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建国祭
怒り
しおりを挟む「モンタナさん!」
「リ、リザ様…この度は…この度は…」
「本当に申し訳ありません」
「ありません…」
明らかに疲弊した様子のモンタナさんと昨夜は寝ていないのか目の下に隈を作って90度以上に頭を下げるニコラさんとシモンさん。
痛々しい三人の様子に私は上手い言葉が見つからない。
大丈夫か、なんて聞けない。だって大丈夫な訳がないのだから。
これまで三人がどれだけ心血を注いであの一樽を造っていたことか。
「モンタナさん…」
「いやはや、本当突然キャンセルをしてしまい申し訳ありませんでした。…ご挨拶に行く余裕もなく…お祝いの品は後ほど送らせて頂きますので…」
「そんな事はどうでもいいんです。皆さんがご無事で何よりです」
「…ご心配をおかけしました」
「…モンタナ様、建国祭のお酒はどうされるのですか?」
モンタナさんはフィオデナルドさんの言葉に一瞬ハッ、と目を見開き少しくぐもったような声で言う。
「…幸い、倉庫を埋める為に毎日ウイスキーは作っておりまして、昨夜工場を稼働させて…明後日出来上がる分を持っていくつもりです…」
「間に合うのですか…?」
「馬車は相当揺れるでしょうが、問題ないです!最高の物とはいきませんが、我々は元々熟成前の物でも十分満足でしたので!」
モンタナさんは私に気を遣わせないように、と懸命にいつも通りの優しげな表情を作って明るく言うが、誰がどう見ても無理をしているのは明らかで、どうしてこんな酷いことが出来るのだろうか、と再び犯人への怒りが沸々と沸き起こる。
「モンタナさん。つかぬ事を伺いますが犯人は?」
「…お恥ずかしい話しです。私も建国祭前ですから警戒していたのですがね…」
「わ、私が……経理の者に倉庫の領収書を…」
ニコラさんは脚をガクガクと震わせていて顔は真っ青。何とか立っていられるような状態のニコラさんをシモンさんが支えている。
「その経理が酒に酔った勢いで何処かで私が倉庫を新しく借りた事を話したようです」
「その話しが貴族とも繋がりのあるこの辺で有名なごろつきに伝わってしまったようです。商売をしている者は皆、建国祭に力を入れますから金儲けに使われたのかと」
「…と言う事は相手は…」
「…はい。何となく予想は付きますが、証拠はありません」
「絶対にオクタヴィアン侯爵です!」
「これ、シモン!」
そうだ。狙われたのがビール工場ではなく、新しく借りた倉庫で、しかもこんな建国祭目前ならただの嫌がらせとかのレベルじゃなくて、建国祭に向けての妨害行為の方がしっくりくる。
そう考えれば犯人はモンタナさんが活躍すると困る人。
ここまでついて来てくれたと言う事は二人ともモンタナさんに協力する気はあるだろうし、私だけじゃ足りないだろうからここは二人にも協力をして貰って…。
私が二人に視線を向けるととてもよく似たで微笑みを向けられる。
ーーードキドキ…
うん、美形にトキメクのは乙女のサガだよ。
「モンタナさん。先日の残りのウイスキー使ってください」
「いえ!!あれはリザ様のものです!我々の不注意でこのようなことになったのにそこまでお世話頂いてしまったら…」
「…モンタナさん。失礼だとは思いますが…私、正直エールをあんまり美味しいと思ってなくて、代わりになる美味しいお酒を作りたい…だなんて生意気な事を思ってたんです」
「そ、れはそうでしょうな…。あれだけ美味しいものを知っていたら…」
「私はそんな適当な気持ちでこのウイスキー造りを始めたんです。正直に言うと私も作り手側ですから、見たことも聞いたこともない製法の物に大金を投資するなんて普通は躊躇するはず。なのにモンタナさんやニコラさん、シモンさんは私を信頼してくれて、とても一生懸命に真摯に向き合ってくれました。そんな姿を見て、同じ作り手なのに…と私は自分が恥ずかしくなりました」
「そ、そんな!」
「何もかもリザ様のお陰です!」
私は大袈裟に首を横に振る。
確かにアイディアは私が出しだけど、それ以上の知識もなかった。私一人では絶対にウイスキーは完成してなかったのは明らか。
そんな中、持てるノウハウを駆使して作り上げたのはモンタナさん達だし、熟成は《時空間魔法》を使ってくださったフィオデナルドさんと魔法石を集めてくださった【金色の獅子】の皆さんのお陰。
だから、正直私には王様に献上とかそんな事はどうでも良かった。少しでも良いものを作って三人のこれまでの努力が認められて喜んでいる姿を見たい、協力してくれた人たちに報いたい。それだけだった。
なのに、それを邪魔された。
いつもは何かあっても優しく見守ってくれているフランさんが指摘するくらいに怒りが湧き出ていた。
「モンタナさん。そんな凄くいい加減な私ですが、もう一度私信じては貰えませんか?」
「…リザ様。リザ様を信じないなど私にはあり得ないことです」
「ふふふ、では!建国祭!絶対に勝ちましょう!」
「は、はい!」
先に手を出したのはそっちだ。絶対に勝ちをくれてやるもんか!
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