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商会開業

恋バナ

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 突然王女様がお友達に、と言ってきたことよりも私には王太子としての振る舞いを貫いていた彼女が最後の最後に食器の音を立ててしまった事のほうが私には衝撃的だった。

 とても小さな音だったが、街中の喧騒からかけ離れたこの場所では誤魔化せるような音では無かった。
 あれは多分、手が震えていたのだ。

 だから、普段なら絶対に、特に貴族の頂点に君臨する彼女と、しかもお友達なんて頷かないはずなのについ…魔が差して…私は頷いていたのだ。


「マリーはいるのよ!」

「あら、どんな殿方なのかしら?」

「おねえさん、くちかたい?パパにバレたらこまるの」

「まぁ!今の子は本当にませているのね、ラルダ」

「はい、もう既に立派な女性ですわ」

 唯一もの救いは一人では場も会話も心臓も持たない、と強制的に連れてきたマリーちゃんの存在。
 …だったはずなのだが、今やマリーちゃんにすら女性として負けているわね、オホホホホ…とでも言うような王女様とラルダさんからの視線が痛い。

「貴方が好いているのなら、さぞ良い男なのでしょうね」

「うんとね…ごにょごにょ…」
「まぁ!素敵!」
「それでね?…ごにょごにょごにょ。」

 マリーちゃんの好きな方とは一体どなたなのでしょうか。私にも教えて欲しい…。

「それで、貴方は如何なの?」

「に、逃げられたと思ったのに…」

「そんな訳ないじゃない」

「で、ですよね…」

「なによ。こんなに愛されてるのに。いや、だから絞れないのね?」

「へ?愛されてる?私が?」

 何言ってるの?という表情を全力で表現していた私に負けず劣らずの何言ってるの?を返してくる王女様。

「まさか気づいていないとはね…」

「気づいてないも何も…誰かに想って貰える要素なんて私には…」

「彼らのお膳立てを私がするのは納得いかないけど、今回の件は彼らにも動いて貰ったから…これは彼らへのお礼ということで、私が貴方に会うためにどれだけ頑張ったのか教えてあげるわ」

「え?」

 お上品な所作と視線は王太子そのものだが、その口元はニヤついていて…それを隠そうとしない。
 多分、これが彼女の中の友達との距離感なのだろう。

「まず初めに。私は王女なの」

「は、はい。勿論です」

「だから、本当なら国王と王妃以外は誰も私には逆らわないのよ」

「その通りです」

 当然の事をとても真剣に説明し始めた王女様に私は小首を傾げながら同意を繰り返す。

「ただ私は礼節を、と思って…いや、ここは正直に言いましょう。貴方とお友達になりたくてここまで来たの」

「お忙しいのにありがとうございます?」

「そんなのを聞きたいんじゃないの!」

「は、はぁ…」

「それなのに彼らここに来た私になんて言ったと思う?“会わせるわけがない”っですって!何様なのよ!私は王女様よ!」

 荒ぶってる王女様を落ち着かせようと私はお茶を勧めて、椅子に座り直させる。
 友達になる事を同意した途端にこの態度と距離感にまだ戸惑っている私はを無視して王女様は我が道を進む。

「だから王太子として命令したの。命令に反いたら不敬罪にするわよ!ってね」

「…」

「でも、アークライトは領主権限でフローネを独立させるとか言い出すし、側近のフィオ?とか言う男はその手続きを始めようとするし、片言の女の使用人は結界張って閉じ込めようとするし、獣人の使用人は拘束する体制を取るしで大変だったのよ」

「アークライト…アークさん?領主?」

「そこで私のいとこであるロキに助けを求めたのですが、アイツも貴方との接触を拒否してきまして。締め上げておきました」

「ロキさんを…締め上げる?」

 色んな情報が一気に入って来て、衝撃的な内容もあったように思うが、今この場では敢えて反応しないことにした。









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