スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第二章

秘密

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 風の切り裂くように進む馬車。行きと違い馬車に乗っているのは疎らな商品達と二人だけ。吹き抜けていく風が心地良くて思わず目を細める。

「いや~、それにしても助かりました~。お二人は冒険者で?」

「うん!そうだよ!」

 朝日は初めて冒険者だと認められてとても嬉しそうに返事をするが、商人はゼノの身なりからを冒険者だと直ぐに理解して、流石に冒険に子供は連れてこないだろう、踏んだ発言だったに過ぎない。
 ゼノはそれを直ぐに分かったが、朝日があまりに嬉しそうなので口を挟む事はしなかった。

 走る荷馬車の後ろに腰掛けて脚を投げ出しぷらぷらと流れる景色を見ながら、ぼーっとした時間を楽しむ。

「朝日…どうし…」

「いや~。しかし、金貨5枚…」

 荷馬車に背を預けて座っていたゼノも寛いでいたが、妙に物静かな朝日の表情が気になり、片目を開ける。神妙な面持ちの朝日に声をかけるが、商人風の男はそれを遮るようにふて腐れたような声が聞こえて来る。

「嫌なのか?」

「いえいえ!滅相も御座いません!」

「そうだよ!金貨5枚だなんて!」

「そうですよね!?」

(あぁ、この少年はまともだ!討伐依頼で金貨5枚だ何でCランク相当の魔物の時だろう!)

 ゼノも吹っかけた意識はある。
 その場でお金を渡して来るくらい商人の気概を持つ人間だったら足代として半分程は返していたことだろう。
 だか、なんだかこの男には引っかかる点があった。商人だというのにあまりに少ない積み荷。護衛も付けずに移動するなんて普通ならあり得ない。
 色々考えているゼノに陽気な声が降ってきた。

「あの魔物はフォレストウルフ。Eランク相当の魔物ですから」

 朝日の発言に一瞬好機が訪れた!と乗った商人はこれぞ、とばかりに饒舌に語り出す。
 しかし、帰ってきた言葉は二人が驚く言葉だった。

「安すぎるよ!」

「へ?」

「だよね?商人のお兄さん?あんなにたくさん倒したし、ゼノさんはAランク冒険者だし、更に街までの護衛までついてくれるなら破格だよね?金貨10枚はするよ」

「はははー、そうだよね~」

(何なんだ…この無遠慮な少年は!金貨1枚で平民なら半月は生活出来るんだぞ!)

 そんな賑やかなで穏やかな馬車旅は一瞬で終わりを迎えた。
 門についてみるとそこには見たこともないくらいに馬車や人でごった返していた。青騎士達が大変そうに人や馬車を捌いている。

「何かあるのかな?」

「あれ?知らないんですか?今年も建国祭は通常通りやるみたいですよ。あんな事がありましたからね。祭りで少しでも活気がつけば、と王も思っているんでしょう」

「お祭りか!」

「私もその準備で少し遠くの方まで出向いてたんです。そしたら魔物に襲われるし…」

 大変でした、と俯く商人はゆっくりとその行列の一番後ろに馬車を止めた。

「本当にありがとうございました。私の店は大通にあるミミック商会です。後ほどいらっしゃって頂ければ、代金をお支払い致しますので」

 一際空いている住民専用門を見てゼノは馬車から降りる。流石にこの行列で待つ気はないらしいゼノはひらひらと手を振りながら門へ向かう。
 朝日も慌てて馬車を降りて彼に手を振る。

「意地悪してごめんなさい!」

「意地悪?」

「じゃあねぇー!」

 多分さっきの金貨10枚の話をしているだ、と理解した商人はなんだ冗談だったか、と肩から力を抜く。

「なんだ、意地悪だったのか」

「うん、思わず…やっちゃった。ごめんなさい」

「いや、別に。珍しいと思っただけだ」

「僕、あの人あまり好きじゃない」

「…」

 朝日がこう言った話をするのは初めてで、基本誰でも受け入れる彼から出てきた言葉とはとても思えなかった。暗殺者だろうと、不言だろうと、なんだって受け入れてきた彼がいきなりどうしたのか、と正直言ってゼノは驚いていた。
 ただ自分と同じ感想を持っていたという点では少々朝日を見る目が変わる。

