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商会開業

ソーロ領(1)

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ーーーキュルルルルル

「フィオ」

「…あぁ、アークのジョセフィーヌか」

 ガタガタと大きく揺れる馬車の荷台から顔だけを出して、その視線を空へと向けるシュナに呼ばれたフィオも空を見上げて言う。

「ミャーが行ってくるニャ」

 任せた、と言わんばかりに何も言わずに車内に戻ってきた二人の返事を聞くこともなく、とても猫らしく器用に身体をくねらせ、しならせながらミャールが馬車の天井に軽々と登る。

 煌々と輝いている太陽を背に天高くから急降下してくるのを手で日差しを作って確認すると、ミャールが突き出した腕に勢いよく捕まり立ったのは大きな鷹のジョセフィーヌ。
 ミャールは少し荒々しく撫でながらもかける声はとても優しい。

「ジョセフィーヌ、お疲れ様にゃ」

「キュル」

「さっき倒したグレイトボアにゃ。捌いたばかりだから新鮮にゃ」

 ミャールからまだ血抜きすら済んでいないボア肉を貰い、上機嫌なジョセフィーヌは鋭い嘴で食らいつく。
 ミャールはその間にジョセフィーヌの脚に括り付けられている小さな革の鞄から小さく折り畳まれた紙を取る。

「フィオ、手紙にゃ」

「…………なるほど」

 ミャールから投げつけられるように手紙を受け取り、フィオデナルドはその手紙に急ぎ目を通す。

「何がなるほど、なの?」

「舞姫、領主様からの連絡だ」

 フィオデナルドは珍しく唇の端を軽くあげてまるでそれを待っていたかのように楽しげに微笑む。
 馬車に乗り込んでいる全員から視線を貰いながらも堂々とした仕草で手紙を差し出す。

 手紙を受け取った『舞姫』こと【烈火の姫】のリーダー、ユシテルはとても不快そうにフィオデナルドから差し出されたその手紙をもぎ取り、目を通す。

 横から手紙を覗き込む他メンバーの表情は嬉しそうだったり、面倒くさそうだったりと様々だ。

「まぁ、出来ないことはないわ」

「領主がくれるって言うんなら貰っとこうぜ」

「…やっぱりそうなるよね。なら、少し仮眠していいかな」

「ぼ、僕が御者変わるよ!」

「そうね、マルには頑張って貰わなくてはならないでしょうから私達で変わりますわ」

 簡単に話し合いを重ねて、早々に御者を交代したマルセイユはみんなから背を向けて横になった。

「それで?報酬がでるから理由を聞かないであげてもいいけど、これを成功させたからってどうなるって言うの?」

「王女様の狙いはまだ分からないけど、多分この国が動くきっかけにはなるかもね」

「この件に王女が動くってことは王子とは対立関係にあるってことか」

「そう言うことだろうね」

「ふ~ん。ま、いいや。私にはこの国がどうなろうとどうでもいいし」

 聞いてきた割に興味なさげに返すユシテルはさも当然のようにあぐらをかいていたレイの脚に頭を乗せて寝る体勢に入る。

「…っ!」

「あ、」

「あらあら」

「なに?幾ら【金色の獅子】との混合パーティーでもこの中で一番火力の高い私が休んでおかないと攻略なんて無理よ?」

「……分かってる。だから、なんも言ってねぇだろ…」

「着いたら起こして。少し街で準備したいし」

 ユシテルは周りの視線など全くめをはいっていないようで、そのまま我関せずで目を瞑って直ぐに寝息を立て始める。
 なんとも言えない空気と周りから少し生暖かい視線が送られて、それから逃れるかのように頭を抱えながらレイはほんのりと頬を赤らめながら、視線を床へと落とす。

「ユシテル、自由」

「そこが良いとこにゃ」

 今回の旅路の目的が少し変わりはしたが、やることは変わらない。それぞれの思いを胸に馬車は進むのだった。









 
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