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建国祭
開幕
しおりを挟む「ほ~ら、そこの奥さん!見てってよ!」
「今年はオーク肉が豊富だよー!」
「大特化価格で売り出し中でーす!」
東西南北にある四つの城壁から大広場まで伸びる四本の大きな通りは勿論、普段賑わない裏通りですら昨日よりも更に賑やかさに拍車をかけ、今ではまともに歩けないほどの人の数。
そんな喧騒を横目に私達は馬車で王城へと向かう。
「あれ?アークさんは?」
「アークは他の用事があるにゃ」
「そうなんだ?」
「アーク、五月蝿い、丁度いい」
「あはは…」
今日はこの建国祭で1番のメインイベントでもある年に一度の品評会。
国中の町や村が自慢の物を持ち寄って王に献上し、其々の項目で最優秀を目指す。
そこで最優秀賞を受賞すると王宮との直接的な取引に繋がり、同時に王室御用達の称号も得られるので、どんなに無名な物も一夜にして一躍有名になる事も。
なので品評会で受賞することは商人や職人達の夢とも言える。当然ながらここにいるのは国中の商人達。彼らがそんな儲けの機会を逃す訳もない。
「うわぁ!凄い人ですね…!」
「城下がここまで賑わうのは今日と両陛下の生誕祭くらいです」
「ちょっとそこの店見てくるにゃ!」
「私は、馴染みの店、見てくる」
「はい!」
城内も沢山の人達が真剣な面持ちで沢山の商品を携えて詰めかけている。
当然、中には品評会の見学の為に来ている人達や買い付けの為に来ている大都市の大店の主人、貴族達などもいて、商人も職人も彼らに自身の持ってきた商品の良さを売り込んでいる。
私達がここに来た目的は勿論、モンタナさん達のお手伝いと応援だが、虹色の果物や温めると色の変わる布、細かい絵付けが施された美しい壺からただただ触り心地の良いだけ石など本当に見たこともないものばかりで見ているだけでも楽しかった。
「フィオデナルドさんは大丈夫ですか?行きたい所があれば…」
「流石にリザさんをお一人には出来ませんよ」
「た、助かります」
相変わらずの微笑みにドキリと胸を弾ませる。フィオデナルドさんにそんな気はないと分かっていてもこればかりは仕方がない。
街を歩けば思わず振り返ってしまうくらい見目の麗しいフィオデナルドさん相手なら、きっと何処の誰でもきっと私と同じ反応をするだろう。
ただ、迷惑はかけたくないので大人しく着いて歩く。こんな人混みで一人になったら皆んなを見つける自信もないし、そもそも品評会場にたどり着く自信もない。
流石にこの歳で迷子にはなりたくない。
「そう言えば、品評会ってお酒だけじゃなかったんですね」
「えぇ。珍しい食べ物や飲み物、衣装や宝飾品、家具、日用品に至るまで国中の物という物が集まる夏の祭典です」
「凄く楽しいです」
所狭しと並べられた珍しい物の数々に目移りしてしまうそんな中で先程から一際目を引く物がある。
ーーー綺麗…
それを一言で表すならば、『まるで女神様が身につけるような衣』。
スカート部分は真っ白で透き通るような風合いなのに透き通ってはいなくて、そんな不思議な布を惜しげもなくふんだんに取り入れている。同色の繊細な刺繍が嫌味なく上半身を彩っていて……
「素敵なドレスですね」
「あ、はい。…そうですね」
どんなに憧れていても最後まで出来なかった結婚式。テレビや雑誌、街中で偶然見かけて、こんなのが着たい、あんな事したい、と考えるだけでその時のうちの状況ではとても言葉にする事は出来なくて、ただただ妄想だけが膨らんでいた。
そんな憧れすら忘れるほど時が経っていたのに。
ーーー私も…着てみたかったなぁ…
「とてもお似合いになると思いますよ」
「えっ、声に出て…」
心の声が漏れていた事に恥ずかしくなり、視線を逸らす為に俯く。
「店主、これを南門前の小鳥の囀り亭までお願い出来るか?」
「も、勿論です!これは私の自信作でして!小鳥の囀り亭…ですね!直ぐにお届けします!」
「では、お代はこれで」
ん?フィオデナルドさんドレス…買った??え?買ったの?
あまりの動揺から言葉が出てこず、まるで餌を待つ鯉ように口をぱくぱくさせる。
「え、あ…え……?」
そんな私にニコニコと優しい方の笑顔を向けてくれるフィオデナルドさん。
「帰ったらパーティーですし、ちょうど良いのではないでしょうか?」
「でも、あれは…」
「…困らせてしまいましたか?すみません。ただ、リザさんがあのドレスを着ている姿を見てみたいと思ってしまったんです」
……確かに着たかった。完全に一目惚れだった。
だけど、今はそっちは問題ではなくて……。
多分フィオデナルドさんはそんな気なしに言ってるんだろうけど、あんな素敵なドレスを私に着て欲しいって、見てみたいって言われたことが素直に嬉しい。
心臓の音が聞こえてくるくらいに早い。
少なからずフィオデナルドさんは似合うと思ってくれたんだと思うとついつい顔が熱くなる。
フィオデナルドさんの顔が見てられなくて思わず目を逸らす。
頭の上からフッ、と小さな笑いがあって私は益々頬が赤くなるのが分かった。
ちょっとした反抗心でフィオデナルドさんに目を向けようとした先にたまたま見慣れた顔があるのに気付き、私はついその真っ赤になった顔を隠す為にわざと大きく手を振った。
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