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隣国エテルカールトン

魔法石の糸

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「お待ちしておりました」

「遅れてすみません」

 ダンジョンの噂の事もあり、情報収集の為予定よりも2日ほど遅れてダルクに到着した。
 到着早々、アークさんは領主としての対応を決めるためにミャールさんとシュナさんと共にフローネに一度戻る事になり、私はフィオさんと二人でジョルジットさんのお店に来ていた。

「お気になさらず。色々大変だったのでしょう」

「…はい」

「それよりも宜しければ完成品を見てくださいませんか?」

「もう出来てるんですか!」

「えぇ。自信作です」

 ベルベット地のトレーに綺麗に並べられている糸。
白、黒、赤、青、黄、緑、紫、ピンク、オレンジ…とその色取り取りの糸に思わず視線を奪われる。
 ベルベット地の光沢にも負けない美しい絹の様な艶があり、手触りもとても滑らかでしなやかなのにしっかり丈夫。

「凄い…」

「はい、私も出来た時はとても驚きました。ミスリルよりも扱い易く、絹の様な手触りなのですから」

「どんな風に出来るのか、凄く気になります」

 こんな時に不謹慎だった、とフィオさんに視線を向けるもいい笑顔で返されてドキリとする。

「見てみますか?」

「い、良いんですか!?」

「えぇ、もちろんです」

 店舗と繋がっている作業工房に案内される。
 まだ作業中だったのか、机の上には様々な魔法石が乱雑に置かれていた。

「一般的な糸紡ぎはメンカーのような繊維の細かい綿や動物の毛などを用いて作ります」

 ジョルジットさんが作業台の引き出しから手頃なワタを取り出して、机の上に置く。

「普通なら此処でこの篠からこうしたゴミを丁寧に取り除いて、カーダーをかけて繊維を綺麗に整えます」

「大変ですね…」

「これは慣れていないと一番苦労するところかもしれませんね」

 説明しながらも身体が一連を覚えているのだろう、慣れた手付きでそれらの工程を手早く済ませる。

「こうして整えた繊維を優しく巻いて、ここから糸を紡いでいきます。ですが、魔法石の場合は…」

 そう言うと、ジョルジットさんは手のひらサイズの魔法石を一つ取り、魔法陣が彫られた石台の上に乗せると、聞き慣れた甲高い声で歌の様に呪文を唱える。
 暫くすると、一瞬だけ魔法石が輝いた様に見えて私は思わず近づいてその魔法石を凝視する。

「こんな感じです」

 ジョルジットさんはそう言うと、魔法石の表面を摘む様な仕草を見せる。

「…驚きです」

「これは面白いね」

 ジョルジットさんが摘んだところから納豆の糸が引くみたいにキラキラと光りながら細い繊維が現れたのだ。

「勿論このままでは全く強度はありませんから、この繊維に縒りをかけて、この糸紡ぎ機で…こうして巻き取っていきます」

「初手の作業がないと言うことですね」

「はい、通常ミスリルでも普通の糸と同様にゴミ取りや仕上げに綛や縒りどめなどの作業は必要なのですが、魔法石ではそれすら必要としません。ただ、その代わり…」

「その代わり?」

「色はそのままの色になります。染色が出来ませんでした」

「なるほど…」

 確かに染色が出来ないとなると私はこれで防具を作る予定だったので、デザイン的に使えない場面も出てくるかもしれないが糸が見えないデザインにするなど方法は色々ある。

「…ちなみにどのくらい作れそうですか?」

「お望みの限りお作りしますよ」

「魔法石の調達はどうするのですか?」

「そちらはご心配なく。私、なかなか強いのですよ。昔は種族を隠して冒険者もしてたのですよ」

「…み、見えないですね」

 マーサちゃん然り、ジョルジットさん然り。女性の強さは見た目では全くわからないね。







 




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