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建国祭
ウイスキー
しおりを挟む「隠してた、と言うより…本当に美味しいものが出来るかどうかは私も作ってみないと分からないんです」
何となくの原理や蒸留器を使う事までは知っている。
だが、実際に作った事はないし、勿論造り方に多少の工程の違いもある為、何処まで美味しいものが出来るのかが全く分からない。
そもそもこっちのエールはビールよりも味は良くはないし、ビール独特のあの苦味や喉越し、炭酸感もそんなにない。
そこから本当に私の知っているウイスキーになるのかは分からなかった。私もウイスキーにそんなに詳しいわけでは無いがそもそもウイスキーは熟成年数や熟成させる樽によっても味や香りが変わると聞いた事がある。
だから、実験的な意味合いで少し蒸留してみたい、融通してくれたら…とかなり軽い気持ちで考えていたのだ。
でも、この前マーサちゃんと話しをした事で心の中が上手く整理され、お陰でこれまでの気持ちと上手く折り合いをつける事ができたので気付いてしまった。
そして、思ったのだ。私も誰かを変えるきっかけになりたい、と。
だから、次もし信頼出来ると思える人に出会えたのなら、私自身が変われる様に…またその人も変えられる様に…人と関わって行きたいと思えるようになった。
それが【猛き蒼狼】の人達だった。
だから、今回も信頼しているルーペリオさんが紹介してくれて、自分自身でも良い人だと思えたモンタナさんの役に立つのなら、別に教えても構わないと思ったのだ。
「美味しいかどうかは作らないと分からない…ですか。それはうちのエールの作り方に問題があるという事なのでしょうか?やはり、王都のギルネエールには勝てないと言う事なのでしょうか…」
「ギルネエール?」
「モンタナさんの工房で造られているのはターナーという銘柄になります。ギルネとは王都にあるオクタヴィアン侯爵の工房で作られているエールです」
「…毎年、健国祭に各工房が腕によりをかけてその年出来た最高のお酒を王へ献上するのですが、私どもは一度も勝てた事がありません…」
なるほど。ブランド毎の競争はよくある事だ。私も時折ご褒美にとビールを飲むときはア○ヒを好んで飲んでいた。
でも、モンタナさんの言い方的には好みの違いではなく、単純に美味しさで負けていると言うことなのだろう。
ターナーエールも冷たくして飲めば飲めない事もないけど…。
「あ、でも…その年出来た最高のお酒、と言うことはその献上するお酒はエールじゃなくても良いんですね?」
「はい。王はもうエールに飽きているそうで、新しい物をご所望しているそうです。ですが、未だ誰も新しい物を生み出せていない。そして、私共は毎年ギルネエールに勝てず…」
正直言って自信は無いけど、王様が新しい物を探しているならそこに勝機はあるかも知れない。
それにウイスキーなら飲み方を変えられるから、多少美味しくなくても王様の好みに寄せることも可能かも知れない。
正直…まだ貴族や王族と関わる事は避けたいし、怖いけれど、私も一歩踏み出さないといけないし、これはある意味勝負だ。
そのギルネエールを上回る物を作って、貴族の鼻をあかすのも楽しいかも知れない。
「…その健国祭っていつですか?」
「リザさま?」
「えっと…今が、赤の月の二周目だから…」
「ちょうど2ヶ月後だ」
今まで黙ってたロキさんがハッキリとした声で告げる。
「2ヶ月…。時間がありません!今から親方にお願いしに行きましょう!」
「お、親方さんですか!?」
「私が提案する新しいお酒は親方が作った蒸留器が無いと作れないんです!」
「蒸留器とは何なのでしょうか!リザ様…!!」
こうして私はターナー醸造所の主で主にお酒などを販売しているグランデ商会の商会長であるモンタナさんとお知り合いになった。
モンタナさんは男は度胸です、と何の躊躇もなく大金を叩いて私が言った通り、巨大な蒸留器を三つも発注し、ウイスキー作りに備えてくれた。
※日本で酒類を製造するには「酒造免許」が必要で、個人でアルコール1%以上のお酒を作ると酒税法に引っかかります。ご注意下さい。
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