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建国祭

作戦

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「それで、リザさん。どうするおつもりで?」

「犯人を懲らしめるアイディアがあります!」

「ど、どのような!」
「相手は上級貴族様ですよ…!」
「危険です!」

 皆んなから真剣で熱い視線を貰って、少し自信がなくなりかけた私の手をフィオデナルドさんが優しく握る。

ーーードキリ…

 …今はドキドキしてる場合じゃない。うん。そう、フランさんが言ってたじゃない。私には優しくて頼もしい人達が味方にいる。
 例えこのアイディアが穴だらけでも二人がダメな所や足りない所は指摘してくれるはず。

「…心配ありません!相手が高位な人ならばもっと上の人に叱って貰えばいいんです」

「そ、そんな人は…」

 モンタナさんがチラリと視線を私の後ろに向ける。いるのは当然ながら私の手を握るフィオデナルドさん。

 ち、近い…近いです…。

 振り返ると一歩でも踏み込めば打つかる距離にフィオデナルドさんの胸元があって尚更ドキドキしてしまう。

 いや、もう考えるのはやめよう。フィオデナルドさんはただ紳士なだけ。

「…確かに、私の知り合いにはそんな方はいません。でも、誘導する事は出来ます」

「………と申しますと…?」

 長めの間を置いてモンタナさんはとても困ったように眉尻を下げて聞き返す。

「私達の作ったウイスキーはとても美味しいです」

「も、勿論です。あれ以上の物は存在しません!それは例えオクタヴィアン侯爵が王に大金を積んだとしてもです!」

 え、もしかしてそれで毎年負けていた訳じゃないよね?不正して優勝とかないよね?

 私の困惑の表情に気付いたフィオデナルドさんは困った表情で笑う。

「私の主観ですが、ギルネエールとターナーエールにそれ程の差異は感じません。好みと言われるとそれまでですが…」

 ほ、本当ですか…?
 そんなの許されるもんなんですか…?

「そうです。差異がないなら大金を積んだ方を優遇する。私は貴族でもないので王に謁見などもっての外。賄賂すら渡せません」

 いやいや、もしモンタナさんがそんなことしてたら私協力してないよ…?

 そんな私の心を読んだかのようにモンタナさんは苦笑いしながら言う。

「勿論、出来たとしても送る気はありませんよ。そんなので勝っても嬉しくありませんから」

「そうですよね…」

 よ、よかった…。疑って申し訳ありません、モンタナさん。
 私は気合いを入れ直して皆んなに向き合う。

「少し勿体無い気もしますが、王様には九年熟成を献上します」

「そ、そんな!あれはリザ様の…」

「この作戦を成功させるにはより美味しい物じゃないといけません。…但し、渡すのは小瓶程度です」

「こ、小瓶程度…」

「せっかく献上する相手は王族なのですから、それを利用しない手はありません。王様、王妃様…いたら王子様や姫様を含めてお酒を飲める年齢の方々全員が一口づつあたるような、その程度の量です」

「なるほど」

 頭の上にはてなマークを乗せたままのモンタナさんは大きく首を傾げているが、フィオデナルドさんは私の考えを理解したようでニッコリと笑顔を向けてくれる。

「なるほど…とは…?」

 そんな疑問だらけのモンタナさんにフィオデナルドさんは楽しげに私の考えを代弁してくれる。

「モンタナ様の言う通り、あのウイスキーは本当に素晴らしい出来です。王がエールに飽きてきたと言うのが本当ならば喜ばれるのは間違いないでしょう」

「えぇ、まぁ…」

「しかし、王はギルネエール側から多額の賄賂を貰っている。だから例え賄賂すら消し飛ぶほど美味しいお酒があったとしても、とりあえずはギルネエール、ないしオクタヴィアン侯爵を優勝させて、後でモンタナ様を呼び出してウイスキーの取り引きだけを行えばいい」

「そ、そんな!」
「そこまでしますか!?」

 あ、これ…。私見たことある。
 フィオデナルドさんは甘いと言わんばかりに少し黒い笑顔で三人に笑いかける。

「モンタナ様。その時に毎月献上しなさいと言われたらどうしますか?」

「え、えっと…」

「会長!あれは作るのに九年かかる代物ですよ!」

「ハッ!作れないのでと正直にお断りします!」

「でも、本当は沢山あったのに誰かさんのせいで燃やされたとしたら?」

「お!おぉ!」
「本来王への献上品に手を出すのは罪です!取るに足らない物ならば別ですが、あのウイスキーなら絶対に犯人を探すはずです!」
「例え捕まらなかったとしても嫌がらせはなくなるでしょう!」

 モンタナさんは素直に嬉しそうにしているが、ニコラさんとシモンさんはフィオデナルドさんに似た黒い笑みを浮かべている。


「ですが、今回は初めから全て話してしまいましょう」

「え?」

「モンタナ様。このような非道な行いをされたのです穏便に済ませる必要はありませんよ」

 あ…フィオデナルドさん本気だ…。
 やる気十分のフィオデナルドさんがいれば勝ったも同然なのではないだろうか。
 
 もう、なんだか負ける気がしない。

 それから、私達は綿密な打ち合わせをし、各々作戦のため行動し、あっという間に1日が過ぎた。



「リザさん。ご準備は大丈夫ですか?」

「はい!」

 私達は建国祭に参加する為に王都に出発する。
 季節は秋目前。
 私がこの世界にして半年が過ぎた。












 
 

 



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