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商会開業

交渉

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 まぁ、こうなってくるともっと『氷土』が欲しくなってしまうわけで。
 ただ、『氷土』を手に入れるにはルーペリオさん曰く、とあるダンジョンに出来てしまったモンスターハウスなるものをどうにかしなければならないらしい。

 モンスターハウスというのは一定の場所に集中的に一定量の魔力が集まってしまう『魔力だまり』というものが発生することによって急に沢山の魔物が発生したり、魔物が強くなったりしてしまうもののことを言い、一般的には隠し通路や隠し扉のせいで長いこと見つけられなかった場所に出来てしまうらしい。
 それがなかなか見つからずに出来てしまうと、魔物がダンジョンから溢れ出して人里を襲ったりする。
 ただそれは本当に珍しい事で、いくら隠し通路や部屋と言えども、それだけの魔物の気配を感じ取れないなんて事はあまりないのだとか。
 だから、本来ならダンジョンから魔物が溢れ出てくる前にモンスターハウスが見つかることの方が多いのだそう。

 しかし、今回は運悪くそれが見つけられなかった。そのせいで近くにあった街は壊滅的な被害を受けたのだとか。

「なので、『氷土』自体が市場に出回っていない状況で…それに比例して現存するものが高騰しております」

「そうなんですね…」

「新たに取りに行けるようになるまで、この状況が続くでしょう」

「え?じゃあ、まだモンスターハウスは残ったままなのですか…?」

「はい、そのようです」

 そんな…そんなに危険なものなのにそのままなんて事…普通にありえるの?どうして何もしないの?

 ふと足元に感じるふわふわの感触。

「ノア…」

「なぁ~」

 ノアがしてくれたダンジョン攻略の話しはフローネだけの話じゃなかったって事?

「…ルーペリオさん、そのダンジョンって何処まで攻略されてるのですか?」

「確か、97階層まで進んでいたはずです」

「97…最後に攻略されたのは…」

「確か、16年前でしたでしょうか?」

 森林ダンジョンよりはまだそんなに経ってない。

「ノア…攻略した方が良いんだよね?」

「んなぁ」

「…私、どうしたら良い?」

「…」

「…分かった」

 ノアから伝わってくる感覚。
 言葉は交わせなくてもきちんと感覚的に伝わってくる。

「ルーペリオさん。私、冒険者を雇いたいんです」

「冒険者を…ですか?」

「…依頼を出したいんです。とっても危険な」

 ルーペリオさんは私が何を考えているのかが分かったのか少し困ったような顔をする。

「…危険という事はAランク冒険者という事ですね」

「はい、とってもいい条件をつけようと思います」

 条件次第では危険でも冒険者は集まるだろう。

「とってもいい条件?その話、私達が乗らせて貰おうかしら?ね?」

「また、お前は勝手に決めて。仲間の事考えてから言えよ!」

「勿論考えているわ!ね?皆んな?」

「リザ…お邪魔してるよ」

「ギルさん…?」

 何の前触れもなく現れた人達に何も言えなくて私はただその言い争う姿を見ていた。
 キッキンの入り口からひょっこりと申し訳なさそうに覗き込んでいるギルさんを見つけて状況説明をしてほしいと目で訴える。

 彼女達のことは知っている。【烈火の姫】という名で知られている人達で私の魔法鞄も買ってくれた大変優秀なAランクパーティーだ。

 彼女達が協力してくれるならとても心強いけど、何故彼女達がここへ?

「…そういうことで、頼む!!!」

「そうことでとは、どう言うことで…?」

「素材や材料が足りないなら何でも用意する!頼む!」

 とにかく必死に頭を下げるギルさん。全く状況が理解できないけど偉い人に頭を下げられるのは本当に困る。横でただ見ているだけの【烈火の姫】へ視線を送る。

「私達?気にしなくていいわよ!シュナのベルトも魔法鞄も貴方が作ったのでしょう?」

 な、何故、彼女にバレているのでしょう。ベルトはまだしも、鞄の事は隠していたのではなかっただろうか。

「私はユシテル。隠さなくてもいいわ。私には分からないことなんて何も無いの。その腕輪相当良いものよね?」

「…」

「あー、すまん。俺らは別に脅したりするつもりはないんだ。君は前にギルドにいただろ?その時にコイツが君の付けていたブレスレットを気に入ってしまってな」

 い、一体いつ、何を、どうやって気付かれてしまったのでしょう…?
 困った顔をしていたのかルーペリオさんがススッと私の耳元に顔を寄せる。

「…実はアーク様より先程言伝がありました。如何やら、ギルゲイン様が【烈火の姫】にダンジョン探索依頼を受けて貰うために報酬として勝手に約束してしまったようです」

「な、なるほど…」

「自信満々にツテがあると言ってしまったようで…」

「見事に全てを聞き出されてしまったという事ですかね」

「その通りです」

 ふぅ…。取り敢えず一息吐きたい。
 いや、別に作るのが嫌な訳じゃない。寧ろ、彼女のような綺麗で強い冒険者に身に付けてくれたら商会の宣伝にすらなるかもしれない。
 でも、本当は…いや、色々と面倒ごとになった貴族ならまだしも、自分が望んでいた冒険者のお客さんなのに選ぶべきじゃないよね。

「分かり…」

ーーーバンっ

 私の言葉を遮るように扉が開け放たれた。







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