スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

ree

文字の大きさ
上 下
16 / 157
第一章

愛刀

しおりを挟む


「これとか良いんじゃない?アイラは意外に可愛いもの好きだから!」

 う~ん、と唸る朝日。
 もうかれこれ1時間くらいはそうしているのでは無いだろうか。
 伯爵邸から出てギルドへ向かった朝日とゼノだったが、朝日に付き合いもう3日も依頼を受けていないゼノを気遣って今日は街で大人しく過ごすと約束して別れた。
 それから朝日が訪れたのはゼノと来たアクセサリー屋だった。アイラの兄で、ゼノの知り合いの彼なら最高のお礼の品を教えてくれると思ったからだ。

「これ、可愛いの?」

「可愛いだろうが!特にこのでっぷりとしたホルムが!」

「こっちにしようかな…」

 しかしその予想は見事に外れてしまった。
 まずこのオブジェが何なのか説明して欲しい。うさぎなのか、狐なのか、猫なのか。皆目検討も付かない。

「まぁ、それが無難だな。アイラの属性、火だし」

「じゃあこれにする!」

 やっと何とかまともな意見を貰い、ピカピカのポシェットからお金の入った袋を取り出す。ギシリと金属同士が擦れる音がその中身の多さを教えてくれる。
 やっと持て余していた大金の使い道を見出した朝日は何の躊躇もなくその袋ごとカウンターの上に乗せた。

「この二つで」

 アイラにはお勧めされた水属性の攻撃ダメージを軽減してくれる腕輪。ラースには冒険者の憧れマジックポーチ。
 どちらもかなり高価な代物だ。
 あの大金が一瞬で飛んでしまうほどの。

「あいつ、マジックポーチ持ってるぞ。それより容量は少ないけどな」

「これはラースさんの分!」

「何だ、あいつにはやらねぇのか!可哀想だなぁ!」

 とても嬉しそうにニヤけ顔でそう言う彼はとてもゼノを可哀想に思っているとは思えなかった。寧ろ楽しんでいるようだ。
 本当に友達なのか、と疑いの目を向ける朝日はジト目で彼を見据える。

「…ゼノさんが一番難しいよ」

「まぁ、あいつはもう既に何でも持ってるからな」

「…あ!」

 突然朝日が大きな声を出すので、カウンターで袋からひっくり返したコインを数えていた男はその山を崩しながらズッコケる。

「突然大きな声出すなよ!」

「ごめん、良いプレゼント思いついちゃって」

「あいつが喜ぶようなものなんてあったか?それよりもよ…マンドコラの髭根持ってねぇ?融通して欲しいだが…」

「うん、あるよ」

 男は再びコインの山を積み上げながら、チラチラと様子を伺いながら言う。朝日は今はそんな事はどうでも良い、とでも思っていそうな気のない返事をする。彼の頭の中を埋めているのはゼノへのプレゼントについてだけだ。

 何でも持ってるゼノが喜ぶもの、簡単じゃないか。持ってない、無くしてしまったもの。
 ゼノの愛刀だ。
 自身のスキルを最大限に活かせる素晴らしいアイディアだ。
 早く探しに行きたい、とばかりに足踏みをし始めた朝日。ゆっくりとコインの山を未だに形成中の男はその足踏みの音で気が散るようで、眉間に皺を寄せながら山を更に十個づつに分けた。

「はいはい、終わったよ。こんな大金持ってたんだな」

「ありがとッ!」

「おい!そんなに焦って何処行く気だ」

 ハッ、とその大きなビー玉の目を見開いた朝日に対して忘れてたんだな、と男は呆れたと言わんばかりのポーズを取る。

「ったく、何するつもりだったんだか」

「…ひ、秘密!」

「まぁ、いいけどよ。今日は辞めとけ」

「うん!」

 最後にもう一度お礼を言って店を後にする。
 ゼノと今日は街で大人しくしていると約束していた手前、勝手に森へ行くのは何となく敬遠される。ここは店員の言う通りにしておくのが吉だ。
 なので、明日簡単な依頼を受けつつ探すのが一番いいのかも知れない。どうにかしてゼノと別行動を取る方法を考えなくてはならない。出来ればゼノには見つけてから報告したいからだ。
 変に期待して見つからなかった時が一番悲しい。

