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建国祭
マーサとギルゲイン(4)
しおりを挟む私の錬金術師としての初めの仕事は《湯花》を使ったブローチを作ることだった。
「ねぇ、もっと有名な人に頼んだ方が良いんじゃない?」
「馬鹿ね!マーサはあの錬金術師の里として有名なローム出身なんでしょ?貴方以上の適任者なんて居ないわよ!」
「いや、でも…」
「でももへったくれもないの!親友のお願いよ?いいから手を動かす!」
「…仕方がない」
今思えばこれはソラが私に気を遣わせない為にしてくれた事なのだと分かる。
「ねぇ、マーサ」
「ん?」
「アンタ、ギルゲインとは如何なの?」
「…如何…とは?」
「なになに?やっぱり何かあるの?」
ソラは本当に勘の鋭い女の子だった。
どんなに隠しても仲間の変化に一番先に気がつくのは彼女だった。
「…私にはアイツが何を考えているのか全く分からない」
「いつもあんなに以心伝心してるのに?」
「そんなことした事ない!」
「え~?いつも言ってたじゃない!『顔見ただけで何考えてるのか分かる』って!」
「それは仕事の時の話だ!……今は全く分からない」
ソラの表情を見れば揶揄われているのは分かる。でも、本当にギルゲインが何を考えているのか私には分からかった。
「何があったの?」
「……毎日、花を持ってくる」
「それで?」
「…今日は何をしていたのか、明日は何をするのか…聞いてくる」
「ふーん」
「……この前、女の人と二人で歩いてた」
「ぷっ」
これだけ真剣に話しているのに笑いを堪えるようにするソラにこれ以上何も話す気にはなれなくて、私は作業に戻る。
「ごめん、ごめんってば!」
「…」
「マーサ、もう笑わないから!」
「…」
「…ねぇ、マーサ。その時、貴方はどう思ったの?」
「…」
「寂しかった?悲しかった?…悔しかった?辛かった?」
全部だ。
全部だった。色んな感情が押し寄せて心臓はバクバクと五月蝿いし、頭の中はグルグルとこんがらがって気持ち悪くなった。
こんなにも苦しくなったのは初めてで何が何だか分からないくらい辛くて…どうしたらいいのか全く分からなかったんだ。
「マーサ、いい事教えてあげよっか?」
「…いい事?」
「そう!いい事よ。マーサがアイツについて唯一知らないくて、唯一私が知ってること。…アイツは……ギルゲインはね?結構一途な男なのよ。とある女の子と出会ってからずーっとその子の後ばかり追いかけててね。会うたびに必死にアプローチし続けて…」
「…それがこの前の…」
「それはないわ」
「見てもないのに何でソラが言い切れる?」
「私はギルゲインがずっと好きだった人を知ってるから」
「…?」
ソラはたまにこの凄く優しい顔をする。
怪我を隠してた時、熱を出した時、寝不足か続いた時、いつも初めに気付くのはソラで、いつもこの顔で言うんだ。
ーーー隠してもだめよ?
って。
でも、今回は違った。
「マーサ。信じて?私達を仲間にしても良いって思ってくれた時のように。ギルゲインのこと信じてあげて?……じゃないとアイツ、いつまでも本当のこと言わないだろうから」
ソラはそう言って帰って行った。
ギルゲインの行動相変わらずだった。
毎日、客足が遠退く夕方前の時間に店に来ては花を飾ってたわいもない会話をする。
「…明日は何をするんだ?」
「明日は錬金糸を作ろうかな。そろそろ在庫切れしそうだし」
「……よ、夜。少し時間を貰えないか?」
「夜?まぁ、別にいいけど…」
「そうか!じゃあ、明日の夜迎えにくるから!」
「え!なに?店終わってからだからね!」
「分かってる!」
見た事も無いような飛びっきり笑顔でそう言いながら店を飛び出して行ったギルゲインを見送る。
(可愛いところもあるのね)
私はそんな子供のようにはしゃぐギルゲインが何だか面白くてフッ、と小さく笑う。
いや、ギルゲインが子供ぽいのはいつものことなのに…。
いつから?いつから私はギルゲインのことを可愛いなんて思うようになったの?
そんなモヤモヤを抱えたまま、次の日の夜を迎える。
「マーサ!迎えにきたぞ!」
「あー、はいはい」
いつも通り…いや、いつも以上に張り切った様子のギルゲインに私は思わず笑う。
連れて来られたのはいつもより少し小洒落た雰囲気のレストラン。
「で?今日は何のパーティーなの?」
「パーティー?パーティーじゃないぞ?」
「え?じゃあ、何なの?」
「あ、あー…マーサ。聞いて欲しいことがあって」
「…何、突然」
「……俺と結婚してくれ」
「…」
何を言われたのか全く分からない。
なに?ギルゲインは今、何で言った?
「お前は突然に思うかもしれないけど、俺は前から…初めて会った時から…まぁ、好きだったんた」
「…アンタが私を?」
「あぁ」
「…というかいきなり…」
『いきなり結婚って…』と言いかけて辞める。
ギルゲインの真剣だけど、少し困ったような苦しいそうな表情を見て揶揄う様なことは出来なかった。
そしてソラが言っていたことを思いだす。
彼はとても一途でずっと一人の女の子を追いかけていたと。
今日までの出来事を走馬灯のように思い出す。
「だって…アンタ、この前女の人と…」
「ハハハ、見られてたんだ。…あの人錬金術師でさ。まぁ、なんだ…湯花を…良かったら受け取って欲しい」
いつもの子供ぽいギルゲインはここにはいない。
二人はその後結婚して、二人の男児に恵まれた。
ーー
ーーー
ーーーー
ーーーーー
「マーサ!」
「マリー、お手伝いは?」
「大丈夫!ジジがマーサの事見てきてって」
「マリー、何でギルゲインがそんな事言ったのか知ってる?」
「知らなーい」
これが英雄パーティーと呼ばれた者たちのお話。
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