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建国祭

魔法の先生と鍛冶屋

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「ロキさん、その話し本当ですか!?」

「…あ、あぁ。昨日、興味があったみたいだったから」

「嬉しいです!私、練習頑張ります!」

「無理のない程度にな」

 宿まで迎えに来てくれたロキさんと軽く朝食を済ませた後、ルーペリオさんとの待ち合わせ場所までの道のり、昨日はあんなに静かだったロキさんが突然“魔法を覚えたいなら教えるが…”と切り出してくれたのだ。

「ノア、また私が浮かれすぎてたら言ってね」

「…」

 今日は何て良い日なんだろう。
 念願の蒸留器を頼めるし、ロキさんが魔法を教えてくれるみたいだし、もう、ノアのザラザラの舌で頬を舐められても、外が炎天下だとしても気にならないくらい良いことづくめだ。
 

「ここだな」

「はい!」

「お二人ともおはようございます。早速ですが中にどうぞ」

「よろしくお願いしま……す」

 工房の扉を開けるや否や思わず引き返したくなる様な外気温よりも更に暑く蒸し蒸しとした空気が顔を撫でる。
 中では職人たちがそんな暑さにも負けずに黙々と作業を続けている。

「親方、此方リザさんです」

「リザです。よろしくお願いします」

「おー、アンタが特注品の注文者か」

「はい、簡単な設計図を持ってきました」

「ほう、早速見せて貰おうか」

 親方は生えっぱなしの髭を摩りながら、ニヤニヤとした表情で私が取り出した紙を覗き込む。

「…」

「どうでしょうか…?」

「ここは何をする所なんだ?」

「あ、そこは冷却する所で…」

「じゃあ、ここは?」

「そこに花を入れて煮詰めるんです」

 親方の顔は険しい。

「花を入れて何を作るんだ?」

「あ、えっと…」

「親方、その辺は企業秘密です」

「なるほどな」

 ルーペリオさんが間に入ってそれ以上の説明を止める。
 企業秘密にするつもりはなかったが、ルーペリオさんにはルーペリオさんなりの考えがあるのだと思いお任せすることにして、余計な事を言わないように口を閉ざす。

「おい、一旦手を止めて集まってくれ」

 親方の呼び掛けで工房の職人達が手を止めてわらわらと集まってきた。
 親方は彼らに私が作った図を見せるとなんやかんやと指を刺しながら話し合いを始めた。

「嬢ちゃん、ここに使う素材に指定はあるか?」

「出来ればですが、銅を使って頂けると…」

「銅か…誰かエルフィンを呼んできてくれ」

「は、はい!」

 ドタバタと慌てた様子でエルフィンさんを呼びに行った若い青年を見送る前に親方は次の質問を始める。

「それでここだが、井戸水をどうやってこんな細い穴に通すんだ?それから火をかけるなら五徳が必要だろ。あと、取り出すのは液体なんだろ?それ用の器も必要だな」

「た、確かに…」

 一気に進んでいく話しに私は圧倒される。

「水がここに溜まれば良いだけなら水の魔石を使おう」

「は、はい。お任せします」

「よし、ゴットンお前はこのサイズで五徳の製作を始めてくれ」

「はい」

「ニューラ、お前はここの器を担当しろ」

「分かりました」

「とう…親方!呼びましたか!……ってあれ?貴方は…」

 テキパキと職人達に指示を与えていく親方。蒸留器の作業を優先してくれるのは有り難いが、他の仕事は大丈夫なのか、と少々不安になりかけていた私達のもとに見た顔が近づいてくる。

「エルフィン、お客さんの前だぞ!キチンとせい!」

「あ、ああああ、あの、エルフィンです!!その節はご迷惑をお掛けしました!!」

 エルフィンと名乗ったのは先日、貴族の指示で私を探しにフローネまで来て、運悪く私達と一緒に誘拐され、ノアを見て驚き気を失ったあの青年。
 あの後彼はどうなったのか、と少し心配だったけど元気な姿を見れて何となくホッとした。

「倅が世話になったみたいで。この仕事は責任を持ってやらせてもらうから安心してくれ」

「宜しくお願いします」

「じゃあ、エルフィン!お前はここを担当しろ」

「…銅製ですか。クルクルと渦を巻く形でこの鍋に収まる大きさ…そして、中は空洞ですか…金属を使って液体を流すなんて…何のための道具なんだろ?」

 親方から図を見せられた途端に真剣な表情に変えるエルフィン。
 もう既に周りが見えていないのかブツブツと一人呟いている。

「あんなんだが、仕事は一流なんだ」

「す、凄い集中力ですね…」

「あぁ、アイツは天才だ。まぁ、俺の次にだけどな!ガハハ!」

 親方は盛大に笑いながら、私の背中を数回バシバシと叩く。
 相変わらず大人しく肩に乗っていたノアはとても嫌そうに親方を見ていた。





 
 

 
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