ませて猫撫で声で言う。
元々彼女は相当にモテる。少し表を歩けば見惚れて振り返る人がいるくらい目立つ容姿をしているし、ギルドの制服が有り余るくらい出るところが出ている女性らしいプロポーションに魅惑的な口元のホクロ、翡翠色の大きな瞳は可愛らしさと美しさを兼ね備えていてとても魅力的だ。
喋らなければ可愛いのに、と冒険者達に言われているその魅力を全面に押し出す。そしてそれが彼女自身が自身の魅力を良く知っていて、それが似合っているのだから誰も文句を言う事はない。
が、しかしそんな魅力ですら彼には届かない。
「ゼノさんに早い会いたいなぁ」
「アイラ、諦めろ~」
「お前には無理無理!」
「うるさぁーーい!!!」
全力のアピールを完全にスルーされ、更に周りからチクチクとヤジを飛ばされたアイラはその鬱憤を爆発させる。鬼の形相で周りに集まった冒険者達を力尽くでのしていく。
そんな喧騒の中、我関せずで物思いに耽るような表情の朝日にガッドが声をかける。
「おう、朝日。ゼノはどこ行ったんだ?」
「ゼノさん、パーティーのみんなに逢いに行ったんだ」
「あー、アイツ一応パーティー組んでたな」
「こっちにいるのは剣が見つかるまでって約束だったんだって」
「なんだアイツ、こっちに残るのか」
朝日はガッドに言われた言葉を頭の中で反芻する。
「ゼノさん…は戻るべき、なんだね」
「なんか言ったか?」
「うんん!何でもない!」
笑顔で返す朝日に首を傾げたガッドだったが、それ以上深くは考えなかった。
ゼノが帝都に旅立って一週間。
「出来るだけ早く戻る」
「うん!気を付けてね!」
「誰に言ってやがる」
「ヘヘッ。そうだね!」
とある朝、突然そう言い残して旅立ったゼノ。
朝日はその時なんとなくその言葉に頷いたが、ゼノは元々向こうのギルドに籍を置いていているのだから向こうに戻るのが普通なのだ。
朝日は心が騒つくのを気づかないふりが出来ない。もしかしたらゼノとは今までのようには会えなくなるのかも知れない。そんな不安が押し寄せる。
「此処に朝日くんと言う冒険者はいるかね」
「朝日くんに何のようでしょうかね?」
冒険者達と揉みくちゃになっていたアイラは朝日、と言うワードにいち早く反応し、彼らを押し退けてギルドに入ってきたばかりの老人の前に堂々と仁王立ちになる。
朝日から視線を切るように立ち塞がる彼女を老人は特に気にすることもなく辺りを悠然と見渡す。
「魔法屋のお爺さん!」
「ホホホ、朝日くん。鍋の使い心地はどうかね」
「うん!とっても良いよ!」
「…朝日くん、知り合いなの?」
アイラは警戒の色を隠さない。
それは冒険者達も同じ。老人から感じる貫禄と圧、それが只者ではないとひしひしと伝わってくる。柔らかい表情なのに貴族ともまた違う鋭い視線。全く隙がない立ち振る舞い。
「あのね、前にゼノさんと行った魔法屋さんで…」
「…あの店名のない魔法スクロールの店ね。ゼノが良く使ってわね」
朝日を隠すように立つアイラ。その陰からひょっこりと顔を出し手を振る朝日とそれにウィンクをかます老人。
その変な構図に緊張感がギルド内を駆け巡る。
「今日は朝日くんに採取の依頼をお願いしようと思ってね。中々の腕前だと聞いているよ。お嬢さん受付してもらえるかな」
「…指名依頼、という事でしょうか」
「あぁ、そう言う便利なものもあるのだね。それでお願いしよう」
「指名依頼は別途指名料を頂いております。朝日くんは人気なので少々値がはりますが宜しいでしょうか」
「是非そうしてくれたまえ。朝日くん大丈夫かな?」
「うん!大丈夫だよ!頑張ります!」
「ホホホ、楽しみだね」
和気藹々と話す二人だが、それでも周りは緊張感はそのままで警戒を解く事はない。元々冒険者達にとって貴族からの依頼は割りがいいだけで好んで受けるものは少ない。
