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隣国エテルカールトン

調査(3)

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「ユシテル、まだ来客…!」

「それどころではないのよ!どけなさい!」

 執務室の外から聞き慣れた二つの声と、これまた聞き慣れた大きな足音と重たい物が引き摺られるような音。

「ちょ、ちょっと!」

「師匠!失礼します!報告が……ふむ」

 居ても立っても居られないとばかりに猪突猛進状態で突き進むユシテルを必死に進ませないようと腰にぶら下がっているヒューゴ図は幼い頃からよくみていた光景だ。
 いつも通りユシテルを止める事はできず、そのままギルド長室の扉が大きく開け放たれる。

 目の前には猛き蒼狼のメンバーとそれに対面するようにギルゲインとマーサの姿。
 にっこりと微笑み何とも思っていない様子のラウリ達猛き蒼狼のメンバーに対し、やらかしたな、と言わんばかりの困り顔のギルゲインと明らかに怒っている様子のマーサに流石のユシテルも一瞬たじろぐが、持ってきた内容が内容なだけに再び目に力を入れる。

「…分かったわ。どうしたの?」

「師匠、流石にここじゃ言えないわ」

 諦めたように言うマーサに一応冷静らしいユシテルは猛き蒼狼に視線をチラリと向けて言えない理由を伝える。

「どうせ貴方達のことです。勝手にエレファンスへ調査に行ったのでしょう。彼らに頼んだ調査内容も同じです。気にせず言いなさい」

——ギロッ

「コラコラ、ユシテル。睨むのはやめなさい。師匠、すみません。私がついていながら…」

 自分達に頼まず、猛き蒼狼に調査を依頼したと言う事に納得行かないと、全力で睨みつけるユシテルにようやく追いついてきたメンバー達が息を切らしながらなだれ込むようにして入ってきた。
 セーナは苦笑いの猛き蒼狼にペコリと軽く頭を下げて謝り、こうなった事情を説明する。

「私たちも信じられなかったのです。でも、実際にこの目で見てきました。ソーロの氷結ダンジョン(水属性)、きのこダンジョン(土属性)、オーブランドの樹海ダンジョン(風属性)、業火ダンジョン(火属性)、サンネルの陽光ダンジョン(光属性)、ポーリの漆黒ダンジョン(闇属性)……フローネの上級ダンジョン以外は全て無くなり、全てエレファンスに移動していました」

「えぇ、そのようね」

「師匠は知っていたのですか!?」

「私達も知ったのは昨日です。各領のギルド長伝えに知らせが来ました。ダンジョンが無くなって二週間になるそうです。連絡が遅れたのも確認作業とダンジョンの閉鎖作業に追われていたとか」

「師匠、私たちが掴んだ情報はそれだけじゃないんだ」

「どうやら、この件全てに関わっている冒険者が二組います」

「それは何処だ」

 珍しく鋭い視線を向けるギルゲインに言い淀むジャーシムの頭を優しく撫でながら、セーナが落ち着いた口調で話す。

「…【紅の空】と【白き百合】です」

 少しは予想はしていたのか、さほど驚くでもなく小さく頷いてみせる。

「常闇を疑ったのは悪かったな」

「…いえ」

「僕たちも常闇さん達は関わってない情報を持ってきたんです。疑いは晴れてますよ」

「ラウリ、ユシテル。お前達パーティーのことは信用している。だから、今回の件の調査を頼んだ。今はまだこの件は内々にしておきたい。今後外で語る事を禁じる。当事者は勿論、部外者にもだ」

 全員しっかりと頷いて、その場はお開きとなった。

「浮かない顔をしてるな」

「…出来すぎてる気もしてね」

「確かにそうだが、現状疑う理由がないぞ?」

 マーサは一息つくためにお茶を啜る。
 カップを置いても視線はそのままカップに向いたままマーサはポツリと言葉を紡ぐ。

「だから、疑わしいのよ」

「?」

「常闇に限っては何もないって事が逆に怪しくなるのよ」

「…まぁ、そういうのを考えるのは俺には合わねぇからよ。やれる事があったら言ってくれ」

「えぇ」

 その後二人の間には長い沈黙が訪れた。











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