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異世界
残された者
しおりを挟む足元の花を一輪摘んで、目の前で日向ぼっこしているノアの首輪に挿しながら梨沙が口吃りながら話す。
「その、口下手なので…きちんと伝わるか分かりませんが…マーサちゃんは今凄くモヤモヤしてますよね。…その時どうする事も出来なかったのは分かってるのにあの時、あぁしてれば…こうしてれば…ってつい考えてしまいますよね」
「…」
「その…私もあの時こうしてれば何か変わったのかな…って思う時がありました。……でも、多分何にも変わらなかったんです。私自身が変わってないから」
「…自分自身が、ですか」
「結局は自分がやる事とか思い付く事なんて限られてて、どの道に進んだとしてもそう言う結果になってたと思います」
「…そうかも知れませんね」
梨沙の言う通り、マーサは村を出た事は後悔していない。あの時村を出ていなかったとしても、例え冒険者にならなかったとしても、いずれ村は出ていたと自分でも思う。
そして、同じ道を辿っていただろうとも。
「だから、私はそのやるせなさとかを“物を作る”という行為に置き換えて自分自身を保ってたんです」
「何となく分かります」
出来る事がまだあったのにも関わらず、子供のように拗ねて、何年も村へ帰らずに村が襲われたと知った時、自分の言う事を聞かなかったからこうなったのだ、と頭をよぎったあの言葉がマーサを苦しめ続けた。
そして、冒険者を続ける事が出来なくなったマーサは今まさに錬金加工の仕事をしている。
「…私の生まれた場所には“人は一人では生きていけない”って言葉があって…。人と人は支え合って生きているんだよ…って。言っている意味は分かってました。でも、実感する機会があまりなくて…」
「それも何となく…分かります…」
「…その、私…この前あの鞄を作ったり、ノアに助けて欲しいって言われて……人に初めて必要とされる事が、素直に嬉しいって思たんです」
初めて…?
これだけの能力があるのに、初めてなんて事あり得るのだろうか。
いや…そうだ。能力があっても受け入れられない事だって沢山ある。私がどれだけ訴えても村の連中が耳を貸さなかったように…。
「それで…この前一緒に森に行ってから数日マーサちゃんの事を考えてて…その、変な意味じゃないんですよ?ただ、そのお陰で気付いたといいますか……その自分を変えるきっかけをくれるのが人との関わりなんだって分かったんです」
「…っ」
「私、こんなに喋る方の人間じゃなかったんです」
「え?」
「それから、あんまり我儘も言いませんでしたし、人嫌いもしないし、あんまり感情を外に出す事もなかったし、我慢強い方だし、まじめな方だと思いますし、その…家族と上手くいかなくても…」
「リザさんは変わられたのですね」
梨沙はマーサの言葉にちゃんと伝わった!とでも言いたげに目を輝かせて大きく頷く。それを見てマーサは可笑しそうに笑いを堪える。
「…でも、まだほんの少しです。これからもっと変われる気がします。今一人で生きてると感じてた時よりもずっと楽しいんです。だから、ワイバーンに襲われたり、誘拐されたり…危険な目にも散々あったけど、今はここに来て良かったって思えたんです」
「……それも分かります」
「すみません、私如きが何言ってんだって感じですよね…。でも、マーサちゃんのお陰で気付いたので、お礼も言いたくて…」
一人で村の危険を訴え続けて、誰も聞いてくれなくて、受け入れてくれなくて、それでも守りたくて、一人で村に柵や土手を作ったり、感知の魔法陣を毎晩張って周りの防御を固めたり…。
本当に頑張った。皆んなを守る為に。
でも、誰もそれを理解していなかった。毎日呑気に錬金するだけで、誰も私の苦労を知ろうともしなかった。守られている事に気付きもしなかった。
だから村を出て、冒険者になった。
新人の癖して村での魔物討伐を鼻高々に語り、まともに準備もする事なくそのまま依頼へ出てそのまま死に戻ってくるような馬鹿な奴らもいたが、まともにマーサの助言を聞いてくれる人もいた。
「…ギルに久しぶりに会いに行こうかな」
「お友達ですか?」
「友達…いや、仲間…大切な人です」
目を細めたマーサを見ないように梨沙はそっと顔を伏せた。
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