169 / 244
商会開業
ソーロ領(1)
しおりを挟むーーーキュルルルルル
「フィオ」
「…あぁ、アークのジョセフィーヌか」
ガタガタと大きく揺れる馬車の荷台から顔だけを出して、その視線を空へと向けるシュナに呼ばれたフィオも空を見上げて言う。
「ミャーが行ってくるニャ」
任せた、と言わんばかりに何も言わずに車内に戻ってきた二人の返事を聞くこともなく、とても猫らしく器用に身体をくねらせ、しならせながらミャールが馬車の天井に軽々と登る。
煌々と輝いている太陽を背に天高くから急降下してくるのを手で日差しを作って確認すると、ミャールが突き出した腕に勢いよく捕まり立ったのは大きな鷹のジョセフィーヌ。
ミャールは少し荒々しく撫でながらもかける声はとても優しい。
「ジョセフィーヌ、お疲れ様にゃ」
「キュル」
「さっき倒したグレイトボアにゃ。捌いたばかりだから新鮮にゃ」
ミャールからまだ血抜きすら済んでいないボア肉を貰い、上機嫌なジョセフィーヌは鋭い嘴で食らいつく。
ミャールはその間にジョセフィーヌの脚に括り付けられている小さな革の鞄から小さく折り畳まれた紙を取る。
「フィオ、手紙にゃ」
「…………なるほど」
ミャールから投げつけられるように手紙を受け取り、フィオデナルドはその手紙に急ぎ目を通す。
「何がなるほど、なの?」
「舞姫、領主様からの連絡だ」
フィオデナルドは珍しく唇の端を軽くあげてまるでそれを待っていたかのように楽しげに微笑む。
馬車に乗り込んでいる全員から視線を貰いながらも堂々とした仕草で手紙を差し出す。
手紙を受け取った『舞姫』こと【烈火の姫】のリーダー、ユシテルはとても不快そうにフィオデナルドから差し出されたその手紙をもぎ取り、目を通す。
横から手紙を覗き込む他メンバーの表情は嬉しそうだったり、面倒くさそうだったりと様々だ。
「まぁ、出来ないことはないわ」
「領主がくれるって言うんなら貰っとこうぜ」
「…やっぱりそうなるよね。なら、少し仮眠していいかな」
「ぼ、僕が御者変わるよ!」
「そうね、マルには頑張って貰わなくてはならないでしょうから私達で変わりますわ」
簡単に話し合いを重ねて、早々に御者を交代したマルセイユはみんなから背を向けて横になった。
「それで?報酬がでるから理由を聞かないであげてもいいけど、これを成功させたからってどうなるって言うの?」
「王女様の狙いはまだ分からないけど、多分この国が動くきっかけにはなるかもね」
「この件に王女が動くってことは王子とは対立関係にあるってことか」
「そう言うことだろうね」
「ふ~ん。ま、いいや。私にはこの国がどうなろうとどうでもいいし」
聞いてきた割に興味なさげに返すユシテルはさも当然のようにあぐらをかいていたレイの脚に頭を乗せて寝る体勢に入る。
「…っ!」
「あ、」
「あらあら」
「なに?幾ら【金色の獅子】との混合パーティーでもこの中で一番火力の高い私が休んでおかないと攻略なんて無理よ?」
「……分かってる。だから、なんも言ってねぇだろ…」
「着いたら起こして。少し街で準備したいし」
ユシテルは周りの視線など全くめをはいっていないようで、そのまま我関せずで目を瞑って直ぐに寝息を立て始める。
なんとも言えない空気と周りから少し生暖かい視線が送られて、それから逃れるかのように頭を抱えながらレイはほんのりと頬を赤らめながら、視線を床へと落とす。
「ユシテル、自由」
「そこが良いとこにゃ」
今回の旅路の目的が少し変わりはしたが、やることは変わらない。それぞれの思いを胸に馬車は進むのだった。
9
お気に入りに追加
882
あなたにおすすめの小説
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる