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隣国エテルカールトン
ダンジョンの主人(1)
しおりを挟むエテルカールトンへの道のりは前回の王都旅とは一味違う。途中までは馬車で行くのだが、今回はあの煉獄ダンジョンの20階層まで行き、そこから3階程下ったところからエテルカールトンのユーグルタ領に入り、そこからまた馬車に乗り換えて聖都カールへ向かうらしい。
何でも昔、鉱夫が掘り進めた先が煉獄ダンジョンの17階と繋がっていたらしい。
前にマリーちゃんと一緒に来た温泉。湯棚に見えたあの場所は実は階段だそうで、だから魔物に襲われないのか、と今更ながらに納得した。
「今日の日課はこれからですか?」
「日課?」
「余計な事を言ってないで仕事をしろ」
馬車を付けている門前を守る兵士に声をかけられる。実際に声をかけられたのはフィオデナルドさんだったようで、本人はそれに少し苛立った様子で答える。
「フィオさん、日課ってなに?」
「……何でも「フィオ、最近、朝風呂、ハマってる」
「朝風呂…?」
「…はい」
「出発するにゃ~!」
アークさんが用意した馬車に乗り込む。
馬車に乗るのはアークさんと私、それからノアとウンディーネだけ。他の皆さんは馬に乗って馬車を取り囲んでいる。
「あんな言い方したら誤解するにゃ!」
「何がいけなかったんだ」
「デリカシー、かけてる」
何故かフィオデナルドさんが二人に怒られてる様だけど何を話しているのかは聞こえてこない。
「フィオのやつ、あれで実はあんまり慣れてないんだ」
「何にですか?」
「まぁ、気にしないでやってくれ」
『滑稽だな!』
「んなぁ」
「?」
よく分からないけど私にはあまり関係のない事なのだろう。
煉獄ダンジョンにはあっという間に付いて前回と同じく魔法陣で20階まで上がる。
20階層は前回行った5階層とは少し違い、湯に硫黄が強いのかあの硫黄特有の独特な匂いが苦しいくらいに漂っていてそのせいか地面が黄色い。
更に前回の場所より気温も高く、かなり蒸し暑くて湿度も高く、とにかく湯気が凄い。
「リザ、手を握るよ?」
「えっ?」
これでどうやって歩くのか、と少し不安になったが、フィオさんが私の手を取り、【金色の獅子】の皆とお揃いの金色の華奢な作りの腕輪をそっと嵌める。
すると、視界一面にあった湯気が一気に晴れ、そこには一面が黄色で起伏のある岩々、池や沼が広がっている。
黄色に見えるのは地中の硫黄が噴出しているからのようで、それはかなりの絶景だった。
「すごい…」
「サプライズ、嬉しい?」
「ここはまだまだにゃ。上に行くともっとすごいにゃ!」
「40階層あたりまで上がると一面が七色になっているんだよ」
「そうなんだ…」
「結構、面白いだろ?」
その景色はいつかは見てみたい。
冒険にはこういう瞬間があるのか、と。そして、冒険者達が命懸けでダンジョンへ行く気持ちも少し分かる気がした。
それから17階層までは更にあっという間だった。
煉獄ダンジョンは1階層から100階層までが一本の階段で繋がっている珍しいタイプのダンジョン。
だからと言って100階層まで一直線に行こう!ということは出来ないらしい。
分かりやすい例をあげると、マンションのベランダの間仕切りみたいな感じで、10階層ごとに区切られていて水や風が通り抜けるくらいの隙間ははあるけども人が行き交うことは絶対に出来ない壁があり、更に階層一つずつ攻略しなければ、今みたいに煙に撒かれて前に進めないのだとか。
あの湯気は私だけに見えてたってこと。
マンションのはいざという時強行突破出来るけど、ダンジョンのは勿論出来ない。
だから、みんな1階ずつ登って行くのだそう。
そして後は坑道を抜けるだけ、だと言う時。
———汝ら、何処へ行くつもりだ
燦々と照っていた太陽が一瞬で陰り、途端に立っていられないほどの強い縦揺れと、何処からとも無く妙に頭に響く声が聞こえて来た。
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