19 / 157
第一章
捜索
しおりを挟む冒険者達がいなくなったギルドにてギルド長ギルバート、エターナルライセンス保持者薬師アイリーン、碧血の騎士団団長トリニファーの三人を説得もそこそこに後にした朝日はトリニファーと打ち合わせをする為に青騎士達が詰めている門へと向かった。
門前は相変わらず騒々しく、王都内に入れず止められている隣町の住人達の悲痛な叫びが響いていた。
「彼らに詳しい説明をしなかったのは止められると思ったからか?」
「…うん」
「私は止めないと?」
「うん」
トリニファーは門横に併設されている兵舎に入るや否や質問してきた。ハッキリと頷いた朝日に思わず溜息が出る。
確かに早く薬が出来ればそれだけ多くの人が助かる。でもそれは薬師に任せておけば大丈夫な筈だ。少々時間はかかるかも知れないが、それは仕方のない事。そう割り切っている。だから何をそこまで、と言う気持ちを拭い切れない。
「あのね、ガッドさんは凄く奥さんを大切にしてて、帰りが遅いと怒られても必ず家に帰るんだ。あと、ラルクさんは最近彼女が出来てラブラブなんだって!ギルド職員の人だから秘密らしいんだけど…」
「…助けたい、その気持ちは分かる」
「うん。団長さんに言われた通り、僕は街で悪さをする人を捕まえたり、倒したりも出来ない。僕は闘えないから、皆んなが強い魔物と闘っている間、皆んなの代わりに家族や大切な人達を僕が守らないといけないんだ」
「…そうだな」
並行して歩いている二人は目は合わせてはいないが、お互いどんな表情をしているかは見なくても分かる。
「して、どうするのだ」
「詳しくは言えないんだけど、僕…ちょっと良いスキルを持ってて。でもその為には多分まず鞄の中を空にしなくちゃいけなくて…」
「部屋をひとつ用意しよう。そこに荷物を置いていってくれて構わない」
「それと力持ちの人が必要かも」
「用意しよう」
兵舎の中は騒がしかった。
その中でも飛びっきりバタバタと騒がしい部屋が数部屋あり、先程から扉が開いたり閉まったりを繰り返している。
その度に中から治癒師達だろうか、患者達に声をかけたり、必要な物を頼んだり、と必死に彼らを救う為に働いている人達が慌ただしくしていた。
その部屋の一つから出てきた男と目が合う。
「…君は」
「あ!門の騎士さん!」
見知った顔に思わず笑みが溢れる。
「何故君が……団長、お疲れ様です」
「…私よりも彼に先に気付くとはな」
少し含みのある言い方をするトリニファーは決して嫌味で言っているわけではない。彼がどんな人間か知っているからこそ、その行動が面白いと思ったのだ。
「大変失礼致しました。仕事に戻ります」
「ルーク。この後森に出る。お前も来い」
「かしこまりました」
「ルークさん。宜しくお願いします」
「…君も来るのか?」
不思議そうに言った彼に朝日は真剣な表情で頷く。
「…私が君の役に立つのか分からないが、最善を尽くそう」
「…?」
「あぁいう奴なんだ。気にするな」
足早に去っていく彼の後ろ姿を見送って、二人は再び歩き出す。
「他に必要な者はあるか」
「うん、僕がその病気にならないといけない」
「…なに?」
冗談は嫌いだ、と言いたいところだが、真面目な表情で前だけを見据えている。
そしてトリニファーはあまりの衝撃的な発言にスタスタと歩いていく朝日から一瞬遅れをとってしまった。
「…待て!」
朝日はトリニファーが制止するよりも先に目の前の扉を開ける。中は忙しそうに行き交う人達でいっぱいだ。
「「…」」
目の前に広がる光景はまるで地獄絵。
言葉が出てこない。そこには苦しそうにもがく人も呻き声をあげる人もいない。ただ青白い顔をした死人のような人達が横たわっているだけ。
「…団長さん、勝手に巻き込んでごめんね。貴方も…罹るかもしれない」
「気にするな。その方が気が休まる」
「そっか」
