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商会開業

永遠の氷

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「…今日はなんだか暑いですね」

「確かにそうですね?昨日までは肌寒かったのに…」

 前日に大騒ぎがあったとは思えないほど平和なフローネ。代わりに夏が終わり、秋を告げる建国祭も終わったと言うのに今日はなんだが蒸し暑い。
 昨日はフラットさんを助けるために無我夢中で最後の方はもう何が何だかよく覚えていないほど疲労していた。
 その上異常気象と言えなくもないくらいの気温差があって身体がついてこない。

 私は今日から雇用した人たちの作業を見ながら、隣で何やら作業をしているエルフィン君に問いかけた。

「…こんな日でもルーペリオさんは燕尾服なんですね」

「こう言うのは慣れですよ」

「はぁ…」

 ルーペリオさん。それは慣れとかそんな話しではない気がするのだけれども。
 でも、言い返す気力もないほどに暑い。

「こんな日には『氷』があれば良いのですがね」

「氷か…氷をたっぷり入れた冷たい水飲みたい…」

 冷蔵庫、冷凍庫。本当に欲しいよ。
 地球では大昔は氷室とか作って保管してたみたいだけど、そんなのの仕組みや作り方なんて知らないし。

「リザさんは『氷』を水に入れていたのですか…?」

「え?」

 私、今何かおかしな事言っただろうか。もしかして私が認識している氷とルーペリオさん達が言う『氷』って何か違うのかな…?
 二人の顔を見たら、私は『氷』に対して単純に高価なもの、って言う認識でしかなかったから、変な誤解を生んでそうなんだけど…。

「…私達が申し上げております『氷』は『氷土』と言いまして冷気を発する土なのです」

「…土」

 いやー、それなら驚いて当然だよね!そんなの水の中に入れるなんて阿呆のする事だよね。
 …ん?いや、待って。冷気を発する土?なにそれ。

「リザ様は見た事がないようですね」

「僕も見たことはないですよ?」

 エルフィン君が見たことがないと言うくらいなんだから相当に珍しいものなのだろう。

「リザ様が仰っている『氷』は多分『氷塊』の事ですね。フィレンツェにある海峡ダンジョンでドロップする品で『氷土』よりも更に高価な物と存じております」

「『氷塊』は『氷土』の何倍ほどに…?」

「今は時期も終わりましたから少し下がってはおりますが…大凡10倍程かと」

「じゅ…10倍…」

 前にルーペリオさんが『氷』は金貨100枚はすると言っていた。それの10倍と言うことはこれまでの鞄の売り上げでもギリギリ…?

「『氷土』も『氷塊』も一生溶けることはありませんから、永遠に使えると考えれば左程高い物ではありませんよ」

 流石は異世界。素晴らしいことにこの世界で言う『氷』と言うものは永遠に溶けないものなのか。
 でも、確かにそれならこれまで食べ物や飲み物に使用することがなかった理由がよく分かる。当たり前だが『氷土』は土だし、『氷塊』だと高すぎる。
 庶民が扱うには難しい物だろう。

「それにしても暑いですね~」

「もうエルフィン君、それを言わないで」

 こんな日はついつい食べたくなってしまう物があるよね。
 …ん…?氷土って土だけど溶けないんだもんね?

「ルーペリオさん…」

「はい、リザ様」

「も、もしも…私がこれから『氷土』か欲しいって言ったらどのくらい購入できるのでしょう…?」

「そうですね…今は余り大した量は手に入らないでしょうね…」

「やはり、お金が足りませんか…」

「いえ、そう言うわけでは…」

「じゃあ、如何してですか…?」

 珍しくなんとも歯切れの悪い言い方しかしないルーペリオさんに私も珍しく突っかかる。
 今日はそれくらいに暑い。そして思い出してしまったのだ。冷たい幸せを。

「…今、その『氷土』が取れるダンジョンでモンスターハウスが出来てしまい封鎖中なんです」

「モンスターハウス…ですか」

「なので、代わりと言っては何ですが」

「何でしょう!」

「ちょっとしたツテがありますので、少し借りてくることなら出来ます」

「お願いします!」

 やはり持つべき仲間はルーペリオさん!
 これはもうお礼を尽くさないと!
 
「ルーペリオさん!私、『氷土』でアイスを作ろうと思います!」

「リザ様が私にそう高らかに宣言されると言うことはその『あいす』と言うものは菓子なのですね」

「そうです、氷菓子と言います!」

「氷を使ったお菓子ですか…」

 ルーペリオさんの不思議に思うのはよく分かる。土を使ったお菓子なんて想像も出来ないだろう。

 でも、大丈夫!アイスなら少量の氷でも作れる。橋が治ったから生クリームも砂糖も仕入れられるようになったし、『氷土』は溶けないのだから保管も可能だろう!

 …『氷土』って言うくらいだもん。アイス…固まるよね…?


















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