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第一章
王都カバロ
しおりを挟む「私の名前は、セシル・ハイゼンベルク。白の騎士団の副団長を務めております。私の事はセシルでもシルでもお好きにどうぞ」
「俺はクリストファー・ランダレス。クリスでいい」
「貴方のお名前は?」
「僕はアサヒ・ヨウノです」
あれから団長と黒い騎士の一悶着の一部始終を見ていたのだが、急に団長が目の前が暗くなったと思って次に光を感じた時には今朝、彼と出会った場所からほど近い野営地に立っていた。
背の高い草のせいで見えていなかったみたいだ、と妙に納得して自分の通った小道から団長に目を向けた。
驚いたは驚いたが、それよりも助けた人達はどうするのかととても心配になっていた朝日の視線に、団長は別の者を送った、とただ一言告げた。
それから何故か無言で運ばれて、馬車に乗せられて、同乗したのが彼らセシルとクリスだった。
セシルは色んなことを教えてくれた。
これから向かう国の事、さっきの森の事、そして彼らの事。
団長と呼ばれていた彼はこれから向かうフロンタニア王国にある王都カバロに駐屯している白日の騎士団、通称白騎士の団長ユリウス・エナミラン。歳は27歳で爵位は侯爵だと言うこと。
そして野営地まで連れて行ったあの技は《跳躍》と言うものでただジャンプして移動しただけだと言う。
確かに少しふわっと浮くような感覚があったかも、と思い出いだすように唸る朝日だったが、ユリウスの胸に顔を押しつけられるようにして強く抱きしめられていたから視界は真っ暗で、正直何が起こったのかは全く知らなかった。
宙を見上げている朝日に勿論そんな神がかりな事は彼にしか出来ないのだとセシルは力強く言った。
「この子は白日の騎士団団長、ユリウス・エナミラン侯爵閣下の庇護を受けている。監督代理のセシル・ハイゼンベルクが身元を保証する」
「…はぁ…白の団長様が、ですか…」
「まだ何かあるのか?」
「…い、いえ!白日の騎士団副団長殿、特攻隊長殿、お疲れ様です!了解しました!」
「入国税はこれで良いか」
「た、確かに。どうぞお通り下さい!」
この国には4つの騎士団がある。温かな心で思い遣り、温厚篤実に国民を守る赤誠の騎士団。強い忠誠心を持ち、泣斬馬謖に王を守る碧血の騎士団。真実を追求し、真実一路に国の秩序を守る、白日の騎士団。影に忍び、陰森凄幽の如く裏から支える黒印の騎士団。
それぞれ色を取って赤騎士、青騎士、白騎士、黒騎士と呼ばれているらしい。
今の門番は青い制服を着ていたので多分青騎士だろう。
「お二人ともお偉い方だったんですね」
「まぁまぁだな、そこまで偉くない」
「アサヒ君は街に来て何をしたかったのですか?」
「森では迷子になっている間に色々と“回収”して沢山薬草や素材を持っているのでそれが売れたらな、と思っています」
「その後は?」
「出来れば冒険者になりたい、です」
「そうですか、冒険者に。それでは先立つものも御座いましょう」
「確かに…このままでは行けませんね」
どう見ても軽装、と言うかその前に外歩きの用の服でもない。武器も防具もないし、闘いのたの字も知らない。
「それでですが。団長から伺いました。貴方のおかげで致命的なミスを回避できたと。トロルの情報料も入れてあります。お受け取り下さい」
「え、トロルは黒い人達の獲物だったと聞きましたし、交換条件だったのに情報料なんて受け取れません」
「あぁ、それはお気になさらず。手柄を譲った事になったので、いい貸しになりました。此方としては寧ろ感謝しております。その謝礼という事で」
「…でも」
「お受け取り下さい」
「こういうのは有り難く受け取っとくもんだぞ」
「は、い」
朝日のビー玉の目がうるうると輝く。困ったという気持ちを隠す気もなく、まるで子犬のような反応だ。
そこにトロルの刺激臭さえしなければもっと良かっただろう。
少し咳き込むセシルを大丈夫かな?と覗き込む顔はあどけなく、男であると忘れてしまいそうだった。
セシルが顔を背けながら、朝日の両肩に手を遣ると途端に清々しい森のような匂いに包まれる。
「これでもう大丈夫」
「とても良い匂いです。ありがとうございます」
「…あ、その。ありがとうございます」
何にありがとうなのかよく分からず首を傾げる朝日に、2人は数歩後ろに身じろぐ。息の相過ぎているその行動に朝日は思わず声を上げた。
「…そ、そういえばアサヒは何歳なんですか?」
「僕は成人したての16歳です」
「「はぁ?????」」
「ほやほやですよ!」
