68 / 244
異世界
心強い協力者
しおりを挟む「今日は二人で草摘みか?」
「はい、いつも通り染色に必要な素材が少なくなってきたので静の森に行ってきます」
「いつもよりペースが早いな?儲かってるんなら何よりだ!いってらっしゃい!」
「ありがとうございます」
マーサちゃんがいつも通り門番をしている衛兵達と簡単な会話をしているのを横で大人しくして聞きながら、ペコリとお辞儀だけする。
みんな良い人なのはもう分かっているのだが、先日彼らに殺気を出されて倒れて以来、まだ苦手意識が抜けきれていないようでついつい身体が硬ってしまう。
彼らも彼らでそれが分かっているからか、無闇に話しかけては来ない。
「まだ怖いですか?」
「そう言うわけではないんだけど…つい、身体がそうなってしまうみたいで…」
「キャスパリーグは怖くないのに人が怖いんですね」
「ノアには助けられた事はあっても襲われた事一度もないから…」
ゆっくりと静かな森の中を会話を途切れさせないように時より冗談なんかを交えながら進む。
ただ、コミュニケーション能力の低い私と普段物静かなマーサちゃんの会話が上手く続く訳もなく、仕方がなく本題を切り出した。
「…二人で話したい事…聞いても良いですか?」
「…リザさん。その、話しというのは先日の件なんです」
先日。
そう言われて思い浮かぶのはノアを迎えに行ったあの日の事。ノアの話しに取り乱した様子を見せたマーサちゃんにあの日は余り深くは聞けなかった。
「キャスパリーグ…いえ、ノアが言っていた事についてあれから冷静になって少し考えてみたんです」
「魔物が…その……人を襲った理由、だよね」
「はい」
ダンジョン攻略が進まず、育ちすぎたダンジョンのせいで周囲の魔素が薄くなり、魔素で栄養を補う魔物達が生きる為に人を襲った、と言う話し。
「私の故郷はこの静の森の奥深いところにあったんです。でも、数年前に村が魔物の群れに襲われて…その時に私は父も母も姉も亡くしました」
「…それは…」
「突然、重い話しをしてすみません。でも、大丈夫です。今はフローネに来て本当に良かったと思っているんです。…ただ、やっぱり魔物は憎いんです」
「うん、そうだね」
大丈夫だ、と言うマーサは優しく笑っていて無理をしている風には見えなかった。勿論、住む場所を、仲間を、家族を失った悲しみは残っているだろう。
でも、彼女は彼女なりにきちんと折り合いをつけられているみたいだ。
「あの時はまるで魔物達も人を襲いたくなかった、と言われているように聞こえて。でも、私達も草花を摘んだり、動物を狩ったり、勿論…魔物も素材になりますから倒します。それはやりたくて、と言うよりは生きる為でお互い様なんですよね」
「…うん、お互い様なのかも知れないね」
「でも、もし本当にノアが言うようにダンジョン攻略さえ進めば魔物達が私の村や先日のワイバーン騒ぎみたいに人を襲わなくなるのなら…私も協力したいと思います」
マーサの強い決意に応えるように肩に乗っていたノアがそのふわふわの尻尾で彼女の頬を撫でる。
「協力して貰えるのなら本当に助かります。…他に打ち明ける訳には行かないので…」
「確かに、ノアがキャスパリーグだと皆さんに伝えるのは大変ですね。何か作戦はあるのですか?」
この世界についての知識が著しく足りてない。それをマーサが補ってくれるのならばとても頼もしい。
「冒険者じゃない私に出来るのは優秀冒険者を集める事をだと思うんです」
「そうですね。あの鞄は金色の獅子達が宣伝してたみたいですね?」
「あ、あれは…その、他に事情がありまして…」
「分かってます。貴族達を避ける為に、ですよね」
マーサちゃんは私が貴族を嫌っている事を知っているし、先日の誘拐事件の事も知っている。だから、詳しく話さなくてもある程度は察してくれているみたいだ。
「彼らが持ち帰ったと言うヒュドラも広場に見に行きましたが、本当に大きくて驚きました。あれがあんな小さな鞄に入るなんて信じられません」
「…実はあれには私も驚いたんです」
「リザさんがですか??」
作った本人なのに、と可笑しそうに笑ったマーサに梨沙も笑顔を返した。
6
お気に入りに追加
884
あなたにおすすめの小説
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる