上 下
67 / 244
異世界

反省

しおりを挟む



「それで?何があったんだ…?」

 フィオデナルドと梨沙の足音が遠くなったのを確認してジンクスが問いただす。
 三人は怒り心頭だと言わんばかりに、ジンクスお気に入りの高級革張りソファにドスッと座った。
 それに文句を言おうとしたジンクスの怒りを更に上回る勢いでミャールが机を強く叩いて声を荒げる。

「私達、フィオの作戦通りきちんと城へ行ったにゃ!王様があの馬鹿たちを正式に公衆の面前で懲らしめられるところはまで予定通りだったにゃ!」

「馬鹿は馬鹿、そういうこと」

「だけど男爵家の馬鹿娘が王様にそれがどうした、って口答えしたにゃ」

 大方その馬鹿娘がここまでされても自分が何をしたのか分かっていなかった事に激怒したのだろう、とジンクスは予想して執務椅子にゆっくりと腰を下ろした。
 どうせ何かの間違いだとか、平民に何しても問題ないとでも騒いだか。若い貴族の娘が言いそうな事だ、と納得したジンクスは机の書類に視線を向けた。

「勿論、王様もビシッと言ってその馬鹿たちは牢屋に繋がれたにゃ。でも、その後フローネで暴れたアホたちをリストにした抗議書を王様が確認したんにゃけど…」

「多すぎて、捌き切れない、お祝いした、見逃せ、王様言った」

「だから、殴った」

 思わず椅子から転げ落ちそうになったジンクスは何とか体制を立て直してから恐る恐る聞く。

「…ま、まさか…大丈夫だよな?」

「アークはかなり我慢したにゃ。ちょっと地面に風穴が空いたくらいにゃ」

 今は王様を殴ってなかった事だけでも良かったと思うべきだろうか。確かに、フローネの領主であるアークからしたら自分の街を他の貴族たちに荒らされてお祝いのパーティーを開いたから許せ、は横暴な話しだろう。
 そもそもパーティーだって王室側がダンジョンから出た新たな素材の献上の催促とその後の取引の為にこちらとコネを持ちたいが為に勝手に開いたものだ。それを恩着せがましく言って来られれば流石に納得がいかないだろう。
 今回は王室側が下手に出た事と梨沙の為もあってパーティーに参加したが、フローネ領主と王室には確執があり、余り仲良くは無い。
 その確執と言うのも《若葉狩り》が関係している。
 王室は長年冒険者達の台頭に自分達の地位が危ぶまれるのでは、と言う危機感を持っていて、冒険者ギルドを権力と財力で押さえつけて《若葉狩り》に関して知っていながら敢えて放置していた。
 その影響を一番受けたのが世界有数のダンジョン都市であるフローネだった。
 冒険者が足りないが為に攻略よりも素材集めがメインになってしまったり、素材の供給が追いつかない不満がフローネに集まったのだ。

 それだけを聞けば何故フローネが責められるのか、と思うだろうがフローネはダンジョン都市であるが為にダンジョンから出る素材以外には昔から盛んだったリンド以外に何もない。その他は主に観光業を営んでいる。
 その為食料品や日用品の殆どを他領からの輸入で賄っていた為にダンジョン素材の枯渇はフローネの死活問題だったのだ。
 フローネはこの国において重要な資源を抱えている拠点で、王室側はこれ幸いとフローネを手に入れようとした。
 しかし、フローネは先日のワイバーン事件のようにいつ魔物が襲ってくるか分からないという危険を孕んだ土地でもあり、更に王都から遠く離れた辺境の地なのと大帝国と隣接している事、更には英雄が産まれた土地として神聖化されていて、国民達の反感を買い王室側としては取り上げたくても出来ない不如意な土地だった。

 だから、王室側はフローネを自分達で管理出来ないし、蔑ろにも出来ない為に表面上だけでも出来れば良くしておきたいと言う思惑がある。

「まぁ…爺さんに言っておくよ」

「すまんな、ジンクス」

 アークは怒りを隠していないし、殴った事は後悔はしていないようだが、領主としては間違っていたことは分かっているようで、珍しく少し落ち込んでいた。







 
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...