朝日は一番近くにいた患者らしき隊服を着た男の近くにしゃがみ込む。そしてその頬に触れ、ひんやりとした手の感触に思わずビクリ、と身体を揺らす。
そしてぽそり、大丈夫だよ、と言葉を漏らしたのをトリニファーは聞き逃さなかった。
それから用意した部屋に荷物を置きにいった朝日が部屋から出てくるのまでトリニファーは今後の指示を出したり、騎士を集めたりと奔走していた。
朝日が準備を終えて部屋を出るとトリニファーはそこで待っていた。
「終わったか」
「うん」
一瞬の気の迷いも感じない毅然とした態度で歩く朝日にトリニファーはただ続くことしかできなかった。
門横の騎士専用の入り口前には十人ほどの体格の良い男達が集まっていた。
「団長さん。約束して欲しいんだけど」
「…なんだ」
「もし僕が倒れてもそのまま良いって言うまで歩き続けて欲しいんだ」
「…分かった」
「それでもしかしたらあの人たちも病に…」
「大丈夫だ。伝えてある」
「良かった」
少し安心した表情を見せた朝日にトリニファーは苦悶の表情だった。何故彼はこんなにも勇敢なのだろうか、と。普通の少年ではないにしても大人でも尻込みするような状況で他の者を心配する余裕まである。どうしたらそんな人間になるのだろうか。不思議に思う。
「あ、良かった。思った通り薬草集まりそうですよ」
「…そうか」
ただ歩いているだけの少年とその後ろをついていくだけの騎士達。とても変な図だ。
そして彼は本当に歩いているだけで止まることもなければ、しゃがむこともない。本当に大丈夫なのか、と心配になる部下達に多少は同意せざる終えない。
「朝日、と言ったか」
「うん、ルークさん」
「何故君が此処にいる」
「薬師様が薬草がなくて困ってるからだよ」
「それは団長から聞いた。君は危険なのだ」
「じゃあ、ルークさんは何で此処にいるの?」
「…仕事だからだ」
「うん、僕もこれがお仕事なんだよ。おんなじだね」
ルークは質問の意図を理解して貰えなさそうだ、とそれ以上何かを言うのを辞めた。
「君は冒険者だろう」
「ルークさんは騎士さんだね」
「私は親に言われて騎士になるしかなかった。なりたくてなったわけではない。君は冒険者になりたくてなったのだろう?」
何でこんな話を彼にしているのか、不思議に思いつつも止める事はなかった。誰にも言わずにいたこんな私情を今更、なんて思いながらもずっと誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。
ただそれがこの少年だとは思わなかった。
何となく彼なら…そう思ったのだ。
「羨ましい?」
「…いや、騎士になった事は良かったと思っている」
「…」
「言いたい事があるなら言っていい」
歩きながらもルークの顔を見ていた朝日の視線が地面に移った事に気づいたルークは気にしない、と諭すように静かな声で言う。
「何でルークさんは役に立つか分からない、なんて言ったの?」
「…」
ルークは朝日から視線を外して自身の胸元を見る。
騎士達の団服には彼らの地位や功績を示すためのバッチや勲章が付けられている。
それを見る限りルークは中佐位の優秀な騎士なのだとムチの朝日でも分かる。
「…親から言われてなった騎士だが、だからと言って訓練や勉強を疎かにした事はない。この地位や勲章は私の誇りだ。だかな、それでも色々難癖を付けてくる奴はいる。私が団でなんと言われているか知ってるか?《七光り》だ」
「ルークさん自身もそう思ってるの?」
「…いや、そう自分が自分でそう思わないでいられるように鍛えてるつもりだ」
「なら、自慢すればいいんだよ。ルークさんが努力して手に入れたのものなんだから自慢すればいいと思う」
「…そうか」
終わりに、ありがとう、そう言っているように聞こえて朝日は嬉しそうに微笑む。二人は和やかな雰囲気で進み続けていた。
0
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる