異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

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商会開業

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「これはこれは…わざわざこんな辺境まで…珍しいお客様だ」

「初めまして…と言っておいた方がよろしいかしら?」

「正式なご挨拶はしない…。…お互いそう言うことにしておきませんか?」

「よろしくてよ」

 王族特有の金髪赤眼を携えて、少女のそれらしく薄ピンクのドレスと緩やかなウェーブのかかった髪を高い位置で二つ縛りに。周りを欺くかのようにその人形のような姿に似合わず、妖艶に笑って見せるのは我が国の王女・アルベルティーナ。

 此方の提案通り名を名乗らないことを了承するあたり、向こうもこの場は非公式のまま終わらせたいのだろう。

「雨に降られてしまったので、少しの間厄介になりますわ」

「生憎のお天気ですからね」

 外は雲に覆われた曇天。
 貴族のように建前を並び立てて会話するのは嫌いだが、王女の物言いは面白い。

「ラルダ?」

「はい、姫さま」

「おにいさまの王命の件だけど…」

「はい、アレクシオス殿下がソーロの領主に任命された件ですね」

 伏せ目がちにチラリと此方に視線を向ける王女に小さく笑って見せる。

「それが上手くいってないらしいの。まぁ、あのおにいさまですもの。無理もないわね」
 
 なるほど。
 国王は本格的にダンジョン都市を手中に収めようと動き出し、王子を使ってまず手初めにソーロを手中に納めようとしているのだろう。
 ただ王女の言う通り、正直あのバカ王子に何か出来るとは思えない。多分、この物言いは表向きは王子の采配に見せかけて実務者は別にいるのを指しているのだろう。
 恐らく、先日失った王子の地位や権能を少しでも取り戻す為に。

「それで、私考えたのだけども」

「何でございましょう、姫さま」

 そして、大凡の状況が掴めてきたこのタイミングで突然現れた王女。
 彼女の狙いは一体なんなのだろうか。

 ソーロは先日、なんとも姑息な手段で落とされた。
 王国が有利になるように税金を掛けたりやダンジョン品の価値を不当に下げたり、優秀な冒険者を金で囲い込み、領の経営が苦しくなるようにし向け、魔物災害を故意的に引き起こし、災害から守れなかったという責任を取らせる形で領地を取り上げて、復興の名目で騎士団を配置する。

 このままだとフローネも第二のソーロとなりかねない状況なのには変わりないし、他の後三つのダンジョン都市も危うい状況だ。
 ただ、一度ダンジョンに潜った俺はあの先に待ち受けているものの恐ろしさを肌で感じ取ってしまった。
 それは例え他のどのAランクの冒険者であっても、ロマンを求めてまだ攻略の進んでいない階層に行くのとは訳が違う。
 あの先に進むのは無謀と言う方が正しい。

「おにいさまたちはモンスターハウスの鎮火に手間取っていて、それをどうにかするために“復興資金”にも手を出しているようなの」

「まぁ、なんてことでしょう!」

 “復興資金”は元よりモンスターハウスの鎮火も含めた予算が組まれているはず。
 それに手を出す、と表現すると言うことはモンスターハウスを言い訳に復興資金を中抜きしているのか。本当に頭の悪い王子だ。

「当然、このままでは騎士達も離れられないし、勿論復興どころでもないし、周辺の住民たちもとても困っているの。このままにはしておけないわ」

「姫さまはなんて慈悲深いのでしょう」

 土地は騎士団に占領されたまま、復興は望めないし、ソーロの住民は追い出されたまま。
 国王はこのまま騎士達にダンジョンを占有させてソーロを国の所有物にするつもりなのだろう。あそこには金になるものが沢山ある。
 まったく…。めんどくさいことをしてくれる。

「何処かで優秀な冒険者を雇って、手助けしなければと思うのだけど。ラルダはどう思う?」

「姫さまの仰る通りだと存じます」

「ラルダ。何処かにツテはあるかしら?」

「それでしたら、私の甥の知り合いにとても優秀な方がいらっしゃいますよ」

「あぁ、先日王宮で行われたパーティーに参加されてた方かしら…?」

 なるほど。この侍女はロキ・ホーエンの縁者か。通りで頭の回る。

「では、お手紙を書くわ。ラルダ、お願いね?」

「かしこまりました。必ずお届け致しましょう」

 そうして長ったらしい茶番を終えて、王女とラルダという王女付きの侍女は丁寧なカーテシーを披露する。

「あぁ、それと…」

「…?」

「今度は公式に訪問させてもらいましょう」

「お待ちしております」

 そして、私の目の前にそっと手紙を置いて、王女と二人揃って執務室を出て行った。

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