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建国祭

王の思惑

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「全く…奴らは何を企んでいるのか…」

 領主という立場でありながら、ダンジョン攻略を果たし、意気揚々と王宮に乗り込んできた彼らが献上と言う名目で置いていった土産は歴史上最も大きな魔法石だった。
 それだけならフローネの心象良くして知名度を上げる為だと何となく想像できるが、今度は品評会に力を入れて来た。
 
 確かに、フローネに少しでも注目を集めないようにする為に例えオクタヴィアン侯爵からの賄賂がなかったとしても今回の品評会もターナーを最優秀にするつもりは無かった。
 それなのに、奥の手と言わんばかりに素晴らしい物をここぞとばかりに持ち込んできて国民の心を鷲掴みにしていった。

「…まさか、我々の作戦に気付いている訳ではあるまいな…?」

「陛下、それは考えすぎかと」

 私の腹心の部下レイナード・チェルビスがあり得ない、といった表情で首を振る。

 現在の我王国は50年前の栄華を極めた頃とは随分と様変わりした。
 その頃は穀倉地帯の方が収入が多く、領主達に分け与えた土地としての価値も当然、そちらの方が価値があった。
 反対にダンジョン都市はダンジョンの影響なのかダンジョン由来の物は良く育つが、穀物などには恵まれない土地だった。
 更にダンジョン攻略が進んでそれなりに生活は豊かになったが、攻略するのは冒険者だけなので、今でこそ観光業やダンジョン由来(フローネならリンドや薬草など)の物を輸出したりしているが、当時はダンジョン都市では領主は大きな収入は見込めなかった。
 だから、腹心の家臣達には穀倉地を。反王派を掲げていたり、力を持ちすぎた家にはダンジョン都市やその近くの恵みの少ない土地を与えてきた。

 だが、その構図が大きく変わる出来事が起こる。
 英雄ギルゲイン率いる英雄パーティーの登場だ。

 ギルゲイン達がダンジョンの攻略を進めれば進めるほどに新たな魔道具などの生活嗜好品や白パンなどの食べ物やエールなどの飲み物が増えていき、10年も20年も世界が進歩していった。それに比例してダンジョン都市引いては冒険者達の価値が高くなっていった。

 彼らの躍進を恐れた前王はその力を削ぐ為に冒険者達の心象を悪くしたり、若い芽を摘む行為を見逃したりしてきたが、それすらギルゲインに暴かれ、勢力図は一気に書きかわった。
 それは英雄パーティーが解散するまで続いた。

 それからダンジョン攻略が進まなくなって32年。今やダンジョン品は生活において欠かせないものになっているが、人間慣れていくもの。冒険者達の価値は年々下がり続けている。
 それに加えてダンジョン都市周辺の魔物の被害報告が増え、勢力図を再び書き換える時が来たと私は確信していたのだ。

 今ならフローネ並びに所謂ダンジョン都市と呼ばれる土地を返してもらう時。

 だが、そんな矢先に50年攻略が止まっていた森林ダンジョンの攻略報告が上がってきた。

 そして、期を狙ったかのように齎された至極の逸品。

「…それにしてもこれは美味すぎるのだ」

「もしや、ダンジョン品なのでは…?」

「確かにそれも考えられんこともないが…奴らはハッキリと作れないと言った。あれだけの目があってあの場で嘘を吐くのは自殺行為。それに他の参加者に振る舞ったウイスキーは色味も薄く、これとは別物なのは明らかだった」

 ダンジョンで手に出来る報酬には大きく分けて三つある。
 一つ目は魔物を倒した時に出る素材。これは当然魔物の強さに応じて一番上がS、その下がAから始まりFまでのランクがある。
 二つ目はダンジョン内で採取出来る素材。これもダンジョンの階層でその素材のランクが決まる。
 そして、三つ目がダンジョン内にランダムで設置されている宝箱から出てくる報酬で、宝箱から与えられるものには唯一優劣がない。
 つまり、ウイスキーが魔物の素材もしくは採取素材ならランクが存在するが、同時に作ったと言うことが確定し、報酬として与えられたのなら優劣はないので、劣化品がある訳がないのだ。
 
「…モンタナは取り引きには応じたのですか?」

「あぁ…」

 全く頭の痛い話しだ。
 最優秀賞を与えて王室御用達の称号を与えたが、一番欲しているウイスキーはすぐには仕入れられず、当然、オクタヴィアン侯爵とは違い、これからは裏取引のないモンタナとの取り引きになるので、これまで無償で手に入っていたエールでさえ金がかかるようになった。
 
 モンタナと取り引きをするということは即ちフローネに外貨が入るという事。
 王室御用達になり、オクタヴィアン侯爵があんな事になった以上、ターナーエールの取り引き量はこれまでの比にならないだろう。

「とにかく…今はあの件を早急に進めなくてはならないようだ」

「陛下。その件ですが、調査結果が出て来ております」

「…ふむ。……フッ、成程。期待して良さそうだな」

「えぇ。もう手配済みです」

 レイナードの黒い笑みが私の勝利を確信させた。







 
 
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