スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第一章

崩れた足元

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「これ、まだ少ないな…」

「…」

「こればっかりは要らないんだけど…」

「…」

「あれ、これも必要なのかな…」

「…」

 ぶつぶつと独り言を呟く朝日に全員の視線が集まる。
 朝日は相変わらず宙を見上げているだけで誰も彼が何をしているのか知らないし、説明も貰えないのだからその視線は次第に疑念の色を濃くさせて行った。

「…あ、またあっ…た…」

「…あ、さひ…?」

「…朝日君!」

「…あれ…何か足に力入んないや…」

「大丈夫か!」

「何でだろ…足に、力が…入らなくて…」

 寄り添うように歩いていたルークの側で地面に倒れた朝日。それをトリニファー以外はただ見ているだけだった。

「団長さん…約束、ですよ。引きずって…でも、僕が良いって言うまで…」

「あ、あぁ。分かってる!分かっているから、君はもう話さなくて良い!」

 どれくらい経っただろうか。森を歩き出したのは日がまだ高い所にあって、今は辺りが赤く染まっている。
 普段から身体を鍛えている騎士達はまだ余裕があった。でも朝日は違う。幾ら慣れ親しんだ森とはいえ、休みなく歩き続けていればいずれこうなる事は予想できていた。
 更にただ出鱈目に歩いていただけだった事でで騎士達朝日に対しての不審感を拭えず、朝日が倒れ込んでも駆け寄るような素振りも見せない。寧ろ病を移されるのでは、と遠巻きにしているほどだった。
 トリニファーはそんな彼らに心底落胆した。確かに彼の思いを彼らは聞いていたわけではない。だから直ぐに動けなくても仕方がないのかも知れない。
 でも、彼は守るべき国民でまだ子供だ。その前提を忘れて助けようともしない。

「…団長、変わります」

「…!お前!」

「ルーク、慎重に頼む」

「はい」

「「「「「…」」」」」

 二人の行動にただ言葉をなくす騎士達。彼らは目の前で何が起きているのかが分かっていない。
 尊敬する団長が肩で息をして苦しんでいる少年をその背に乗せようとしたかと思えば仲間のルークもそれに続き、少年を背負って再び歩き出す。

「な、何故団長はその少年の為にそこまでするのですか!」

「お前達より信頼できるからだ」

「信頼?ふざけないでください!この数時間彼が何をしたと言うのです?ただただ出鱈目に歩き続けて挙句、疲れ果ててルークに背負われているだけではありませんか!」

「じゃあ、お前達は此処に来る前まで何をしていたんだ?」

「な、なにを…って門の警備や、仲間の治療を…」

「じゃあ、お前はそれに戻れ」

 突然団長からなくなった信頼の色。自分達が何もしてない、と吐き捨てられた言葉。全く理解出来ない。

「彼が何をしたというのですか!」

「先に説明していた筈だ」

「我々が聞いたのは彼が薬師様に頼まれた薬草を探すのを手伝うと言う話だけです。彼は一つも採取できてないではないですか!」

 我慢ならない、と一人の騎士が声を上げる。

「それも話した筈だ。彼は特殊なスキルを持っていてそれで探すのだと」

「では、集まっているのですか?地面にも触れず?」

「帰れ、と団長に言われたのが分からないのか」

「黙れ!ルーク!この《七光り》め!」

「…呆れた」

「呆れた?ふざけるな!団長にゴマスリか?七光のやりそうな事だ!お前だって少年が倒れた時、ただつっ立ってただけだろう!」

 睨みつける騎士にルークは視線を向けることすらせず、その歩みを止めない。

「確かに、私は彼が目の前から消えた瞬間、騎士としてあるまじき行為をしてしまった。だが、もうしないと誓おう」

「誓う、誓わないの話じゃないんだよ!」

「ヒルデル。お前は一市民の彼を今もなお助けようとしない。お前は騎士失格だ」

 ルークの発言に煮え繰り返ったヒルデルはワナワナと震えながら叫び続ける。

「七光の分際で俺に口答えするな!!」

「そんなに偉いお前は私が取った勲章の一つでも取った事があるのか」

「…な、七光で取った勲章を自慢されても悔しくなんかない!」

「では、私よりも爵位が上である侯爵家のお前が何故、未だに勲章の一つも貰えないのだろうな」

「「「「「…」」」」」

 普段なら聞き流し、反論もしないルークがわざとらくしヒルデルを煽る。それを見ていた他の騎士達は驚きを通り越して感心していた。
 彼らは何故いつもヒルデルに言われっぱなしにしているのか、とルークに対して憤りにも似た感情を持っていたのだ。

