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商会開業
フィルーローネ大橋
しおりを挟む「いえ、村の者にも兵士たちにも確認をしたのですが、この数日この近辺で雨が降っていた事実はないそうです」
「じゃあ、なんで…」
この川はフローネ唯一の交通の生命線でもあるので此処がダメになるとフローネは完全に孤立する。その為に雨や土砂崩れなどの災害が起こらないように常に厳重に管理されている。その為の関所だ。
そんな川が雨が降っていた訳でもないのに、魔物が逃げ出すくらいに氾濫するなんてことがあり得るのだろうか。
そもそも、フィルーローネ川の川幅は3キロにも及ぶほどでそうそう氾濫するような川ではない。
「原因は分かっていない」
「…」
アークさんはそう言ったけどその表情は何処か確信めいたものを秘めていて。だけど、そのハッキリした口調に私は何も聞けなかった。
「俺たちは川の様子を見に行ってくる」
「わ、私も行きます」
「…分かった。一緒に行こう」
アークさんは少し迷うような表情を一瞬見せたけど、すぐに表情を引き締めて頷いてくれた。
正直私が役に立ち場面なんてないのは分かっているが、ただ、さっきからノアの様子がおかしい。
何処か殺気立っているような、焦っているような…言葉はいつも通り聞こえてこないけど、そんな感情のようなものが伝わってくる。
多分、ノアがこんなにも興奮しているのは森で何かが起こっているという事なのだろう。もしかしたら、それはこの川の氾濫にも関係があるのかもしれないし、もし関係があるのならダンジョンにも関係のあることなのかもしれない。それにノアが此処最近ずっと何処かに出かけていたのも何か関係があるのかもしれない。
「…これは…」
「何が起こっているんだ…?」
だけど、川にたどり着いた私達は目の前で起きていることの状況が全く分からない。
橋は完全に落ちてしまっていて、とても渡れるような状況ではない。しかも橋が架かっていたであろう場所まで水位が上がっているので新たに橋を架けれるような状態でもない。
…なのに。
「…流れていない…?」
「氾濫だと言うから濁流を想像していたんだがな…」
秋風が吹いているのに川の水はまるで凪いだ湖のように波ひとつ、波紋一つ立っていない。
一体誰がこんな状況を想像していただろう。確かに異様な光景だが、水は凪いでいるのに何故魔物達はわざわざ逃げ出したのだろうか。
でも、その理由はすぐに分かった。
「…この匂いは…」
「海の匂い…?」
冷たい秋風に混ざってほんのりと香ってくる磯の香り。
「…深海ダンジョンから海水が逆流して森の飲み水が無くなった…?」
だから魔物達が森から逃げ出してきた理由は容易に想像出来た。
飲み水が無くなれば魔物に限らず縄張りを離れるだろう。それに海水が逆流したと言うことは川周辺に生えていた植物達にも影響を与えたに違いない。
植物を主食としている動物達は忽ち縄張りを去り、その動物達を主食としていた動物達もいなくなる。
魔物達は飢えに耐えられなくなれば人里を襲う。
「しかし、何故…?」
皆んなには原因は分からないだろうけど、私には思い当たる節がある。
深海ダンジョンはまだダンジョン攻略がすすんでいないからだ。しかし、それをどう説明すれば良いのだろうか。
ノアから聞きました、なんて言う訳にはいかない。
「取り敢えずこの様子なら渡ることは出来そうだな」
「シュナ」
「大丈夫、任せて」
何と伝えれば良いのか、と不安げにしていた私にシュナさんは短く笑って言う。
そして、甲高い詩の羅列を並べ、屈み込み増水ギリギリの水にそっと触れる。
シュナさんが水に触れると忽ち当たりに蒸気の様なものが立ち込めて、パキパキと言う音に併せて水が凍る。
「大丈夫そうだな」
アークさんがその氷の強度を確かめる為にその上で数回大きくジャンプをする。
「当たり前」
「フローネが今どうにゃってるのか心配だにゃ」
「カルロスとジンクス達がいるからすぐにどうなるって事もないだろうが…」
確かにフローネには優秀な冒険者が沢山いるから魔物が来ても多少の事では問題ないだろうし、きっとこういう事態を想定して予めそれなりに備えているはずだから数日孤立したからと言ってすぐに何もかもが不足することはなかっただろう。
「リザ、気をつける」
「ツルツルにゃ!」
「は、はい!」
シュナさんとミャールに手を繋がれて私は3キロ先に見えるフローネの門を目指した。
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