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建国祭
マーサとギルゲイン(3)
しおりを挟むそんな事があったから…多分、そう……情が湧いていたんだと思う。
「アイツらが帰ってないんだ、マーサ知らないか?」
「…アイツらって…?」
「ギルゲイン!ギルゲイン達の【銀の衣】パーティーだよ!」
「…ッ!」
「あ、おい!マーサ!一人で行くな!」
少し難しい依頼をこなして帰ってきた私は顔馴染みの受付が言ったその言葉に弾けるようにギルドを飛び出した。
私は自分が結構冷静な奴だと思ってた。
いや、さっきまではそうだったんだ。
「あの馬鹿たち!死んだらタダじゃおかないんだから!」
【銀の衣】が受けた依頼は隣町の害獣被害の調査。普通だったら2~3日で帰って来れるような依頼だ。
私が出発する前に出発していたはず。
その次の日に私は依頼に出かけて5日後の今日帰ってきた。
少しでも早く辿り着く為に《速度上昇》《脚力上昇》のバフに加えて、風魔法で自身に向けて追い風を当てる。
「はぁはぁはぁ…」
いつもはこんなものなければ…なんて考えていたけど、こんな時ばかりは自分の魔力量に感謝する。
「…何処にいるの!ギルゲイン!ソラ!ラーク!返事しろー!」
ーーードカンッ!
「あそこか!」
見計らったかのように落ちた落雷。
ギルゲインに勧めた魔剣の能力だ。
私は夢中で駆け出した。
到着までの1分が人生で1番長く感じた。
「…マーサ」
「ギルゲイン!」
「ふ、二人が…」
「大丈夫だ!戦えはしないが応急処置さえ出来れば命に問題はない!」
「本当か!?」
「だからギルゲイン!持ち堪えろ!」
「…あぁ!寧ろ、倒してくるさ!」
その背中が頼もしくて。
私は初めて思ったんだ。コイツになら背中を預けられるって。
「マーサ、ありがとうな…流石に今回ばかりは死ぬかと思ったぜ」
「馬鹿ね、ラーク。マーサなら絶対に来てくれるって言ったでしょ?」
「…馬鹿共。死にたくなければ喋るな」
「そうだな。マーサは来てくれるよな」
「そうよ。だってマーサは私達の事好きだもの」
「…黙れ」
「ほら、照れる」
「可愛い奴め」
「…五月蝿いぞ」
「「いてててて!!!」」
いや、コイツらなら…か。
そして、私は初めてパーティーに入ることになった。コイツらは本当に危なかしくて、何度も手を焼かされて…。
でも、凄く楽しかった。
「マーサ。次の依頼だけどよ~」
「却下」
「おい!俺はまだ何も言ってないだろ!」
「何も言われなくてもアンタの顔見ればすぐ分かるの」
「お願い!マーサ!マジで!もっかいだけ!」
「…」
「マジで次は行けるんだって!本当!マジで行けるんだって!」
「…はぁ、二人が良いって言うなら」
「「良いよ~!」」
こうして時折、能天気な奴らに付き合って攻略に向かうこともあった。
そして、私達はこの日、この能天気男の発言通りに深海ダンジョンの60階層を攻略し英雄と呼ばれる事になった。
優秀な仲間にも恵まれ名も知れ渡っていた。
順風満帆。
まさにその言葉がしっくりくるようになった頃、私の元に生まれ故郷が魔物に襲われたと言う話しが流れてきた。
「…え?もう一度言って…?」
「…静の森がキマイラに襲われたらしい」
(だから言ったのに…)
ーーーはっ…
「マーサ。行こう」
「…」
ギルゲインは気付いただろう。
私が何を思って、何を考えてしまったのかを。そして、強い後悔と罪悪感か押し寄せた。
「…」
「マーサ…大丈夫か」
「…うん」
私達が村に着いた時にはもう何年も前からそこには何もなかったかのように村は跡形も消え去っていて、目の前には時が止まってしまったかのように静寂な美しい花畑が広がっていた。
その場所が文字通り“静の森”になった瞬間だった。
「サラ、ラーク。二人に話しがある」
「えぇ」
「…私は冒険者を辞める」
「そう。辞めて何になるつもりなの?」
「…錬金術師…かな…」
ソラはそう言うと凄く優しい顔で笑う。
「良いじゃない!ラーク!それならマーサにお願いしましょう?」
「…は?」
「マーサ。実は俺たちも二人に話しがあるんだ」
「…」
「私、妊娠したの」
そして、私達【銀の衣】は解散した。
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