異世界で趣味(ハンドメイド)のお店を開きます!

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閑話休題

残された者

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 あの日から5日がたった。

「ちょっとパパ!綺麗好きなんでしょ?汚さないで片付けてよ!」

「…」

 “まるで泥棒が入ったみたいだ”とはこの事で部屋の中は散々で足の踏み場もないほどに荒れ放題。
 自分ではまともに片付けをしたことがないからどうしたらいいのか分からない。母さんに頼もうにも妻が出て行ったなんて口が裂けても言えない。
 両親にはこの結婚を反対されていたからだ。

「お前ももう中学生で女なんだから少しは…」

「ちょっと!パパってそう言う感じのタイプ?男が上で女は下、みたいなこというタイプだったの?亭主関白?まじ、ありえなーい。サイテー」

「お前…そんなんじゃお嫁にはいけないな」

「ねぇ、今時そんなの古いよ?これからは有給、育休、当たり前になるんだよ?てかさ、なんでも良いからお小遣いちょうだいって!」

 娘は何もする気はなく、中学生なのに何処に入り浸っているのか、家に帰ってくるのは金の無心をする時だけ。

「一昨日、あげたばかりじゃないか。中学生なのに何にそんなに金を使うんだ」

「勿論、彼氏と遊ぶためだし」

「…彼氏?」

「今そんな事どうでも良いじゃん!ゆーすけ待ってるんだから早くしてよ!」

「小遣いはやらん」

「はぁ?まじ、ちょーめんどくさー。じゃあお母さんが入院してる病院教えてよ。お母さんなら何も聞かずにくれるし」

「…」

「もー良い!明日までに用意しておいてよ!」

 言葉に詰まる。
 良い子だと思っていた娘はとんだ不良娘で人の事は言えないが、母親の事を心配する素振りもない。
 これを血も涙もないと言うことなのだろうか。全く人のことは言えないのだが…。


 妻が帰ってこなくなって5日。俺は妻が何処にいるのか、何をしているのか分からない。
 1日目は財布も携帯も置きっぱなしだったから直ぐに戻ってくるだろう、と夜中に家を出て行ったことには気付いていたが、そのままにした。

 だが、妻は次の日も帰ってこなかった。

 それからもう1日経って、鞄や財布の中身を調べる。何処の病院に行っているかはすぐわかった。
 アイツは俺に逆らったことはない。戻ってくるように言えば良い、と病院に電話をかけてみるが来ていないと言う。

 そして次の日も帰ってこなかった。
 流石に何かあったのかもしれないと思ったが、失踪届けなど出した日には世間体が悪すぎる。散々迷った末にコンビニで弁当を買って自宅に帰って来た。
 コンビニの飯が脂っこ過ぎて口に合わない。作り置きくらいして置けよ、と悪態をついてみるが勿論誰からの返事が無い。
 娘が夜帰って来たがアイツが居ないと分かると俺に金の無心をして直ぐに出て行った。
 娘から金を要求されたのは初めてだったから特に気にする事なく渡した。

 流石に4日目になって俺も焦って来た。
 ゴミをいつ出せば良いのか分からず、臭いも酷い。
 今朝は誰も起こしてくれないし、勿論物音ひとつしないから寝坊してしまった。毎朝飲んでいたコーヒーの味が違う。コップも洗っていないから一つも綺麗なものがなくて水で濯いだのをつかう。シワのないシャツがこれで最後だし、仕事用の靴下の一つが穴が空いたが予備が何処にあるか分からない。 
 職場では靴が磨かれてなくて上司に小言を言われ、同僚を昼食に誘うと弁当を持って来てないことを不思議がられ、トイレに行くとハンカチを忘れた事に気付く。
 家に帰ると飯も風呂も…いや、そもそも電気すらついてない。コンビニの弁当では食欲が湧かず、風呂掃除をしていないからシャワーで済まし、朝起きた時のままのベッドに潜り込む。


 そして今日が来た。
 昨日と変わらない酷い一日を過ごして流石にフラストレーションが溜まる。
 イライラしている所に知らないフリーダイヤル。

———もしかしたら、奥様は何も話されていないのかもしれないと思って電話したのですが…

 主治医が言うには妻は末期の癌で今の医療でも手の施し用がないほどに病状が進んでいたらしい。延命治療を勧めたが、旦那と相談すると言って帰ったらしい。
 アイツからはそんな話しはされなかった。

「…いや、俺が聞かなかったのか…」

 そして、俺はまた今日も暗くて冷たくて静かな家に一人だった。







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