スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜

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第一章

屈強な男

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 分かりやすいくらい煌びやかに聳える貴族門までの道のりとは違い、昨日のアイラに貰った地図とギルドまでの道沿いにある目印の店を照らし合わせながらゆっくりと歩く。
 自身の方向感覚はまるで信じていない。
 それが森の中で数ヶ月も歩く結果になったのだから。
 そうしてやっとギルドにたどり着いた時にはお腹の虫がなる頃だった。
 ただ、騎士団での出来事が心に引っかかっていて、何となく食欲が湧かない。とりあえずギルドに、と思い扉に手を掛ける。

「…おい」

 後ろからかけられた渋めの声は昨日宿屋で一緒になった彼だった。朝日の予想通りあそこに泊まっている人達は路地裏の人達よりもどちらかと言えば屈強で強そうな人ばかりだったので彼らは同じく冒険者なのでは?と思っていたのは正解だったようだ。
 彼はその中でもずば抜けた体格の持ち主だったので、朝日も思わず声を掛けてしまったのだが。

「おはよう…?」

「…あぁ」

 彼はとても怖そうな顔立ちだし、手も早そうだが、決して悪い人ではないのだろう。だってこうして朝日のと挨拶にきちんと返事をしてくれているのだから。
 彼が扉に手をかけたので一緒にギルドに入る。
 彼は気にせず、そのまま依頼掲示板へ向かう。

「おはよう!朝日くん!待ってたわ~!」

「おはよう、アイラさん」

「今日から冒険者ね!先輩からのアドバイス!近場でも油断しない事!じゃあ、掲示板で依頼を探してね!」

「はい!」

 掲示板を見つめる朝日の後ろでニマニマと見つめているアイラを男は睨む。
 彼女はどれがいいかと朝日に聞かれるのを待っているのだろうか。そんな男の視線を完全に無視していたが、ふと思い出しかのように手を叩き、もぬけの殻になっていた受付から一枚の紙を彼に差し出しながら言う。

「あ、丁度良かった。ラース、貴方に指名依頼よ」

「…」

 アイラに差し出された紙を無愛想に受け取る。

「本当に相変わらず何も喋らないわね。無口とかの次元じゃないわ」

「そうなの?さっき挨拶してくれたよ?」

 2人の話に耳を傾けていた数人が酒場の椅子から転げ落ちる。そんな訳ないと体勢を立て直し2人に再び視線を向ける。

「どれ受けるの?」

「…ん」

 子供は怖いもの知らずだ、と震え上がる身体を何とか抑える。お前がいけ、と朝日に何かあった場合、誰が助けるのか、とお互いに譲り合いするくらいにラースは恐れられているようだ。こんな時にゼノがいればと祈る人までいる。
 そんな彼に挑もうとする程までに彼らにとって朝日は貴重な低ランク冒険者なのだ。

「僕、今日が初依頼なんだ。おすすめある?」

「…これだ」

 その場の全員がピクリとも動かなくなる。
 信じられるだろうか、本当に普通に会話をしているのだ。この場にいる全員が今日初めて彼の声を聞いたと言っても過言ではないのに。
 名前はギルドカードを見ているアイラが呼ぶのを聞いているし、彼が相当な実力者なのも受ける依頼から分かっている。
 しかし声だけは誰一人として聞いた事はなかったのだ。それがどうした。ほぼ初対面の相手の子供と気軽にとは言わないが会話をしている。
 付き合いの長いアイラですら話したこともないのに。

「一角うさぎの角5個か…」

「…」

「その他はある?」

「…。蛹海老」

「何それ!面白そう!それにする!」

 話しは弾んでいる様子。朝日が一方的に盛り上がっていると思わなくもないが、彼もきちんと受け答えしているのだからとりあえず危険はなさそうだ。
 誤解ならいい。ただ彼らが気を抜けない理由もある。過去彼はギルド規定違反を起こしている。実際に何をしたのかは知る由もないが、実際に何かをしてしまった為の1ヶ月の謹慎を受けているのは周知の事実。それで前のギルドから此方に移って来たのだから。