 あの金貨5枚というのはわざと吹っかけた。
 もし、持ち出した物が売れて帰ってきたならこの大きさの荷馬車だ、どんな安い薬草でも金貨5枚くらいにはなっているだろう。
 それでも彼は差し出さなかった。
 大抵こう言った時は持ち金を出して残りは別口で渡す。もしくは冒険者相手ならギルドに振り込みという形を取ることが多い。

「あの人悪い人だよ」

「あのひょろひょろした奴がか?」

「うん。だってあの人が犯人だったんだ」

「なんの…」

 朝日には朝日の着眼点があり、クロムの時も彼の前職が暗殺者だと言い当てたのだから。
 そしてゼノはそう言いかけた言葉を飲み込む。
 なんの犯人なのか直ぐに分かったからだ。見た事があるそれを見間違えるはずがない。間違えようがない唯一無二のその存在を。

「…どうしたんだ」

「僕のスキルって【自動回収】って名前なんだけど…」

 聞いたとことのないスキル名にゼノは眉間に皺を寄せて朝日を見る。ゼノに見せるために鞄から少しだけ覗かせたそれを再び押し込んだ朝日は憤りを隠さない。

「僕の近くに落ちている物全て勝手に拾っちゃうんだ。本当は集中すれば必要な物だけ“回収”出来るみたいなんだけど、上手くできなくて…。この前はわざと疫病に罹れば本当に欲しいって集中できるかな、って」

「それであんな無茶したんだな」

「…うん」

「…周りに落ちてたら全部、か…?」

「うん…大体のものは。アイテムだと認識している物ならなんでも」

 そして、ゼノは気付く。その能力の怖さを。その利便性を。その利用価値を。その危険さを。
 そして、今までの出来事が全て腑に落ちて納得する。戦う事も出来ない普通の少年が危険な魔物の卵を取ってきた方法やさまざまな素材を豊富に所持していること、それなのに意外に簡単な素材を持って居なかったりすること。彼がアイテムだと認識している物だけが全て【自動回収】されたから。

「制限はあるんだろ」

「うん。生きているものと誰かのものは“回収”出来ないよ。この“聖剣”は盗まれたから所有者なしになってたんだと思う」

 確かに他人の物まで取れてしまったら今頃王都は大混乱していただろう。王都中の物が消え去っていた筈だ。

「お前はどうするつもりだ」

「どう?」

「下手したらお前は無意識に窃盗をする可能性がある」

「え…」

「例えばこの街で盗品をその辺の露店で売っている者がいたとしよう。その時に偶々お前がそこに通りかかったら、全て“回収”されるんじゃないか?」

「…」

「それが盗品であろうがなかろうが、物が無くなったとなれば窃盗になりうる」

「…確かに…そうだね」

「朝日。お前は何がなんでもそのスキルを使いこなせるようにならないといけない」

「…うん」

 確かにあり得る事だ。今まで偶々そうならなかっただけで何か事件になる可能性は大いにあるのだ。
 そこまで深く考えていなかったのだろう。そもそも善悪の捉え方に偏りのある朝日は殆どの人間が善人だと思っている。だから人を疑う、ということに関してはかなり不安だ。
 ただ彼はその善悪に対して他人のそれは許すが自身のそれは許さない。だから、悪い事は悪いと知ってはいる。

「この剣、どうしよう…」

「とりあえず持っておけ」

「でも…」

「確かに今直ぐにでもあのセシル、だったか?奴に事情を話して預かってもらうのも手ではあるが、あの商人が“聖剣”が無くなったことに気づいた時、一番疑われるのは俺らだ。そんな俺らがアイツに会っていた、とバレれば面倒になるだろうな」

「…確かにセシルさんに迷惑かけるのは…」

「…そんなこと気にする奴じゃないと思うが…」

 また、説明の意図を理解して貰えず、はぁー、とため息を吐くゼノ。
 確かに多少の迷惑は掛かるだろうが、そんな話ではない。多分あの商人も此方の動きをかなり警戒はしていた筈だ。記憶では剣らしき細長い物が入りそうな箱があったのは商人の御者席の直ぐ後ろ。
 そこに二人もと近づいていないのだから向こうは安心して今も気付いていないかも知れない。
 では気付いた時は。
 どんな手を使って盗んだのか、と必要に調べるだろう。相手は商人だ。それなりに人脈はあるだろうし、冒険者も一枚岩ではない。この前の件を仮に何処かで話されたとしたら感の良い者なら朝日のスキルについて何か気付くかも知れない。

(仕方ねぇ…乗るしかないか…)

 ゼノは横を歩く朝日を盗み見て、そう決心したのだった。














 




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