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商会開業
試着
しおりを挟む「此処は何を使おう…」
『《気配遮断》《遮音》なら闇属性と風属性の組み合わせだな』
「闇と風ね」
ちくちくと、黙々と縫っていく作業は集中出来て楽しい。私はこういう単純作業の繰り返しみたいなのが割と好きだ。
「コレなんかどう?」
『足りないな』
「じゃあコッチ?」
『それも良いが隣の人魚の鱗も良い』
「これ水属性じゃないの?」
それに今までと違うのはウンディーネがもつ《付与》の知識のお陰で必要な属性や素材の質の良し悪しがすぐに分かること。
これは大変助かっている。
「えっと…ショルダータイプの肩の部分は着心地を良くする為に少し広めにしておいて…」
『《俊足》と《回復》…ふむ、風属性の組み合わせか』
「此処はフェアリーヤーンとカゼハヤの尾羽を組み合わせて…」
『ほう…素晴らしい』
「ビショップさん、試着お願いします」
「分かった」
ウンディーネのお墨付きも頂けたようで安心だ。私は満足感いっぱいのまませっせと防具を仕立てていく。
ビショップさんはお三方の中では一番身体が大きい。肩幅がしっかりとあって少し撫で肩。腰回りが絞れているから本当に綺麗な逆三角形。
「肩の食い込みや可動域、腰回りの締め付けは大丈夫そうですか?」
「あぁ、問題ない」
私の作った防具には《変質》の効果は付いていない。それでも、アイテムとしてはきちんと“防具”として認定されているらしく、試着するときちんと身体に合わせて効果を発揮する。
認定基準は何なのだろう。“防具”になったらいいのだろうか。
「ホルダーは如何ですか?」
「…コレは例の魔法鞄になっているのだな」
「えぇ。ただのホルダーだと重さと音が出る可能性があるのでこの方が良いかと思ったのですが、普通のホルダーの方が良いなら作り直しますよ」
「いや、寧ろありがたいと思っている」
「良かったです。……あ、ルークさんも試着して下さい!」
「…もう、着た。問題なかった」
ルークさんは事務連絡的なもの以外はあんまり話さない。
多分、声を聞く限り相当若く感じる。背丈もお三方の中では一番小さく、私とそう変わらない。おどおどしている様子はなく、多分話す必要のない事は話したくないだけだと思う。
たまに覗かせている銀色の髪を隠したがっているようなので私は突っ込まないことにしている。
「ホルダーは魔法鞄のままでよろしいでしょうか?」
「…(コクリ)」
「外套の丈は如何ですか?」
「…もう少し短くてもいい」
「分かりました」
あまり話してはくれないが意見がない訳でもないのでそこのところは苦労はしていない。
そして最後の一人ナイトさん。
彼が多分この中で一番大人な雰囲気。ルークさんのように話さない訳でもないのに割と上品な印象。
かなり細身な人で足とか私より細いかも知れない。こんな人が本当に戦えるのかと心配になるほど。
「ナイトさんのにはご要望通りコテに鋼板を入れてあります。重過ぎでしたら板の厚みなどで調節も出来ますよ」
「いや、問題ないよ」
「良かったです」
一通りの調整をしたら、本縫いをする。
《変質》のお陰で勝手に身体に合わせてくれるとしてもここまでしっかりと調整して作ればオーダーメイドと変わらない気がする。
何より楽しい。これを着て戦っている姿を草の陰から見たいくらいにやり甲斐を感じでいる。
ただ…。
「王女様は王様と戦うんだよね」
『まぁ、そうだろうな』
「やっぱり親子でも…そういう風に相入れない…って事もあるんだよね」
『そんなもんだろ』
「なぁ」
私は見て見ぬ振りをして、最後には逃げた。王女様のように戦う道、それだけじゃない、向き合う道もあったはず。
今更後悔しても遅いけど娘とはもっと話したかったなぁ、と思う。
『何度も言うようだが、こんな奴らの為にお前が苦労する必要はないんだぞ』
「なぁ~」
「…私此処で…この世界で生きていくって決めたから。私の大切な人と場所を守るためなら何だってするよ」
「なぁー」
この世界での初めての場所がフローネで良かった。
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