逆に貴族の依頼ばかりを受けるような物好きもいるが、そう言う冒険者は揶揄される対象だ。
この老人が貴族だと決めつけたわけではないが、それに準ずる何者かだと皆確信している。
「では、依頼書のご記入を」
「カイル」
「はい」
アイラが差し出す紙を後ろに控えていたカイルが受け取る。その一挙手一投足を冒険者達が固唾を飲んで見守る。
ただの指名依頼のはずなのだが、やはり彼らの雰囲気が普通ではない空気を漂わせているのだ。
「確認します…テシウス草、カムラ草、メテロの実…上薬草や上級指定品目ばかりですね。使用用途は?」
「錬金、薬術に使用します」
「カムラ草は毒性の高い薬草だとご存知ですか」
「ほう、中々知識のある受付嬢だね。勿論知っているよ。解毒薬の調合に使う」
「元、冒険者ですから」
「なるほど」
険悪な雰囲気の中、笑顔なのは朝日と老人だけ。冒険者達の心配をよそに朝日には周りのことはまるで目に入ってないかのようだった。
「今度僕も解毒薬習う予定なんだ」
「解毒薬は中々に難しい薬だ。精進しなさい」
「うん!この前、基礎編として気付け薬を習ったよ」
「ほう。君の師匠は中々しっかりした人のようだ」
「見て!」
「うむ、中々の出来栄え。一人で作ったのかな?」
「うん!」
「教えるのも上手いようだ。安心したよ」
「丸めるのが大変だった」
「今度ガラス棒を持ってこよう。先端が丸まっていて押し付けると丸くなるよ」
「便利な道具があるんだね!」
「薬師は忙しいからね。少しでもお時間を取れるように道具を工夫するのだよ」
受付中も薬やその道具などの話でキャッキャと二人だけで盛り上がる。
さっき全力のアピールをスルーされたばかりのアイラはそんな二人の様子を涙を流しながら見ていた。
「…はい…採取依頼を受付ました。正式な受領は少しお時間を下さい」
「お願いしますね」
依頼を出し終わった二人は朝日に別れの言葉を告げるとそのまま後腐れもなくギルドを後にした。
途端に力を抜く冒険者達は少々お疲れモードで、一斉に併設の食堂でお酒や料理の注文を始めた。
「ねぇ!アイラさん、依頼いつ出る?」
「ギルド長に一度通してからになるから二日か三日くらいね。それより大丈夫なの?この前色々あったばかりなのに…」
「…?偉い人っぽいけど…」
「何かあったら言ってね?約束よ?」
「うん!」
アイラの真剣な表情での訴えに朝日は素直に頷く。ふー、と一息ついたアイラは気持ちを切り替えて朝日の肩に手を置く。
「それで朝日くんは指名依頼は何回目かな?」
「指名依頼?三回目だよ?」
どんな事があっても朝日には全力の笑顔を向けるアイラは実はかなりいじらしい子なのかもしれない。
「お!じゃあそろそろランクEだな」
「…ランク?」
「おいおい!冒険者なのにランク気にしないなんて朝日くらいだぞ」
「ランクは冒険者の実力を証明するものだ。一番下がFで上がS。まぁ、Sは英雄クラスだ。そうそうなれるもんじゃない」
「じゃあ、ゼノさんはS?」
「朝日、アイツは偏屈だからな。自分はSランクの器じゃねぇって突っぱねたんだ」
意外に知らなかったゼノの一面。この王都に来て数ヶ月。一番一緒にいたはずなのにゼノの事を全然知らない。ゼノはあんなに自分の事を知ってくれてるのに。
「朝日もギルドに入ってだいぶ立つもんな」
「ランク上がったらどうなるの?」
「受けれる依頼が増える以外には特に何もないな。Dからは護衛依頼とか討伐依頼を受けないと上がらないしな」
「じゃあ、僕は万年Eランクかー」
「ハハハ!頑張れ朝日!」
「採取も大事だぞ!」
その心内を隠して朝日は笑う。
誰もそれに気付くことはないのだ。
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