確かにあどけないと言った筈が。見た目だけではなく話し声とか仕草とか、どれを取っても12、3才かそれ以下だろうと誰もが思っていた。
当然成人しているなんて誰一人として思っていない。
動揺を隠す為に話を変えたつもりが、更に驚かされる2人は空を見上げてながら頭を抱えてため息をつく。
「それにしてもクリスさんはとてもカッコいいですね。筋肉とか、とても憧れます!」
「クリスがカッコいいだなんて…」
「ほ~。分かってんじゃねぇか、坊主」
「そしてセシルさんは美しいです」
「う、美し…」
赤く火照った頬を隠すように両手で覆うセシルを意地悪く揶揄うクリストファー。それを目元を緩めて微笑む朝日。何かとてもいい雰囲気だ。
入国後、道案内がてらに馬車を降りて少し街を見て回る。本当の意味の初めての街に感動する朝日は目を輝かせてちょろちょろと動き回る。彼は本当に見ていて飽きない。
「此処が冒険者が集まるギルドです。仕事の仲介、素材の買取、情報提供、冒険に関する事なら何でも取り扱っている所です」
「おっきい建物ですね…」
見上げるほど高い建物に呆気に取られる。
「それより、朝日はどんなスキル持ってんだ?」
「秘密です」
「何だよ、ケチ臭いな」
「クリス、辞めなさい。無理矢理スキルや情報を聞き出すのはご法度ですよ」
「クリスさん心配しないで。僕元々闘えないですし、魔物退治とか危ない事はしないですから」
「うぐッ……」
「ふふふっ」
心配から言っているんだと本心を突かれて狼狽えるクリストファー。そうだったのかと、とさっきの仕返しとばかりにクスクス笑うセシル。
「此処からは我々騎士団は介入出来ない領域になります。ギルドと国はお互いに協力はしても干渉はしないと決められておりますから」
「はい。此処までありがとうございました」
「お気を付けて」
「頑張れよ」
「行ってきます」
礼儀正しくお辞儀をして別れを告げた朝日の背中に送る2人の眼差しはとても優しい。
「…私、良い匂い、します?」
「おい、辞めてくれよ!この俺が野郎の匂いを嗅げるとでも思ってんのかよ。アイツが良い匂いだと思ったんならそうなんだろーよ。そう言う意味ない嘘つくタイプじゃねーだろ。それよか行かせてよかったのかよ。保護したんじゃなかったのか?」
「ふふふ、勿論そうですが、本人の好きにさせろ、とも言われたんです。だからギルドに入りたいならやらせてあげないと」
「おー、怖」
そんな気ない癖に、とわざとらしく自身を抱き締めるようなポーズを取るクリストファーにセシルは更に笑顔を送る。
本気の殺気に思わず身震いしてしまったクリストファーは視線を逸らす。
「つか、お前らしくないな」
「私らしく?団長の指示に従ったまでですよ」
「いーや、そもそも普段ならこんな指示無視してるだろうが。頬なんか赤らめやがって」
「それは君も同じじゃなかったですか?」
「…ウルセーよ」
たった数時間と言う時間の中ではほんの少ししか彼の事を知れなかった。のにも関わらず、常に微笑みは絶やさないが、何事も傍観に徹して敵の嫌なところを突く『笑顔のすげない人』と謳われるセシルも自分ができる事は他人も出来ると思い込み、無理難題を押し付け敵味方を問わず『狂乱の鬼』と恐れられるクリストファーすら心配する程にまでには懐柔してされてしまう。
彼は何か特別な事をしたわけではない。それが分かっているからこそ、他人でも惹きつける何かを持っているのかも知れない、とついつい思ってしまう。
「しっかし、危なっかしい奴だったな」
「2人付けてます」
「はぁー。大変過保護なことで」
「貴方も今言ったばかりじゃないですか。彼が危なっかしいと」
「んで?誰付けたんだよ」
「…クロムとミューズを」
「ゲッ。あの2人かよ。つか、あのちっちゃいの。お前にゾッコンだからセシルだなんて呼ばせてるってしれたらアイツ何するか分からないぞ?俺にだって平気で剣抜いてくる奴なのに大丈夫かよ」
「それは貴方が面白がって彼らを揶揄うからでしょ?彼女にはきちんと言い含めてます。それにクロムもいるので問題ありません。それよりこれから盗賊達の尋問です。彼らを自首に導いかせたのは何だったのか。聞き出さなくてはなりません」
「態々あの執事まで付けますかね?どれだけ懐柔されてんのやら」
やれやれ、と言った感じで両手を頭の後ろで組み、やる気のないように言うクリストファーに何か言うわけでもなく、ただ前を見据えるセシルは早足で騎士団の詰所へ急ぐのだった。
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