101 / 244
建国祭
倉庫
しおりを挟む「…こ、こんなに作ってたんですか…」
「これからまだまだですよ!今年中にこの倉庫の半分くらいは埋めなければ!」
モンタナさんはヤル気充分に鼻息荒く言う。
モンタナさんが新たに借りた倉庫は私が想像していた以上で、兎の隠れ家亭が優に5つは入る程の広さを有している。
しかも、その倉庫の1/10くらいはもう既にウイスキーの酒樽が積み上げられているのだから凄い。
これ、ワインの事言ったらどうなるのかな…。
「本当に二つだけでよろしいので?」
「そんなに魔法はかけられませんから」
「良ければ此方もお使いください。少しでも足しになれば良いのですが」
「い、いえ!そんな高そうな物貰えません!」
「《時空間魔法》をお願いするよりは安い物なのですがね?」
胸に付けていた大きなブローチを外してモンタナさんはルーペリオさんに手渡す。
こういう時に私の意志は通らないらしい。
「モンタナさん。倉庫の端の方をお借りしても?」
「えぇ。構いませんよ。ニコラ、シモン」
「はい!リザ様、此方をお使いください!」
「ダンジョンりんごが入ってた樽に詰めた物です!」
相変わらず元気なニコラさんとシモンさんが用意してくれた酒樽の隣にフィオデナルドさんは工房から持ってきた樽を置く。二人が追加で用意してくれた酒樽は元は果物を入れる用だからか、預かっていた樽よりも一回り大きい。
魔法石が足りなくなるのでは、と少し不安になったが、モンタナさんから頂いたブローチがあるので問題ないとの事。
そして、何時ぞやマーサちゃんがやっていたようにあの甲高い超音波のような歌のような言葉をフィオデナルドさんが発すると、樽が置かれている地面がゆっくりと青く光り出し、樽を柔らかな光で包み込む。
ひんやりとした空気が地面を這うように漂い、私はブルリと身震いをする。
どのくらいの間その声を聞いていただろうか。
青い光がゆっくりと青みを失っていくのを見届けてブォンと空気を切るような音が響くと、樽を繋ぐ金属が少しくすみ、木は水分を吸って少し色が濃くなっている。先程まで新品同様で綺麗だった樽がこうも変わると時が経ったのだと実感することができた。
「成功しました」
「「「「…ゴクン」」」」
「試し飲みする前にもう一つも終わらせてしまいましょう」
念願の熟成ウイスキーが飲めると分かり、私達は思わず喉を鳴らしたが、笑顔のフィオデナルドさんに諭され、泣く泣く頷く。
もう一つの樽は更に三倍ほどの時を進めて熟成させるので、時間がかかるかと思ったが同じくらいの時間で終わった。
涎を垂らしそうな私達にフィオデナルドさんがうん、と大きく頷くとやはり用意の良いルーペリオさんは人数分のグラスを私に差し出す。
それに私も大きく頷いて、まずは3年熟成のウイスキーを少しずつグラスに注いだ。
「…まずは王様に献上する予定のウイスキーです」
「琥珀色ですか…見た目から全然違いますね…」
「三年熟成でどれだけ変わるのか…」
「…漂う香りも何やら違いますね…」
私がグラスを口に運ぶのを三人は喉を鳴らしながら見守る。
…美味しい。
熟成前でも満足していた三人ならこの違いがよく分かるはず。
三年熟成でも口当たりがかなりマイルドになっているし、鼻に抜けるスモーキーな香り。
「…成功ですね!凄く美味しいです!」
「本当ですか!」
「で、では…我々も…」
「緊張します…」
三人は緊張した面持ちでゆっくりと琥珀色の液体を喉に流す。
「「「…!!!!」」」
「フィオデナルドさん、ルーペリオさん。お二人は如何ですか?」
「…言葉になりません」
「…リザさん。熟成期間は長い方が美味しくなるのですよね…?」
「9年もの…飲んでみましょうか」
「是非」
ルーペリオさんが無言で差し出したグラスを受け取り、私は一滴も溢さないように丁寧に注ぐ。
先程のウイスキーよりもほんのり濃い琥珀色がグラスの中でゆったりと揺れる。
3年ものにはまだビスケットのような焼きたてのパンのような香りが残っていたけど、こっちはそれが少し薄く、代わりにフルーティーな香りとそこにほんのりバニラのような甘い香りが混ざっている。
匂いだけでその完成度の高さを魅力的に伝えて来て、今度はフィオデナルドさんも喉を鳴らした。
そして、私達は全員言葉を失った。
3
お気に入りに追加
884
あなたにおすすめの小説
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる