上 下
236 / 244
隣国エテルカールトン

報告

しおりを挟む



「って感じだったわ」

「なるほどな…」

 常闇が90階層を踏破した影響は凄まじいものだった。
 新たなダンジョン品の流通は勿論、冒険者達に良い意味で刺激を与え、中でも一番大きな影響を受けたのが新人冒険者達だった。
 これまでAランクパーティーでありながら、烈火の姫や紅の空らの陰日向に隠れ、目立った功績は無かった常闇のこの快挙だ、当然注目度は高まるばかり。
 そしてその注目は彼らを讃えるようなものから妬み嫉みまで捉え方は様々で、そのせいか彼らの目立つことのなかった過去についてもそれこそ良いものから悪いものまでさまざまな憶測や嘘に更に尾鰭が付き、酷い言われようだった。

「こんなのアイツら常闇気にする事はないだろうけど、気分のいいものじゃないわ」

「…それが、奴らに憶測では済ませられない嫌疑があるのは確かだ」

「嫌疑?まさか!アイツらは確かに陰湿だし、面倒な奴らだけど、嫌疑がかかってるなんてフローネに住む人間なら誰も信じないわよ?」

 ユシテルは腕を組み、足を組み、隣に座るレイに背を預けるという堂々たる佇まいながら、少し伺うようにその魅力的な流し目でギルゲインを見据える。

「残念だけど」

 しかし、ギルゲインの態度が少しも変わらない事と絶対的な信頼を寄せているマーサが彼らが持っていたその僅かな望みを切り捨てた事で常闇に少しずつ本当に嫌疑が掛かっているのだと理解し、烈火の姫達はその理解と共に姿勢を正した。

「…何の嫌疑なの?」

 そして、ギルゲインとマーサから新しく出来たダンジョンについて、そして常闇がその調査を請け負ったこと、調査結果の齟齬、その土地は王家の土地である事など確定要素は無いものの状況証拠が固まってしまっている事を伝えられる。

 これまでAランク冒険者としての名声を総取りしてきた烈火の姫だが、そのデビューは常闇と一緒でAランクに上がったのは常闇の方が先だった。
 それにシェーマスがユシテルに惚れていたこともあり、かなり遠回りな方法ではあったがAランクに上がる時にはかなり助けてもらったし、Aランクへ推薦をしてくれたのも彼らである。
 烈火の姫にとって常闇は同期であり、同志であり、盟友だ。

 信じられないと言う思いと同時に、烈火の姫だからこそ知る彼らの裏の顔が絶対に彼らは何もしていないと言い切れさせない。

「…まだ詳しく調査できてないんでしょ?」

「…そうね。一応、このダンジョン調査での彼らの依頼主はギルドとなっていたし、確定証拠は全くないわ」

「…全くない、か。師匠はそれが不自然って言いたいのですね」

「嫌疑、として留めているのはその部分だけ。ただ、彼らだからこそ全くない、と言われればそれまでよ」

 常闇のスタイルは事前の下準備を完璧に整え、最短最速安心安全を担保した状態で攻略を進める。
 それは彼らの高い情報収集能力があるからこそ実現出来る、他には真似出来ない常闇ならではのスタイルだ。
 セーナがシェーマスに感じた違和感はそんな彼らがまだ何の情報も出ていない90階層の情報をいつ、どんな手で手に入れたのか、と言うものだった。
 セーナは常闇がそのアイデンティティだけは絶対に崩さないと言う事だけは絶対だと知っている。
 それがセーナにとって彼らを疑わざる負えない布石にしか思えなかった。


しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...