「そう言えば…昨日とは格好が違うね」

「金がなかった」

「そっか、かなりボロボロだったから買い替えたんだね」

「…貰った」

「貰ったの?」

「…あぁ」

「優しい人だね」

 少し嫌な間があったことは此処ではあえて言わないでおこう、とその場の全員がゴクリと生唾を飲み込みながら思ったのは言うまでもない。

「これにするの?」

「はい!これでお願いします」

 アイラに掲示板から剥がした依頼書を差し出す。皆んなの心配を他所にそれはもう嬉しそうで、ただただ場が和んでいくのを感じた。

「蛹海老の捕獲50匹ね。生息地や注意事項も書いてあるから読んでおいてね!処理の仕方はこっちを読んでみて。結構大変だし、時間も掛かるから根気強く頑張るのよ?納品は指定されてる店に直接持って行くこと。終わったら店主から依頼書に店納品確認サインを貰ってギルドに来て依頼達成よ!」

「…あ、僕店の場所分からないや」

「此処に地図載ってるけど?」

「…そ、そうだよね。頑張るよ」

 歯切れの悪い返事をして元気よく飛び出して行く。確か昨日も色んな場所を聞かれたなぁ、と思い出し、少し心配になったアイラは追いかけるようにギルドを飛び出す。

「分からなかったら、ギルドにおいで!誰かに案内頼むから!」

「本当?ありがとう、アイラさん!」

 ジュッギューーン。
 アイラの周りには花ビラが舞っているかのようにピンク色だ。勿論もう朝日は前を向いて走っていてその姿までは見えていなかった。

 門まで無事到着した。
 と言ってもどこにいても高く聳える門は見えているので迷うはずもないのだが。

「出国ですか」

「はい」

「身分証はお持ちですか」

「これです!」

 淡々と作業を進める門番。
 彼が着ているのは青い隊服。青の騎士団の人なのだろう。青の騎士団は国を守る王国駐屯兵で外に出る事はあまりない。街中でよくすれ違うのも青の騎士団だったりする。

「…16…さ、…お気を付けて。次どうぞ」

 少し疑問を持った彼は言いたい事は飲み込んむ。ひとりひとりにお見送りの言葉を送ってくれている彼はとても律儀で礼儀正しい人なのだろう。

「あ、一角ウサギの依頼も同時に受ければ良かった」

 朝日の大きめの独り言に返事するように森が騒めく。門の方に目を向けるが気付いた時にはもう遅い。また門を潜るにはそれなりに時間がかかりそうだ。今日は諦めようと再び歩みを進める。
 慣れたもので森をスイスイと進む。
 当然道などない。方向音痴の朝日には木を覚えるなんてのも無理だ。帰り道を迷わないようポシェットから綺麗な綿を取り出す。それを木の幹に押しつけて引っ掛かるようにして進んで行く。
 依頼書によるとかなり森深い滝壺に生息する蛹海老はこの時期になると滝壺から半径50メートル以内にある木まで余裕で飛んで張り付き、そのまま蛹になる。1ヶ月前後で蛹から孵ると、水陸両方で生活できるようになる。とても俊敏で水陸どちらでも動ける為、追い込み漁も釣りも難しい。
 陸上での彼らの餌は木の実や葉、木の幹にまで達する。周辺の木が枯れ果てるまでその場所を拠点に活動し、枯れるとまた別の滝を探して森を消してを繰り返して行くのだという。
 今回はその蛹海老の捕獲が目標で蛹の間のものに限ると書かれていた。
 如何やら蛹の間に宿った木から離れるともう羽化はできないそうだ。そして何とも美味なのだと言う。この季節の限定メニューに使うと言うことまで書いてある。

 この森には何処から湧いたのか滝のような、噴水のような場所が数多く分布している。未だにその数を把握できないほどにだ。
 それはこの森が日々変化していて、ある日突然増えていたりもするからだ。
 その原因は分かっていないのだとか。なので当然地図もない。いや書けない。

 とりあえず今回の目標『蛹海老』は森の奥深くで尚且つ滝のある池で更に周りに木が生えている場所に生息しているようなので、まだ探し易い対象と言えるだろう。
 
「水の匂い…」

 長くこの森で過ごして多くを吸収して来たので地図がない事が逆に良かったのかも知れない。匂いや音、生えている植物の傾向、出会う動物達の種類。情報は意外に沢山あって、それに集中することが出来るから。

「ふふふ、てんとう虫みたい」

 案外簡単に見つかったようだ。
 思わず笑みが溢れる。
 木に赤い斑点が付いているのが遠くからでも確認出来た。













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