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建国祭
量産
しおりを挟む最近は特に忙しすぎて日本にいた頃も含めてこの1ヶ月が人生で一番早く通り過ぎたように感じた。
ルーペリオさんに言われた通り、鈴蘭の精油はバームを辞めてスプレー方式に変えて、その代わりレモンとオレンジなどの柑橘系の精油とミント系の爽やかな香りの精油を抽出して新たなバームを作った。
レモンバームは《浄化・中》、オレンジバームは《解毒・中》ミントバームは《鎮痛・中》が付いた。
なのでそれぞれのバームの他にミント×オレンジの《異常回復・中》やリンド×レモン《状態回復・中》などの組み合わせバームも作った。
他にも元々作っていた革製のベルトやブレスレット、鞄、それからカップラーメンもルーペリオさんにお手伝い頂いて3種類の味をかなりの量を量産した。
その作業の最中に騎士であるロキさんは建国祭の警備の為、王都へ帰られた。カップラーメンはそれぞれ10個程買い取って行った。
なので最近は再び金獅子の誰かが一緒にいてくれている。今日はフィオデナルドさんだ。
秋の訪れを告げる始まりの一日である建国祭まであと2週間。
この暑苦しい夏も終わろうとしている。
私の商会の開店もそろそろ大詰めというところまでたどり着いた。このままだと建国祭の日には開店出来そうだ。
なので、お祝いパーティーの予定も来週末に決定した。
ルーペリオさんがこのパーティーにとても乗り気なので私は当日のお菓子作りに力を入れ、それまでの準備は全部お任せることにした。
「仕上がりはこんな感じだ。確認してくれ」
「面倒な事を頼んですみません」
「いや、正直…この仕事は凄く楽しかったんだ。捻って開ける蓋なんて発想は今までなかったからな。任せてもらえて本当に良かったと思ってる」
今日はその量産した軟膏を入れる容器の追加分を受け取りに来ていた。
親方が言っているのはその発注した缶のこと。この世界にも缶に何かを詰めると言う発想は元々あって、私もそれを使おうと検討していたが蓋と容器がピッタリとハマるタイプの缶でとにかく開けづらく使うまでにとても苦労する。
それを少しでも解消させるために蓋と容器に螺旋状の溝を作り、ネジの要領で捻って開け締め出来る蓋を提案してみたところ、親方の目の色が変わった。
制作にはそれなりに時間がかかったけど、蓋の開けやすさ、使いやすさは冒険者用に売り出すなら私的には必須の項目だった。
「そうそう、もう一つの方も出来上がってるぜ。うちの馬鹿息子が担当したから見に行ってやってくれ」
「本当ですか!良かったね、ノア!」
「なぁ~」
「今日もらった追加発注の容器は商会が開いてからだな」
「はい、そうですね!」
実は容器のアイディアだけでも工房からすればとても有力情報だったらしく、お礼に何かを作ると言われたので、二つほどお願いをしてみた。
一つはスナップボタン。缶をピッタリと合わせる技術があるのなら、とお願いしてみた。大きさは2種類。鞄などにも使える大きめの物と小物にも使える小さ目の物をお願いした。
そしてもう一つはノアのための窓。
普段ノアは私と共に行動しているけど、時折ふらりと一人で出かける事がある。ロキさんが護衛につくようになってからはそれが更に増えている気がする。
そのせいで以前、部屋で待って貰っていた時にノアが外出する為に勝手に部屋から抜け出してしまった事があり、その時間違って厨房に入ってしまったらしい。勿論、私の部屋の扉は開いたままで心配になったフランさんからの提案でノア専用の出入り口を窓に設置することになったのだ。
「エルフィンくん。今大丈夫ですか?」
「あ!リザさん!お待たせして申し訳ありません!お伺いしていた通りに作っては見ましたが…如何でしょうか?」
エルフィンくんは本当に手先が器用で親方は繊細で細かな作業の殆どをエルフィンくんにやらせているみたいで、私の注文は基本的にエルフィンくんが担当する事が多い。
彼はどの仕事にもとても意欲的で楽しそうなのに何故、わざわざ貴族の屋敷で働いていたのか、と時折不思議に思う。
「エルフィンくん、完璧です」
「それは良かったです!取り付けは明日中に終わらせますね。この仕事はこの前のよりは簡単なお題でした。次は何をお作りしましょうか!」
「しばらくはスナップボタンと缶をお願いすることになると思います」
「あ、そうなんですね。……次も楽しみにしてます」
私の返事にエルフィンくんはとても残念そうにして作りかけのスナップボタンに視線を向ける。
「実はもう一つお願いしたい物があって、今それの設計図を書いているところなんです」
「本当ですか!!それも是非私に作らせて下さい!」
キラキラとした純粋な目で見つめてくるエルフィンくんをフィオデナルドさんが制止する。
「はい、これからも宜しくお願いしますね」
「油断も隙もない…」
「何か言いました?」
「いえ、何も」
私は上手く聞き取れなくて首を傾げ、エルフィンくんは何事もなかったかのように次のはどんな物だろうか、と呟きながら作業台に戻ってテキパキとスナップボタンを作り始めたがその表情は上の空だった。
私は親方や工房の皆さんにお礼を言って工房を後にした。
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