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第二章
黒騎士
しおりを挟む「今日はどこでお昼にする?アリス」
「んー…とりあえず買いに行こう?道すがら決めるー」
「いいけど、そのパターンばっかりね貴女って」
「ジュリアが行きたいとこあるなら合わせるよ~」
1人じゃなければ攻略対象にエンカウントしたとしても、イベントは発生しないだろうから。
基本は避けるけどね。
「私は別にないから良いけれどね…」
このやり取りも大分恒例になりつつある。
溜息をつきながら結局いつも私に合わせてくれるジュリアは女神だ、同じ年だけどお姉さまと呼びたい。
最初こそ互いに遠慮がちだったが、話してみるとジュリアはとても頭が良くて気持ちの良い人だったので、一緒に行動するようになるのにそう時間はかからなかった。
実際のところ、元々合わない相手に合わせるよりは1人の方がマシ、という考えの私に単独行動は別に苦ではなかった。
だが、流石に彼等を避け続けて緊張し通しの行動に疲れてきてもいた。
あの使者のおかげで実家からは「いつでも好きな時に帰ってきて良い」と言われてるのでその点気楽ではあるが。
今の私は、誰かの好感を得ようとかカケラも思っていないので気にする必要がないのだ、学校だってここだけではないし。
ーーだが少し、いや正直、、友達と2人でこの中庭でランチとか放課後一緒に図書館とかお茶とか__に、憧れがなかったワケではない。
ジュリアは元々妃ねらいでも下位の者を見下すタイプでもなかったし、一緒に授業を受けていても合理的で理知的なタイプに見えたので「いいかも?」と最初は思っただけ だったのだが、あの"犯人はあなた達ですね"とやらかした後、周りの態度が一変した。
ジュリアのような高位貴族が筆頭に立ったせいもあるのだろう、私に声をかけて来る人が増えた。
主に新興貴族、商家の子、それに平民の生徒たち__、はやはり何かしら嫌な目には大小問わず遭っていて、だが今期の生徒会は高位貴族ばかり(あれ、これ私のせい?)な為言い出す事も出来ず。
そういった生徒たちにとって私は希望の光(いや、この呼び方はやめてほしいんだけど)だったらしい。
お昼は基本ジュリアとだが寮での朝食や移動教室、放課後などに色々な人に声をかけられて同行するようになった。
人の輪が彼等を遮ってくれるのと、何より友人と過ごす事で見える景色が変わった。
1人では怖くて近づけなかったイベント発生場所にも、友人と一緒なら近付けるようになり、行動範囲も広がったので楽しい日々を過ごした。
生徒会からの勧誘は、相変わらず だったけど。
なかでも、
「メイデン嬢、お昼一緒にどお?」
と会う度にデフォルト笑顔できいてくるアルフレッドは、
「ご機嫌よう殿下。生憎約束がありますので」
「たまには別の人間と食べても良いと思うけどな~じゃ、また今度ね」
と断ると風のように去っていく。
断られるのがわかっていてなら何故声をかけるのだろう、不明である。
「不味いな」
生徒会室で王太子が呟き、
「着々とヒロインの派閥が形成されつつあるわね…」
と繋げたのはカミラだ。
あの件以来、何かしら高位貴族とトラブルのあった生徒はアリスティアに泣き付くようになってしまい、本来なら"貴賎なく平等な場を保つ"為の生徒会執行部はヒロイン一派に吊るしあげ(?)られて陳情という泣き言を言いにくる高位貴族用サロンみたいになってきている。
因みにそれらの担当はアレックスだ。元々彼は成績は良いし、幼い頃からの友人ではあるが、どうにも自分より下とみた相手は見下す傾向があるうえ(城での一件が一層それを増長させたのも否めないが)、アリスティアに対しても何をやらかすかわかったものではないため彼女には極力近づかないように、と通達している(尤もあちらがこれだけ完璧に避けている事を踏まえれば無用な心配かもしれないが)。
2年生役員もこの現状はよろしくないと眉を顰められ、「早急に何とかするように」とのお達しが出ている。
ヒロインが生徒会に入ってくれない以上、それに近い貴族や商家の子弟などを指名したが結果は芳しくない。
そうは言っても別にアリスティア本人は何もしてないし言っていない。ただ"自分も同じような嫌がらせを受けている"と相談してきた相手に保険魔法をかけておくように勧めたり、上手くかけられない相手には石(一回こっきりの小さな物だが)を分けたり、しょっちゅう待ち伏せして嫌味を言ってくる集団がいて教室移動が怖い、と言う生徒とは「暫く皆で行動してみては?」と数日間一緒に行動した挙げ句そのウザい集団のリーダーを論破したりしていたらなんか増えた、みたいな感じである。
この現状に生徒会も静観していたわけではなく、間も無く学内の至るところに《投書箱》なるものが設置された。
曰く学園内で我慢出来ない事、おかしいと思う部分など貴賎なく意見して欲しい、という趣旨だが要するに“嫌がらせをしている相手の名前と内容だけでも、被害の報告だけでも、生徒会への非難でも構わない。自分の名前は無記名で好きに書いて入れて良い“
とお墨付きを与えたのだ。
これにより生徒会への通報が増え投書から辿って片っ端からやらかしている生徒達を確認、追求しペナルティを与え一気に収束した。
生徒の中には「アリスティア様が被害を受けていた時は知らないフリだったのに、アリスティア様の真似をして人気取りをするなんて」という声もあがったが「誰がやろうと結果 無くなるならそれに越した事はないんじゃない?」と当のアリスティアは気にしてなかった(むしろ楽になっていいじゃん?くらいに思っていた)ので彼らもそれ以上騒ぐ事はなかった。
だが、アリスティアの影響力が学園内で増しているのは明らかだった。
騒ぎが収束してもアリスティアの周りから人は減らず、いつも誰かしらと一緒にいる彼女に明確に避けられる事はなくなったものの生徒会はろくに声をかける事が出来なかったのだから。
実際のとこ、私はちょっと感心していた。
ああいった嫌がらせが学園内で横行していると知るや迅速に収拾を計った手際もだが、この学園の寮は"自分の事は自分でやるのがモットー"だと言っていた王太子。
そんなことを言ったところで寮内に同年の使用人を一緒に入学させるのが可能という(1人じゃ何も出来ない)貴族子弟ボンボンの為の特例枠という有名無実なシステムがあり(もちろん魔力持ちが必須条件だが)、身分が高い程危険な目にあう率も高いためガードの意味もあり、王太子や王子は絶対にこの特例を使って誰か連れて来るに違いない、と思っていたのだがー…
王太子にも、ギルバートは本人が脳筋、、じゃない、武人であるため不要としてもアルフレッド、カミラ、そして悪役令嬢であるミリディアナにも付いていない。これは意外だった。
もちろん学園内は何重にも防護結界が張られていてそう易々と侵入されないとはいえ……それに自分の事は自分でちゃんとやるんだ?あの人たち。
その分取り巻きを顎でこき使ってるのかと思ったけど、そんな様子もないし。
ーーーー
実はここの王室、学園入学にあたり"その制度を使わない"のが伝統と化していて王族は入学前に最低限の事は出来るようにレクチャーを受けている。勿論学園内に不穏な動きなどがあればこの限りではない。
という事実を、この時の私は知る由もない。
「んー…とりあえず買いに行こう?道すがら決めるー」
「いいけど、そのパターンばっかりね貴女って」
「ジュリアが行きたいとこあるなら合わせるよ~」
1人じゃなければ攻略対象にエンカウントしたとしても、イベントは発生しないだろうから。
基本は避けるけどね。
「私は別にないから良いけれどね…」
このやり取りも大分恒例になりつつある。
溜息をつきながら結局いつも私に合わせてくれるジュリアは女神だ、同じ年だけどお姉さまと呼びたい。
最初こそ互いに遠慮がちだったが、話してみるとジュリアはとても頭が良くて気持ちの良い人だったので、一緒に行動するようになるのにそう時間はかからなかった。
実際のところ、元々合わない相手に合わせるよりは1人の方がマシ、という考えの私に単独行動は別に苦ではなかった。
だが、流石に彼等を避け続けて緊張し通しの行動に疲れてきてもいた。
あの使者のおかげで実家からは「いつでも好きな時に帰ってきて良い」と言われてるのでその点気楽ではあるが。
今の私は、誰かの好感を得ようとかカケラも思っていないので気にする必要がないのだ、学校だってここだけではないし。
ーーだが少し、いや正直、、友達と2人でこの中庭でランチとか放課後一緒に図書館とかお茶とか__に、憧れがなかったワケではない。
ジュリアは元々妃ねらいでも下位の者を見下すタイプでもなかったし、一緒に授業を受けていても合理的で理知的なタイプに見えたので「いいかも?」と最初は思っただけ だったのだが、あの"犯人はあなた達ですね"とやらかした後、周りの態度が一変した。
ジュリアのような高位貴族が筆頭に立ったせいもあるのだろう、私に声をかけて来る人が増えた。
主に新興貴族、商家の子、それに平民の生徒たち__、はやはり何かしら嫌な目には大小問わず遭っていて、だが今期の生徒会は高位貴族ばかり(あれ、これ私のせい?)な為言い出す事も出来ず。
そういった生徒たちにとって私は希望の光(いや、この呼び方はやめてほしいんだけど)だったらしい。
お昼は基本ジュリアとだが寮での朝食や移動教室、放課後などに色々な人に声をかけられて同行するようになった。
人の輪が彼等を遮ってくれるのと、何より友人と過ごす事で見える景色が変わった。
1人では怖くて近づけなかったイベント発生場所にも、友人と一緒なら近付けるようになり、行動範囲も広がったので楽しい日々を過ごした。
生徒会からの勧誘は、相変わらず だったけど。
なかでも、
「メイデン嬢、お昼一緒にどお?」
と会う度にデフォルト笑顔できいてくるアルフレッドは、
「ご機嫌よう殿下。生憎約束がありますので」
「たまには別の人間と食べても良いと思うけどな~じゃ、また今度ね」
と断ると風のように去っていく。
断られるのがわかっていてなら何故声をかけるのだろう、不明である。
「不味いな」
生徒会室で王太子が呟き、
「着々とヒロインの派閥が形成されつつあるわね…」
と繋げたのはカミラだ。
あの件以来、何かしら高位貴族とトラブルのあった生徒はアリスティアに泣き付くようになってしまい、本来なら"貴賎なく平等な場を保つ"為の生徒会執行部はヒロイン一派に吊るしあげ(?)られて陳情という泣き言を言いにくる高位貴族用サロンみたいになってきている。
因みにそれらの担当はアレックスだ。元々彼は成績は良いし、幼い頃からの友人ではあるが、どうにも自分より下とみた相手は見下す傾向があるうえ(城での一件が一層それを増長させたのも否めないが)、アリスティアに対しても何をやらかすかわかったものではないため彼女には極力近づかないように、と通達している(尤もあちらがこれだけ完璧に避けている事を踏まえれば無用な心配かもしれないが)。
2年生役員もこの現状はよろしくないと眉を顰められ、「早急に何とかするように」とのお達しが出ている。
ヒロインが生徒会に入ってくれない以上、それに近い貴族や商家の子弟などを指名したが結果は芳しくない。
そうは言っても別にアリスティア本人は何もしてないし言っていない。ただ"自分も同じような嫌がらせを受けている"と相談してきた相手に保険魔法をかけておくように勧めたり、上手くかけられない相手には石(一回こっきりの小さな物だが)を分けたり、しょっちゅう待ち伏せして嫌味を言ってくる集団がいて教室移動が怖い、と言う生徒とは「暫く皆で行動してみては?」と数日間一緒に行動した挙げ句そのウザい集団のリーダーを論破したりしていたらなんか増えた、みたいな感じである。
この現状に生徒会も静観していたわけではなく、間も無く学内の至るところに《投書箱》なるものが設置された。
曰く学園内で我慢出来ない事、おかしいと思う部分など貴賎なく意見して欲しい、という趣旨だが要するに“嫌がらせをしている相手の名前と内容だけでも、被害の報告だけでも、生徒会への非難でも構わない。自分の名前は無記名で好きに書いて入れて良い“
とお墨付きを与えたのだ。
これにより生徒会への通報が増え投書から辿って片っ端からやらかしている生徒達を確認、追求しペナルティを与え一気に収束した。
生徒の中には「アリスティア様が被害を受けていた時は知らないフリだったのに、アリスティア様の真似をして人気取りをするなんて」という声もあがったが「誰がやろうと結果 無くなるならそれに越した事はないんじゃない?」と当のアリスティアは気にしてなかった(むしろ楽になっていいじゃん?くらいに思っていた)ので彼らもそれ以上騒ぐ事はなかった。
だが、アリスティアの影響力が学園内で増しているのは明らかだった。
騒ぎが収束してもアリスティアの周りから人は減らず、いつも誰かしらと一緒にいる彼女に明確に避けられる事はなくなったものの生徒会はろくに声をかける事が出来なかったのだから。
実際のとこ、私はちょっと感心していた。
ああいった嫌がらせが学園内で横行していると知るや迅速に収拾を計った手際もだが、この学園の寮は"自分の事は自分でやるのがモットー"だと言っていた王太子。
そんなことを言ったところで寮内に同年の使用人を一緒に入学させるのが可能という(1人じゃ何も出来ない)貴族子弟ボンボンの為の特例枠という有名無実なシステムがあり(もちろん魔力持ちが必須条件だが)、身分が高い程危険な目にあう率も高いためガードの意味もあり、王太子や王子は絶対にこの特例を使って誰か連れて来るに違いない、と思っていたのだがー…
王太子にも、ギルバートは本人が脳筋、、じゃない、武人であるため不要としてもアルフレッド、カミラ、そして悪役令嬢であるミリディアナにも付いていない。これは意外だった。
もちろん学園内は何重にも防護結界が張られていてそう易々と侵入されないとはいえ……それに自分の事は自分でちゃんとやるんだ?あの人たち。
その分取り巻きを顎でこき使ってるのかと思ったけど、そんな様子もないし。
ーーーー
実はここの王室、学園入学にあたり"その制度を使わない"のが伝統と化していて王族は入学前に最低限の事は出来るようにレクチャーを受けている。勿論学園内に不穏な動きなどがあればこの限りではない。
という事実を、この時の私は知る由もない。
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