「明日、一日で見つかると良いけど」

 なんとなく自信ありげにそう小さく独り言を呟いて朝日は宿屋に向かった。

 宿屋の女将はとても気さくな良い人だった。朝日を部屋に泊める、というゼノの急なお願いも直ぐに了承してくれて、わざわざ朝日用に簡易ベッドまで用意してくれる程に懐も深い人だ。
 宿は少し高めなだけあって部屋も広く、清潔感もあって、ふかふかの布団は寝心地が最高。室内は思いの外殺風景だが、女将の息子夫婦が腕によりをかけて作る宿自慢の料理は本当に美味しく、サービスで湯桶を付けてくれる気遣いも嬉しいし、女将の旦那が元騎士で身の安全、宿内の治安も保証されている。長く滞在する人が多いのも頷ける。
 ただお陰か宿泊客に冒険者は少ないらしく、ゼノは少し苦労した。
 と言うのも冒険者の朝は早い。夜明けとともに仕事へ向かうのが当たり前な職業。故に商人や旅行客の宿泊の多い此処では朝食は日が登ってから出されていた。
 当然ゼノは朝食時間前に出発するので宿自慢の朝食は食べられていなかった。
 ただゼノは他の冒険者と違い愛想はないが、何か問題を起こすこともないし、身なりも整えているので他の客が怖がることもない。
 そんなゼノを気に入った女将は彼の為だけに早起きして朝食を出すようになった。

「一人も二人も変わりゃーしないよ!」

 と、朝日が部屋を共にすると相談した時もさして嫌がる事も困ったような反応もせず、寧ろ嬉しそうにしているくらいだった。

「ただいま!」

「おー!今日の冒険は如何だった!」

「今日はね、お買い物だけ」

「おやすみかい?怪我でもしたかね」

 朝日の声に女将と旦那が出迎えに裏から出てくる。二人にとって出迎えはいつもの事だが、こう可愛らしく挨拶されれば顔も緩むに決まっている。
 旦那は早々に朝日を椅子に座らせ、女将は砂糖で漬けたフルーツのシロップを冷たい水で割った特製ジュースを机に置く。
 心配そうに顔を向けられた朝日は首をブンブン振る。

「ゼノさんとね、今日はおやすみするって約束したんだ」

 朝日が此処に泊まったのはたった1日で、その1日目は日も暮れた夜遅くだった。
 ゼノの連れと言うだけでも興味が湧くが、それがこんなにも可愛らしい少女のような少年だったのなら興味以上の反応をしても許してあげて欲しい。
 そして今朝、聞いていた通りの外泊、からの中途半端な時間の帰宅。食堂でポツンと一人で食事を取る朝日が気になって仕方がなくなったのは当然のことだろう。
 煩わしく思われないように適度に距離感を持って声をかけた筈だった。
 なのにいつしかあの真面目な女将が仕事も忘れて彼と話し込んでいる。夕食の支度を済ませた旦那はそれを見て驚いた。
 女将に声をかけて少年の相手を変わる。

「冒険の話をしてたのか?」

「うん!この前ゼノさんとね、一緒に行ったの!」

 嬉しそうに話すもんだからついつい質問をしてしまう。
 何をしたのか、何が楽しかったのか、大変なことはなかったか、干し肉やパンは硬くないか、魔物は危ないぞ。
 そしてまるで親のようにどんどん心配の声に切り替わっていく。
 それがほんの今朝の話。

「おやすみして買い物か。何を買ったんだ?」

「お礼のプレゼント買いに行ったの!」

「お礼の?冒険者はお礼なんて…」

 女将と旦那は宿泊者たちを出迎えるまでの時間をいつも持て余していた。少年に構うにはとても都合の良い時間。
 ついつい口をついて出た悪口を旦那はグッと飲み込む。
「僕ね、大切な物を盗まれて困ってたのを助けて貰ったんだ!だからね、お礼したくて!」

 この純粋な少年が冒険者に何故か憧れていて、夢見ていて、楽しそうに語らうのだからそれを壊しては可哀想だ、と飲み込んだのだ。

「…盗まれた?」

 ただそれは話しが違う。
 少年を連れて来た時と外泊をすると報告を受けた時、確かにゼノがいつもとは違い少し荒々しく、何かあったのだと言うのは分かっていた。
 ただ、その理由を聞くのは宿屋の女将としてあるまじき行為。余計な詮索は嫌がられる。
 だからその日も気づかないフリをした。
 だが、なんだ。
 自分らの子供のように可愛い子が悪い奴に泣かされた。そんな話を聞いたら黙って置けるわけがない。

「朝日、何盗まれたんだ」

「コレ。でもね、びっくり!綺麗になって帰ってきたんだ!」

 二人はその意味を理解して余計に腹立たしく思う。綺麗になって戻ってきた、と言うことは壊れてボロボロだったという事だと、直ぐに理解してきたからだ。
 ただまた、グッと堪える。
 彼がそれに気が付いていないのなら、わざわざ知らせる必要もない。あのゼノも敢えてそうしたから彼は知らないのだろう、と分かったからだ。

「今日のご飯何だろう。何かスパイシーな匂いがするね」

 そして何より彼とはまだ出会って2日目。
 宿屋の女将と旦那が揃って出て行くような話ではないのだと言うのも勿論分かっているのだ。

 二人は見守るような優しい視線を送る。
 彼が元気なのなら特に文句はないのだ。
 二人は新しく入れたコーヒーを追加し、少し姿勢を崩す。今日の夕食のメニューを当てようとクンクン、と鼻を鳴らす朝日ともう少しだけ休憩を楽しむのだった。








しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...