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商会開業
弟子入り志願
しおりを挟む「お、大きすぎませんか…?」
「そうか?領主の館の方が大きいぞ!」
ギルさんの正体の驚きもまだ飲み込めていないのに、私はその見事なお屋敷に度肝を抜かれて、放心状態のまま身包みを剥がされ、知らないうちに着替えが終わっていて、また馬車で送られて行って…今は兎の隠れ家亭に戻って来ていた。
「聞いてますか!」
「ご、ごめんね。ちゃんと聞いてるよ」
そして、放心状態のまま帰ってきた私は何の理解も追いつかないうちに何と今度はエルフィンくんに捕まってしまっていた。
「なので、僕をリザさんの弟子にして欲しくて!」
「何度も言いますが…弟子にと言われても私が教えられるものなんて何もないんです」
「いえ!新しいものを生み出す発想力!それを形にする想像力!より良いものを考える探究心!どれも僕にないものです!」
と、何故か今彼に弟子入りを志願されているのです。
私はただ日本にいた頃に使っていた物を再現して貰っていただけで、これら全部私の考えた物ではない。
だからなんだが彼を騙しているようで申し訳なく感じる。
「勿論、タダでとは言いません!」
「そう言われましても…」
エルフィンくんの熱量が凄すぎて圧倒される私。隣で心配そうに見守って手を握ってくれているマリーちゃんがいなかったらもう既に心が折れていたかもしれない。
「此方をご覧下さい!」
「…え」
「リザさんの弟子を希望するのですから僕もそれなりに考えてみたのです!」
「コレは…」
「なのでリザさんが一番欲しているのは何かと考えてみたのですが答えは出ず…。ただ、前からリザさんが身に付けているその腕輪に興味がありまして…。どうにか再現できないかと色々試行錯誤を繰り返しまして…」
「ワイヤー!?」
「これは“ワイヤー”という物なのですか!」
いや、まさか。一番無理だと思っていたワイヤーが目の前にあるなんて。
「見てみても…?」
「はい!勿論です!」
もしエルフィンくんがワイヤーの加工が出来るのならアクセサリーの幅が凄く広がる。だってワイヤーが作れると言うことは針金は勿論作れるだろう。ということは9ピン、Tピン、コネクター、丸カン、高望みをするとカニカンも作れるかも。
その辺が作れるならチェーンも作れるだろうし、素材さえあればテグスとかも出来るかもしれないし、エルフィンくんは凄く手先が器用だからスペンサービーズとかもデザイン画さえ書ければ再現してくれるかもしれない。
夢が広がる!
いや、やっと本格的なアクセサリー作りが出来る。
ただ、やっぱり騙している感が否めない。
「…実は前に作って貰ったスナップボタンやワイヤーも別の人が考えた物なんです…。私が考えたものじゃない…」
「正直に言うと、考えた人はどうでもいいんです」
「えっ…?」
エルフィンくんは俯きながら少し困ったように笑う。
「僕が男爵家で働いてたのは飽きてしまったからなんです」
そう話し始めたエルフィンくん。
彼はお父さんである親方を本当に尊敬していて、幼い時から工房に出入りしていた。
小さい時から腕の良い職人達の動きを見て来た彼は木製ハンマーを握れるようになる頃には一人で短剣ぐらいなら作れるようになっていたのだとか。
「ナイフ、ダガー、ロングソード、エストック、レイピア、ブレードソード、属性剣や魔剣の類…勿論、剣だけじゃありません。片手斧からバトルアックス、スピアからランス、パイク、ジャベリン、槍斧からハルバート…色んな物を作ってきました。とても楽しかったです」
親方に言われるままに色んな物を作ってきたと言うエルフィンくん。彼の歳を考えると凄まじいスピードで色んな物に挑戦して来たのだと言うことは分かる。
「武器の後は防具も作りました。そして金属だけに収まらず、宝石の加工やガラス加工にも手を出し、この世に設計図が存在する物なら何でも作ったし、例え設計図がなくても僕なりに研究して色んな物を作ってきました」
でも、エルフィンくんは満足出来なかった。
「父は一つの物を極めろと言いました。剣なら剣を、斧なら斧をと。でも、いつでも僕が楽しめるのは新しい何かだった」
そして彼は加工の道から離れた。楽しかったから、大好きだからこそ嫌いになりたくなかった。
「でも、あんな事になって…リザさんにもその子にもご迷惑をお掛けしてしまって、家に戻る事になって…」
本格的に加工という仕事を嫌いになりかけていたそんな時。
「リザさんが蒸留器の設計図をうちの工房に持ち込まれたんです。本当は一部ではなくて僕が全部作りたかった。ただの銅鍋なんて何回も作ってきたのにそんなのは関係なく、僕が全部作りたかったって思ったんです」
私が持ち込んだ物はさぞ魅力的だったのだろう。
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