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建国祭
ライバル?
しおりを挟むアイツの頼みのせいで騎士団に無理を言って長く休みを取っていた為に、帰ってくるなり建国祭の為の兵士の数の調整、警備、その配置、王族の護衛体制の確認など、私の机の上に仕事が山のように積まれていた。
窶れた様子で嫌味ったらしくグチグチと文句を言う部下を無視して、私はその山を片付けるべく淡々と判を押し続け、此方に帰ってきてから1か月、やっと昨日無事建国祭1日目を迎えた。
だから、幻聴が聞こえたようだ。
「ロ、ロキさーん!」
少し高めの可愛らしい声が私を呼んでいるのは多分、幻聴なのだ。何故なら、私は顔は怖いらしくいつも子供を泣かせてしまうし、そもそもこの王都に私を役職以外で呼ぶ人はそうそういない。
「隊長、めっちゃ可愛い女の子が手を振ってますよ?」
「…そんな訳…」
少し前までは毎日見ていた艶のある真っ黒な毛が大きくフル手の動きに合わせて揺れる。
何色にも染まらない真っ黒な瞳が此方を向いていて、遠くて分かりにくいが頬が赤く染まっている。
…何故真っ赤なのか。私に会えたから…?そんなまさか…。
「お知り合いっすか?」
「あぁ、でも何でここに…」
「隊長、紹介してくださいよ。めっちゃ好みのタイプ…イッテ…」
「リザ、何でここに…」
そこまで声に出してから、グッと口を噤む。視界の中に今一番見たくない人物が写っているからだ。
貴族相手にも物怖じしないあの態度。貴族よりも貴族然とした雰囲気。
その辺の平民にならアークを貴族だと紹介するよりも、コイツを領主だと紹介した方が信じるだろう。
「た、隊長!あの隣にいる男、あれヤバいっすよ、ぜったい!」
コイツのこう言う危機察知能力だけは結構買っているんだがな…。
それよりも今はまずあの悪魔の相手をするしかないようだ。
だが、その前に…少し…
「なぁ~」
「元気そうだな、ノア」
リザの護衛を努めた一ヶ月と少しで仲良くなった黒猫と挨拶を交わす。コイツは猫なのに人懐っこくて大人しく、物分かりも良いし、何故かたまに妙に察しのいい時がある。
ここが自分の定位置だと言わんばかりに全身を預けるノアの腹を撫でてやる。
「ロキさん、お久しぶりです。たまたまお見かけして…すみません。お仕事中でしたか?」
「あぁ、だが、大丈…」
「ロキ卿、お久しぶりですね」
「…久しぶりだな、フィオデナルド」
リザと私の間に無理矢理入り込んで、ギリギリと強く手を握り込んでくるフィオデナルド。普段は他人に興味を持たないコイツがどうしてリザには興味を見せるのか。
本当に不思議でならない。
「リザさんって言うですね!俺、第二騎士団所属のエメル・ジュピターと申します!もしよろしければ…イッテ……もう、何なんで……すみません」
「あ、あの…リザです。よろしくお願いします。エメルさん」
「よろしくっす!…イッテ…!」
何故こうもコイツはいつもいつも空気が読めないのだろうか。悪魔が魔王になりかけているが分からないのか。
空気を察したリザは私達に気を遣いながら苦笑いしてエメルと簡単な挨拶を交わす。
「…アークは居ないのか?」
まさかここまで二人っきりで来た、なんて事はないだろう。
「他の用事で外しています」
まぁ、そうだろうな。この前ここで問題を起こしたばかりだし、そもそもコイツらはリザに貴族だと言うことを隠している。勿論、私もだが…。
「お、お忙しそうなので、私達はこの辺で…」
「いや、大丈夫だ。この後の予定は?」
「この後は品評会に参加します」
「…リザがか?」
「いえ、ターナー酒造の付き添いですよ」
「ターナー」
詳しい事情は分からないが、先日の件で何かあって、またコイツらがリザを利用しているのだろう。
「私も付き添います」
「ロキ卿は警備などでお忙しいのでは?」
「いや、大丈夫だ。エメル、何かあれば知らせてくれ」
「え?いや、自分も行きたいって言うか…イッテーー!」
このままこの子は放ってはおけない。
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