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商会開業
裏からの手回し
しおりを挟む日が高く登っているからか石造りの廊下には影が多い。お陰で私の今の…誰にも見せられないこの表情を隠してくれているようでありがたい。
私がわざわざ朝食の席に足を運んだのは向こうがどれだけ今の状況を把握しているのかを知りたかったから。
あの場にはあのエルヴィンもいたけど、特に怪しい行動はなかった。どうやら何も知らない様子だった。
「ラルダ、向こうは片付いたの?」
「今朝方、報告が上がりました。ポーリは無事です」
「そう、よかった」
「防具の返却は如何致しますか?」
「勿論、出向くわ。…3日で片付けるから準備をお願い」
「かしこまりました」
今、他のダンジョンまで手を回しているとバレれば邪魔が入るのは間違いない。あのエルヴィンならまたとんでもない事をやらかしてくるかもしれない。
幸い、まだ気付かれていないようだし、ダンジョンの方にいた監視は上手く片付けられたようだし、とりあえずの心配は無さそうだ。
後は私が上手くやるだけ。
「宰相からの返事は?」
「此方に…それから、ベルゼートからも届いております」
「まぁ…。流石、早かったですね」
ベルゼートは私の母方の実家がある国だ。
このアクベート王国はかつての優秀な王が築き上げた土台と取り分け優秀な数人の臣下のお陰で憖、国力を維持出来ているばかりに調子に乗っているが、今はそれすら危うい状況になっている。
実は先王の時代から周辺諸国からの扱いはもうボロ雑巾と変わらない。
上手いこと言われて此方に不利だったり、余り旨味のない取り引きをさせられても、自分達は強国だからと与えてやっているつもりでいる。
当然、世界各国からカモのように思われている。アクベートにはもうそんな余裕は無くなってきていると言うのに自分が作り上げたわけでもない、かつての栄華に未だに縋っている。
仮にも私の父親だから、生まれ育った国だから、と初めは思っていたが、全く情けない話しだ。
私の母がこの国に第二夫人として嫁いだのもいずれこの国は破滅し、乗っ取れる、裏から操れると思われていたからだ。
だから、アレクシオスの母親で第一夫人であるメルフィオーネ王妃よりも身分が高いのにも関わらず、私の母は王女として祖国の思惑のために甘んじてその地位を受け入れた。
国王があんな失態を繰り返して、体面の悪いあの兄をそれでも皇太子に据えたいと考えているのはそう言う事情からだ。
その入れ知恵を国王に齎した宰相も今は私達側に付いている。
…入れ知恵がなかったら気づいていなかったのか気になるところではある。
国王からすれば皇太子を選定してからも自分の地位も確保して置きたい。このまま私に国を乗っ取られるくらいなら、あの馬鹿に…とでも思っているのかもしれないが、私もそれにはもう手を打っている。
陰を使ってメルフィオーネには私の母に国王の寵愛が傾いていると思わせている。本当は外に愛人が別にいるのだが、それを信じ込んでいるメルフィオーネは先日私の協力をするように既に話しを付け、完全に此方に落ちている。
王妃メルフィオーネも馬鹿ではない。自身が侯爵家の出身で元王女であるアリシャ(私の母)に身分で勝てず、せっかく男児を産んだのに能ナシ。その上国王の寵愛まで失い、立場が危ういのは分かっている。
自身の息子が皇太子になるのが一番なのも分かっているが、国王と違ってあれを上手く制御することが出来るとも思っていない。
だから私は彼女の身内と婚姻を結び、夫とすることで彼女の地位を守ると約束したのだ。
「それにしても…こんなに簡単に片付くなんて思ってもいなかったわ」
「姫さま、これからですよ」
「…そうね」
ここまで上手くやったのだから。
私は私のために最後までやり抜くだけ。
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