上 下
105 / 244
建国祭

怒り

しおりを挟む



「モンタナさん!」

「リ、リザ様…この度は…この度は…」

「本当に申し訳ありません」
「ありません…」

 明らかに疲弊した様子のモンタナさんと昨夜は寝ていないのか目の下に隈を作って90度以上に頭を下げるニコラさんとシモンさん。
 痛々しい三人の様子に私は上手い言葉が見つからない。
 大丈夫か、なんて聞けない。だって大丈夫な訳がないのだから。
 これまで三人がどれだけ心血を注いであの一樽を造っていたことか。

「モンタナさん…」

「いやはや、本当突然キャンセルをしてしまい申し訳ありませんでした。…ご挨拶に行く余裕もなく…お祝いの品は後ほど送らせて頂きますので…」

「そんな事はどうでもいいんです。皆さんがご無事で何よりです」

「…ご心配をおかけしました」

「…モンタナ様、建国祭のお酒はどうされるのですか?」

 モンタナさんはフィオデナルドさんの言葉に一瞬ハッ、と目を見開き少しくぐもったような声で言う。

「…幸い、倉庫を埋める為に毎日ウイスキーは作っておりまして、昨夜工場を稼働させて…明後日出来上がる分を持っていくつもりです…」

「間に合うのですか…?」

「馬車は相当揺れるでしょうが、問題ないです!最高の物とはいきませんが、我々は元々熟成前の物でも十分満足でしたので!」

 モンタナさんは私に気を遣わせないように、と懸命にいつも通りの優しげな表情を作って明るく言うが、誰がどう見ても無理をしているのは明らかで、どうしてこんな酷いことが出来るのだろうか、と再び犯人への怒りが沸々と沸き起こる。

「モンタナさん。つかぬ事を伺いますが犯人は?」

「…お恥ずかしい話しです。私も建国祭前ですから警戒していたのですがね…」

「わ、私が……経理の者に倉庫の領収書を…」

 ニコラさんは脚をガクガクと震わせていて顔は真っ青。何とか立っていられるような状態のニコラさんをシモンさんが支えている。

「その経理が酒に酔った勢いで何処かで私が倉庫を新しく借りた事を話したようです」

「その話しが貴族とも繋がりのあるこの辺で有名なごろつきに伝わってしまったようです。商売をしている者は皆、建国祭に力を入れますから金儲けに使われたのかと」

「…と言う事は相手は…」

「…はい。何となく予想は付きますが、証拠はありません」

「絶対にオクタヴィアン侯爵です!」

「これ、シモン!」

 そうだ。狙われたのがビール工場ではなく、新しく借りた倉庫で、しかもこんな建国祭目前ならただの嫌がらせとかのレベルじゃなくて、建国祭に向けての妨害行為の方がしっくりくる。
 そう考えれば犯人はモンタナさんが活躍すると困る人。

 ここまでついて来てくれたと言う事は二人ともモンタナさんに協力する気はあるだろうし、私だけじゃ足りないだろうからここは二人にも協力をして貰って…。

 私が二人に視線を向けるととてもよく似たで微笑みを向けられる。

ーーードキドキ…

 うん、美形にトキメクのは乙女のサガだよ。

「モンタナさん。先日の残りのウイスキー使ってください」

「いえ!!あれはリザ様のものです!我々の不注意でこのようなことになったのにそこまでお世話頂いてしまったら…」

「…モンタナさん。失礼だとは思いますが…私、正直エールをあんまり美味しいと思ってなくて、代わりになる美味しいお酒を作りたい…だなんて生意気な事を思ってたんです」

「そ、れはそうでしょうな…。あれだけ美味しいものを知っていたら…」

「私はそんな適当な気持ちでこのウイスキー造りを始めたんです。正直に言うと私も作り手側ですから、見たことも聞いたこともない製法の物に大金を投資するなんて普通は躊躇するはず。なのにモンタナさんやニコラさん、シモンさんは私を信頼してくれて、とても一生懸命に真摯に向き合ってくれました。そんな姿を見て、同じ作り手なのに…と私は自分が恥ずかしくなりました」

「そ、そんな!」
「何もかもリザ様のお陰です!」

 私は大袈裟に首を横に振る。
 確かにアイディアは私が出しだけど、それ以上の知識もなかった。私一人では絶対にウイスキーは完成してなかったのは明らか。
 そんな中、持てるノウハウを駆使して作り上げたのはモンタナさん達だし、熟成は《時空間魔法》を使ってくださったフィオデナルドさんと魔法石を集めてくださった【金色の獅子】の皆さんのお陰。

 だから、正直私には王様に献上とかそんな事はどうでも良かった。少しでも良いものを作って三人のこれまでの努力が認められて喜んでいる姿を見たい、協力してくれた人たちに報いたい。それだけだった。

 なのに、それを邪魔された。
 いつもは何かあっても優しく見守ってくれているフランさんが指摘するくらいに怒りが湧き出ていた。

「モンタナさん。そんな凄くいい加減な私ですが、もう一度私信じては貰えませんか?」

「…リザ様。リザ様を信じないなど私にはあり得ないことです」

「ふふふ、では!建国祭!絶対に勝ちましょう!」

「は、はい!」

 先に手を出したのはそっちだ。絶対に勝ちをくれてやるもんか!





 







しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...