「…ごめんなさい。あと少しで…集まります。あと少しで…」

「だ、そうだ。ヒルデル」

「…ック」

 何が何だがわからない。
 その間にもたくさんの人が死にかけていると言うのにあと少しだと?冗談を聞いている暇などないと言うのに。
 そんな感情を隠すことなく全面に出しているヒルデルにトリニファーはもう一度言う。

「貴族の嗜み。ヒルデル、お前そんな大事な事も忘れているのではないか」

「…貴族たる者、如何なる時も国民の血税で贅沢をさせてもらっている事を忘れず、その地位にいる者として国民を守る為の行動を直ちに行え…」

「なんだ、言えるじゃないか」

「…すみません。頭が冷えました」

「彼を信用できないのなら兵舎に戻れ。…いても邪魔なだけだ」

 朝日の背を撫でながら歩くトリニファーと背負ったまま歩き続けるルークの言葉に騎士達全員が足踏みをする。
 ヒルデルは別としても、騎士達には別の話で疑問しか出てこない。どうしてそんなにまで彼を信頼できるのか、何故もっと詳しく話してくれないのか、と。
 それでも兵舎に戻る選択肢は彼らにはなく、少し離れた所からただ出鱈目に歩き続けている二人を見ていた。
 他の騎士達が三人の後を追うのを見てヒルデルは大人しく踵を返した。

 朝日から終わった、と掠れた言葉が漏れたのは夜が耽った頃だった。星が燦々と輝き、作戦の成功を祝ってくれているように朝日には見えた。

「…とりあえず、ですが…これで全種類みたいです。この黄色いお花とかは…数が足りるかどうか…」

「それはドリプラルと言う花だ。珍しい花だがあの薬師ならそれなりに在庫を持っているだろう。安心しろ」

「…団長さん、騎士さん達は、大丈夫そうですか?」

「大丈夫だ。気にするな」

「…今…一体、何処…から…この花を…?」

 トリニファーは近づいてきた騎士達を一瞥しただけでその質問に答える気はないとばかりに歩き出した。
 朝日は身体の痛みや疲れから意識が遠のいて行くのを今はまだダメだ、と体に鞭を打ち、必死耐え続ける為にトリニファーやルークに話しかけ続けていた。
 身体は辛いだろうに、気丈に振る舞うその健気な姿に後ろにいた筈の騎士達も朝日の意識を持たせようと朝日が求めた話を面白おかしく話し始めた。

「…それで、そのウサギは、如何したんですか?」

「あぁ、そのウサギはピーと名付けて家で飼っている。娘の良き友人だ」

「良いなぁ…」

 騎士達は途端に自分達の言動の軽率さを悔やみ、胸が苦しくなった。
 こんな状態になりながらも誰かの為に行動できるその強さを彼らも認めざる終えなかった。

 やっとの事で兵舎にたどり着いた頃には全員満身創痍で、出迎えたヒルデルも何があったのか、と心配していた程だった。

「朝日くん!」

「…メイリーン、さん?」

「そうよ!…って貴方大丈夫なの?!」

「うん、僕…ちゃんと…」

「うんうん!分かってるわ!私が責任を持って薬は作るから貴方はしっかりと休んでなさい!」

「…ギルドの皆んなは…?」

 メイリーンは一瞬間を置いて静かに話す。
 彼を安心させてあげる為に。

「…大丈夫よ。さっき魔物の討伐成功の報告がギルドに来てたわ」

「良かったぁ…」

「朝日君…」

 ルークの背中にも伝わるほどに冷え切った身体は動かす事もままならず、凍り付いたかのように朝日は背負われた時のままで腕も上がったまま。膝を伸ばす事も出来ず座らせる他に朝日を休ませる方法がなかった。

「メイリーンさん…お願い、します」

「…安心しなさい。私を誰だと思ってるの?最強の薬師、メイリーン様よ!」

「…ふふふ」

 薬師メイリーンが兵舎内に用意していた急拵えの研究室に急ぎ薬を作りに行った後、朝日は意識を手放した。

 ベッドに運び入れても手足は上がったままで血の巡りが悪くなるからと結局ベッドに座らせるしかなく、騎士達は彼から離れる事なく寄り添っていた。

 みんなの思いは同じだった。何故彼はそんな状態なのに、それでも尚他人を心配出来るのだろうか、と。
 そんな朝日を騎士達は感心するよりも寧ろ痛ましく思うのだった。
 

 








 

 
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