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隣国エテルカールトン

足りないもの

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 協力してくれている皆さんのお陰で連日、商品作成と個別注文を捌くのでいっぱいいっぱいの日々です。
 とにかく私は作品を作っては運ばれていく様を眺めるだけの日々を過ごしました。
 だけど少しずつ、少しずつだけど私の作品を街で見かけるようになって漸く本当にお店を持ったのか、と言う自覚が湧いてきた。
 商会が軌道に乗ったのもその頃だった。

 ただ、軌道に乗ったと言っても問題はたくさんあった。盗作、贋作は予想通り出て来てしまったが、それは予想通りだったので、アークさん達が色々と動いてくれているみたい。
 ただ、実は他の問題が出て来てしまった。
 それが万引きやスリ。街の治安問題になるほど相当な数の被害が出ているらしい。
 どうやら、私が作った物はこの領から外に出ると更なる価値になっているようなのだ。

「だからな、リザ。ちょっと隣国に行ってきて欲しいんだ」

「すみません、領主様。その…突然“だから”と言われましても全く何が“だから”なのか分かりません」

「領主様…か。随分と心の距離が離れてしまったようだ。リザ…今までと同じようには難しいだろうか」

「でも…」

「こんな人を敬う必要なんて全く無いので大丈夫ですよ、リザさん」

「気にする、無駄」

「そうにゃ!雇われのにゃーたちですら敬語じゃ無いんだにゃー!」

「もー、分かりました」

 アークさんは領主なんだろうけども、でもやっぱりいつも通りの冒険者なアークさんのまま何だよなぁ。
 もう、身構えてるこっちの方が変みたいに言うから拍子抜けしてしまう。

「それで隣国にいく、とは?」

「実は隣国のエテルカールトン聖教国は神に最も近い国と言われていてね。そこで最高神にお供え物をするとその捧げた物を承認して貰えるんだ」

「承認…?」

「神様が承認すると、その物が原因で起こった事象を取り消すことができます」

「取り消す…?」

「まぁ、実際に見てくれれば良いよ」

 そう言って取り出したのはとても綺麗な宝飾が施された美しい鞘に収められている短剣。短剣自体にも素晴らしい紋様が刻まれていて相当な品なのが伺える。
 それにアークさんが身につけている物に大体は付いている鷹?鷲?のような鳥のマークが剣の柄付いている。

「これはうちの家紋でね。この家紋を私はエテルカールトンで承認してもらっていてね。…この剣を魔法鞄に入れてみてくれるか?」

「は、はい」

 綺麗な短剣に少し物怖じして、恐る恐る受け取って腰のカバンに言われたままにスルリとしまう。
 アークさんは腕を顔の横に掲げて意味ありげに掌を半開きで構えながら、少し楽しげな表情をする。

「では、見ててね?……我が手に戻れ」

「…えっ!」

 そう言葉を発すると、まるでワープして来たかのように私のカバンにしまっていたはずの綺麗な短剣がアークさんの手元に戻ってきた。
 それはそれは本当に不思議な出来事で思わず目を擦ってしまうほどだった。

「リザにしてもらうのは家紋の承認ではなく、品物の承認だから効果は違うんだけどね」

「品物の承認だとどうなるんですか?」

「承認された品物に関して悪事を働くと天罰が降ります」

「えっ!」

 それはまた大層なことで…。
 天罰ってどんな事が起こるんだろ…。なんか怖いんだけども…。

「ふむ、お前らの言いたい事は分かったが、リザは我の酒を作るので忙しいのでな。却下だ!」

「精霊様。此処だけの話、実はエテルカールトンには美酒と呼ばれる透明で美しい酒があるんです。美味しいと有名なのですよ」

「美酒か……」

「美酒ってどんなやつなんですか?」

「そうだな、透明で美しい。酒精は割と高めで、様々な飲み方があるのが特徴だとか」

 うーん、何とも言えないけど、特徴だけなら焼酎っぽいのかなぁ?飲んでみないことには分からないけど、私も少し興味ある。

「…もし焼酎だったら」

「だったら何だ!」

「え、あー…他の種類のお酒も楽しめるかなぁ…って」

「今すぐ行こう!」

「え?」

「今すぐだ!」

 酒好きには効果覿面だったようだ。
 満面の笑みのアークさんに苦笑いして私達は旅の支度をする事になった。
 
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